農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2013年2月7日

 林農相 多面的機能支払に面積要件 多面的機能を何と心得るのか

 林芳正農相が6日、民放のBS番組出演後に記者団に対し、政府・自民党が2014年度の導入を目指す「多面的機能直接支払い制度」の対象農家に面積要件を設けることについて「検討課題になる」と述べたそうである。番組中でも、民主党政権に交代する前の自民党政権下で導入した「水田・畑作経営所得安定対策」が面積要件を設けていたことに触れ、「最低何ヘクタールやっている方にお配りしようみたいなことを、かつて我々はやっていた。(それが民主党政権下で戸別所得補償制度になって)面積要件を全くなくして、全部(の販売農家に支払う)というところがあるので、そういうところを少し変える必要がある」と述べたという。

 多面的機能支払いで農相 面積要件も「検討課題」 日本農業新聞 13.2.6

 「多面的機能」を何と心得ているのだろう。まったく理解に苦しむ話である。戦後ヨーロッパ農業は、世界市場における競争に打ち勝つことをめざし、専ら効率化、経営集中(規模拡大)と専門化を追求してきた。その結果、過去においては農業活動がそれ自体として持っていた「非物質的なもの」、一方では「文化、、健康、美食、ツーリズム、教育法、子供の教育」、他方では「自然、環境、水、景観、均衡のとれた国土」を生産する役割を失った。「いまでは、調和のとれた景観、豊かな土地、清澄な水、生き生きとした国土、生存に適した環境、変化に富む自然を望むならば、我々はそれらを生産せなばならない」。ヨーロッパ農業政策は、単にヨーロッパ農業の食料生産の量的・質的改善のみならず、このよな非物質的富の生産を助成することによって、意味を持つことができる。

 これは、わが国農業基本法の一つの模範となった1960年フランス農業基本法と欧州協同体(EEC)共通農業政策創出の立役者であった元フランス農相・ピザーニが、当時のフランス政治研究所社会学者・エルヴィと共に、1996年2月12日 付のル・モンド紙に投じた一文からの抜粋である(Bertrand Hervieu and Edgardd Pisani,Quelle agriculture pour Europe,Le Monde,96.2.12,p.1-2)。これは、公的援助は農業の多面的機能―経済(生産)・環境・社会(雇用)機能―を果たす農業者に向けられるときにのみ正当化されるという1999年フランス農業基本法の基本理念に継承された。この非物質的富の生産は、むしろ規模拡大・専門化による効率的大量生産の対立項でさえあった。

 それなのに、何故面積規模が多面的機能支払の要件をなさねばならないのか。わずかな農地しか持たない農家、兼業農家でさえ、環境・雇用(維持・創出)機能は十分に果たし得る。1999年フランス農業基本法による多面的機能支払も、こういう機能を果たすことを約束する―そのような経営計画を作り、それを実行することを約束する―個別農家や農家集団に (のみ)払われたのであり、面積要件はまったくなかった(→北林寿信、「方向転換目指すフランス農政」 レファレンス 578(1999.3);フランスの新農業基本法ー資料ー レファレンス 551(1999.12);フランス農業基本法の制定ー背景と内容 農業構造問題研究 2000年No.2(2000.3)

 もし面積要件を加えるというなら、それは専ら生産機能のみを重視する旧来の農業政策―恐らくは規制緩和やTPP推進のイデオローグたちが固執する農業政策を、多面的機能支払の名を借りて延長・拡大するものにすぎない。