農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2013年3月4日

規制改革で「強い」稲作を 農村社会を崩壊に追いやる農政改革論の台頭

 日本がTPPl交渉参加に踏み切るのがほぼ確実な情勢となったきた。それととも、貿易自由化に絶える「強い農業」を築かねばならないという論調が勢いを増している。

 今日の日本経済新聞社説も、「農家の平均年齢は66歳に達している。耕作放棄地は40万ヘクタールと、農地全体の1割近くに及ぶ。このままでは自由化と関係なく、日本の農業は内側から崩壊してしまう。再生に残された時間は少ない」と危機感をあおり、「産業として伸ばす政策と保護政策を混同してはならない。安倍政権は、品質や安全性を高める日本の技術力を生かし、意欲ある若者が集まる成長産業へ変える方向に政策のカジを切るべきだ。それには輸出を支援するだけでなく、思い切った規制改革が欠かせない」と主張する。

 その際、特に大きな問題になるのは「農地の大きさがコストを左右するコメ」だ。「競争を避けて、小規模の兼業農家まで守る・・・護送船団方式を見直せば、競争で行き詰まるコメ生産者が出てくるはずだ」。「農地の規模拡大や集約を後押しするために、農地法は、企業による農地所有の解禁を含めて抜本的に見直す必要がある」という。

 成長のために規制改革が不可欠だ 日本経済新聞 13年3月4日

 日本の一流経済紙の社説としては恥ずかしいほどにお粗末だ。多数の小規模兼業農家による稲作は農村の持続と安定の基盤であるという、わが国稲作と農村社会に関する初歩的知識さえ欠いていると思わざるを得ないのである。

 2010年農業センサスによれば、日本の総農家数は252万8000戸ほどだ。そのうちの95万5000戸ほどが農業所得よりも農外所得も方が多い第二種兼業農家、89万6700戸ほどが面積で30アール、農産物販売額で50万円にも達しない「自給農家」である。両者合わせると、総農家数の73%を超える。農村集落 を構成する世帯の大半がこういう兼業農家・自給農家なのである。 こういう農家を排除しては、日本の農村社会は成り立たない。

 そして、最低賃金以下の低賃金雇用にもなかなかありつけない農村地域のこういう世帯の生活を支えているのが、大した手間も必要なく、三ちゃん(じいちゃん、ばあちゃん、母ちゃん)でも可能、その生きがいにもなっている米作りなのである。こういう農家が作る米は販売用よりも自家用、縁故米のほうが多いから、生産費が購入価格(消費者価格、農家販売価格ではない)を上回らないかぎり、米作りをやめないだろう。 その存続は「護送船団方式」とは何の関係もない。

 規制緩和も「規模拡大」や「農地集約」にはなかなかつながらないだろう。しかし、安倍政権誕生でにわかに高まる農業競争力強化のための規制緩和(法人参入、大規模化)論、まともに実施されれば、農村社会は安定を失い、存続さえ危うくなる。貿易自由化に待つまでもなく、「日本の『農村』は内側から崩壊してしまう」。