農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2013年4月23日

農水省 農地集積5ヵ年計画 農地を奪われ自給的農家、兼業農家はどうなる

 農水省が担い手への農地集積を進める一環として、5年程度の期間で分散した農地を解消する仕組みの構築など、現在の農地制度の改革を検討している、条件整備のために財源の投入も検討するということである。今日に予定されている産業競争力会議に具体的な対策を提示し、政府の成長戦略や2014年度概算要求への反映を目指す。皆川芳嗣事務次官が22日、東京都内で行った講演で明らかにした。次官は、「公正で公平な第三者がある程度の役割を果たしていくよう、権限を与える必要がある。・・・」と言う。

 5年で農地集積 農水省が制度改革検討 日本農業新聞 2013年4月23日 1面

 要するに、TPP参加をひかえ、「攻めの農林水産業」の構築に踏み出といいうことだろう。そのためのには、「それぞれの集落・地域において徹底的な話し合いを行い」作成する「集落・地域が抱える人と農地の問題を解決するための「未来の設計図」となる「人・農地プラン(地域農業マスタープラン)」の支援(「青年就農給付金」など)などの農地集積奨励策では足りない、そこから一歩踏み出し、ある程度強権的に農地集積を進めねばならないということだろう。

 そんなことになれば、今や多くの農村社会(コミュニティ)で圧倒的多数派を占めるに至っている自給的農業や兼業農家が自家用食料生産用地、所得補完的農業生産用地が奪われることになるだろう。自家用や直販所向けの小規模食料生産 、地産地消活動などに勤しみ、それを生きがいにさえしている多くのじいちゃん、ばあちゃん、母ちゃんは仕事と生きがいを失うだろう。その社会的損失がいかに大きなものであるかは、東日本大震災や原発事故で農地を奪われ、仮設暮しを強いられたお年寄りだけではない、多くの人々が精神的・肉体健康、さらには命まで奪われている現実がはっきり示している。

 生産的には取るに足りない自給的農家、兼業農家も、雇用の維持をはじめとする絶大な社会的役割を演じている。震災・原発事故は、我々に何よりもそれを知らしめたのではないか。それを知れば、これら農家の存続を助けるのは、決して「バラマキ」などではない。

 「EUの穀物生産や畜産が専業・準専業の農場に支えられているのに対して、日本の農業とくに水田農業は、北海道などを除くと、小規模な兼業地帯や中山間地域の高齢農家が優越している」と、「EUと日本のあいだに厳然と存在する農業の構造の違い」 を強調、ヨーロッパ型の政策の移入には慎重であるべきとする学者の論もある(生源寺慎一 日本農業の真実 ちくま新書 2011年5月 194頁)。

 しかし、ヨーロッパ(EU)の中でも最大規模をほこるフランスにおいてさえ、小規模経営(経営面積または家畜頭数から算出される経済規模で2万5000ユーロ≑300万円に届かない経営、経営耕地規模で言えば、およそ10f未満)がなお36%を占める。しかも、2000年にはこの比率は42%ほどであったから、それほど急速に減っているわけでもない(農業センサス)。そして、これらの経営は、普通の農業だけでは所得が足りず、日本と違って農外兼業機会も少ないないから、農産物加工、農場や市場での直接販売、農村ツーリズムなどの補完活動で不足を補い、あるいは生産物が高価で売れる有機農業などで存続を図っている。

 このように、農業構造は、日本と本質的に異なるわけではない。違うのは農業・農村政策だ。こういう農業者の存続をどれほど支援するのかということだ。日本は今、こういう、いわば”社会的農業”あるいは”人口・雇用維持農業”ともいうべき農業をあらゆる手立てで支援する政策を重視せねばならない。農地集積によって競争力はいかほどか強化されるかもしれない。しかし、それで外国と太刀打ちできるわけでもなければ、市場開放に伴う農業支援―恐らくは内外価格差を埋めるための直接支払も、納税者に文句を言わせないほどに減るわけでもない。