農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2013年4月25日

自民党参院選公約 「農業・農村所得倍増目標10カ年戦略」 大多数の農家には災厄でしかない

 「自民党の農林部会は24日午前の幹部会で、夏の参院選の公約に「農業・農村所得倍増目標10カ年戦略」を盛り込む方針を確認した。25日の同部会で正式に決定する」という(自民、参院選公約に「農村所得倍増戦略」盛り込む MSN産経ニュース 13.4.24)

 先に伝えたような(自民党参院選公約 幻影の「農業・農村所得倍増戦略)「農業・農村所得倍増戦略」という言葉は消えた。

  「石破茂幹事長は「戦略」の名称を重視し、当初案では「5割増」としていたのを「倍増」に変えるよう指示。ただ、「農家は信じてくれない」(農林族議員)との慎重論も強まり、倍増を目指すという意味合いを強めて「目標」を加えた。 農林水産省内にも「聞こえはいいが、実現は難しい」(幹部)との意見が強く、林芳正農水相と石破氏がこの日、国会内で会談。倍増の根拠などを調整し、呼び名に「目標」を残すことで折り合った」ということだ(農業所得、10年で倍増「目標」 自民、参院選公約原案 朝日新聞 13.4.24)。

 目標実現のために、今後10年で、「担い手」に全国の農地の8割を集約し、新規就農者を年間1万人から2万人に倍増させ、2020年までに農林水産物・食品輸出を倍増させ、飼料自給率を1.5倍に増やし、農業生産者が加工や販売まで展開する6次産業化を強力に進めるという。

 呼び方を変えたとはいえ、「倍増」という「聞こえはいい」言葉は残った。TPPに反対する農業者や農村住民をたぶらかそうという魂胆は見え見えだ。それでも、大流行りの「・・・詐欺」のように、きっと騙される人がいると思っているのだろう。

 「・・・」は詐欺です、騙されないようにしましょうと町中触れ歩く警察のように、またまた警告を出さねばならないのだろうか。

 第一に、倍増させるという「農業・農村所得」とは一体何なのか。この前は、農業・農外を含めた「農家所得」のことだろうと推測した。しかし、これはどうも違うようだ。

 「自民党の石破幹事長は札幌市で講演し、TPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉に関係なく農業の振興策を充実させるべきだとして、政府に対し農家が農業で得る所得を10年間で倍増させることを目標に具体策を検討するよう求めました」ということだから(石破幹事長 農家の農業所得10年で倍増を NHKニュース 13.4.22)、倍増させるのは農家所得ではなく農業所得だ。

 しかし、ここにいう「農家」とはどういう農家か。すべての農家の農業所得を一律に倍増させるというなら、現在(2011年)の2兆7800億円という日本全体の生産農業所得を、耕地、農家数が現在の1.4倍、1.8 倍もあり、農産物総合価格指数も今より20%(米価は60%)以上かった1978年の過去最高、5兆4706億円を超えるレベルにまで引き上げねばならない。輸出や6次産業化をいかに進めたとしても、そんなことが不可能なのは明らかだ。

 結局は、大して増えない、場合によっては減るかもしれない(価格は、特にTPPともなれば下落一方だから)所得を、ごく少数の農家で分け合う以外、「農家」の所得を倍にする方法はあり得ない(直接補助金を3兆円出すというなら話は別だが、そんなこと があり得るだろうか)。公約の恩恵にあずかる農家があるとすれば、それは30万にも満たない「担い手」農家に限られる。「担い手」に農地の8割を集約するというのはそういう意味だ。

 土地をなくした小規模農家は6次産業化の恩恵に浴することもできなない(大規模専業農家にとっては、加工や販売にまで手広げる余裕はないのだから、もともと6次産業化推進は意味がない)。

 この「戦略」は、大多数の農村住民の、TPP参加を待つまでもない「殲滅戦略」ということだ。「自由」と「民主主義」の看板が泣く。(TPP交渉への参加、憲法論議や靖国問題などを見ると、この看板自体が既に怪しげであるが)

 関連ニュース
 耕作放棄地を強制集約 農業強化で政府・自民方針 日本経済新聞 13.4.24