農業情報研究所意見・論評・著書等紹介201357

「担い手」 なんかやってられない?

 面白い表を一つ紹介します。これは、農水省の経営形態別経営統計(個別経営)(平成23年)のデータから作成した平均的農家と認定農業者(経営規模の拡大に関する目標=作付面積、飼養頭数、作業受託面積や生産方式の合理化の目標=機械・施設の導入、ほ場の連担化、新技術の導入などを記載した経営改善計画を市町村に認められた農業者)のいる農家(担い手農家の代表選手)の所得を比較したものです。農業所得は後者が前者を大きく上回りますが、農外所得を加えた総所得では大きな差はなく、認定農家では世帯員の数が多いので家族一人あたりの所得はほとんど違いません。

 

世帯員数

耕地面積

農業所得

総所得

総所得/世帯員

 

農業経営体全体の平均

全国

3.53

235.6

119.6

463.3

131.2

北海道

3.95

1968.2

581.2

719.6

182.2

都府県

3.52

183.7

105.9

455.7

129.4

認定農業者のいる経営体平均

全国

4.25

584.4

378.1

595.3

140.0

北海道

4.41

2376.2

741.1

873.3

198.0

都府県

4.24

384.1

337.3

564.2

133.1

(単位は面積がアール、所得が千円)

 一方では小規模兼業農家の安定的存続には経済的合理性があり、他方では敢えて規模を拡大して「担い手」になることへの経済的誘因が小さいということでしょう。自民党、政府、マスコミが主張する農地集約政策の強化が期する成果をあげられるでしょうか(自民党参院選公約 「農業・農村所得倍増目標10カ年戦略」 大多数の農家には災厄でしかない農水省 産業競争力会議に農地集積対策具体案を提示 「中間的受け皿」を通して「担い手」に農業強化策 農地集約へ本気を示せ(毎日新聞社説)農地集約へ政府は規制改革に踏み込め(日本経済新聞社説))。2004年の「担い手経営安定対策」以来の日本農政は基本的方向を間違えたようです。

 農政の方向は、国民が農業と農村に何を望むかで決められるべきものです。国民の関心が食料安全保障、食料生産の確保に向くのは当然ですが、それだけでなく、環境・景観保全、食品安全、雇用・人口・農村コミュニティの維持なども重要な関心事です。効率的な大規模農業だけではこれらの関心に応えられません。現下の農政の喫緊の課題は、農地集積ではなく、多様な農業の担い手の確保です。

 ついでに言っておけば、高齢化や跡継ぎ不在だけではなく、農業の自然・社会経済的条件不利、生産調整、人口減少、消費減少、都市化、鳥獣害などさまざまな要因で生じる耕作放棄地を効率第一の「担い手」におっつけるとは。担い手もやってられない?

 耕作放棄地再生・活用の最近の事例
 
耕作放棄地+担い手育成 セットで対策・支援 JAえひめ中央  日本農業新聞 13.5.6
 都市と農業 結ぶ拠点に日高で「朝採れファーム高麗郷」オープン(埼玉) 東京新聞 13.5.5
 農業で地域おこし「飛鳥熊レス村」5日開村(三重) 中日新聞 13.5.3
 高山市郊外3ヘクタールの耕作放棄地にカフェ−長期計画で体験農場設営へ 飛騨経済新聞 13.5.1
 47支局 農地と担い手のページ 奈良 全国農業新聞 14.4.26
 赤ジソで耕作放棄歯止め 余呉の農家が定植 京都新聞 13.4.26
 高山の市民団体、耕作放棄地の分譲レンタル開始−ヤギの草刈りサービスも 飛騨経済新聞 13.4.24
 共助で耕作放棄防げ 稲作農業者とJAなど協定 日本海新聞 13.4.22
 耕作放棄地の深刻さ浮き彫り――鳥取県内の農業委員会版「農地白書」シンポから 全国農業新聞 13.4.12
 東京・町田の耕作放棄地、市が仲介 3事業者が借り上げ 朝日新聞 13.4.10
 「地元の米を学校給食に」 農業5団体が耕作放棄地活用し稲作 紀伊民報 13.4.8
 [ぐるっと産地発] 荒廃地を農地に再生 神奈川・藤沢市 葛原地粉を作る会 日本農業新聞 13.3.31
   神奈川県藤沢市葛原の定年帰農者ら9人でつくる「葛原地粉を作る会」は、荒廃地を農地に復元して小麦や大豆を栽培し、学校給食への提供や直売所での販売につなげている。地域の仲間づくりを進めながら生産規模を拡大し、次世代への活動の継承を目指す。・・・
 石川で漢方自給 耕作放棄地で栽培 北國新聞 13.3.26
 参考書
 
耕作放棄地活用ガイド 考え方・生かし方・防ぎ方 現代農業 200911月増刊