農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2013年5月14日

大手マスコミ 農政・規制改革で農業構造改革をの大合唱だが 現実を見ない空論にすぎない

  中央・大手マスコミがこぞって、規制改革や小規模農家にも補助金を与える「バラマキ」農政を改めることで「農地集約」=規模拡大を急げと大騒ぎを始めた。いずれもTPP賛成派、農業界のTPP猛反対に危機感でも覚えたか、もっともらしい反論をしているつもりらしい。

 農地集約へ政府は規制改革に踏み込め(社説)日本経済新聞 13.5.2

 
農業強化策 農地集約へ本気を示せ(社説) 毎日新聞 13.5.6

 
週のはじめに考える大胆な農業改革に踏み出せ(社説) 東京新聞 13.5.12

 
農地の集約―構造問題にこそメスを 朝日新聞 13.5.13

 しかし、かれら(大新聞の論説委員たち)の言いぐさには、いかなる根拠もない。かれらは、新自由主義の論客たちが吐く言葉を、何の反省もなく反復する空論家にすぎないようにみえる。

 みな同じようなものだから、ここでは、上記のなかでも最新の朝日新聞の論調を取り上げるにとどめよう。念のために全文を掲げる。


 農林水産省が水田を念頭に、農地を集約して経営規模を大きくする対策をまとめた。

 都道府県ごとにある農業公社の役割を改め、農地の「受け皿機構」にする。これまでは売買での集約に主眼を置いていたが、まずは機構が農地を借り受け、区画を大きくする基盤整備もして貸し出す。

 特に耕作放棄地については、所有者すらわからない場合、一定の手続きに従って利用権の設定を進めていく。

 ざっとそんな内容だ。面積など具体的な目標を掲げて取り組むという。

 規模を大きくすれば生産コストが下がり、安く売ることができる。低迷する国内のコメ消費をてこ入れし、輸出を伸ばしていく可能性も広がる。

 ただ、これで農地の集約が本当に進むのか。基盤整備に名を借りた公共事業を増やすだけに終わらないか。心配である。

 コメでは、経営規模の拡大が長年の課題だ。成果があがっていないのはなぜなのか。

 たとえば、ほぼ市町村ごとに置かれている農業委員会のあり方だ。農地の貸し借りや売買に大きな権限を持つが、恣意(しい)的な農地転用など、不透明な運営が批判されてきた。どこをどう改めていくのか。

 農家に対する経営所得安定対策(旧戸別所得補償制度)も見直しが欠かせない。

 基本的に、零細な兼業農家でも水田の面積に応じて現金を受け取れる今の仕組みは、農地を売ったり貸したりすることへの妨げになっている。

 自民党も、民主党が決めたこの仕組みを「バラマキだ」と批判してきた。なぜ放置しているのか。

 生産コストを下げるには、やる気のある農家や企業が、創意工夫を重ねながら自由に生産できる環境が不可欠だ。コメ消費の低迷にあわせて作付面積を抑える生産調整(減反)の見直し・廃止も避けられない。

 農水省が、こうした構造問題にメスを入れないまま、「攻めの農林水産業」を掲げても、空虚に響くだけだ。参院選での農業票を意識する自民党に配慮しているのなら、本気度を疑われても仕方あるまい。

 日本が交渉に加わる環太平洋経済連携協定(TPP)では、農業、とりわけ高関税で守ってきた米作への影響が必至だ。一定の対策と、それに伴う予算が必要になるだろう。

 しかし、農地の有効活用が進まなかった過去の対策への真剣な反省なしでは、納税者の納得は得られまい。


 「規模を大きくすれば生産コストが下がり、安く売ることができる」、「低迷する国内のコメ消費をてこ入れし、輸出を伸ばしていく可能性も広がる」

 これは本当だろうか。下の図は、都府県の作付面積規模別の米60キログラムあたり生産費を見たものだ。面積の増加とともに生産コストは確かに下がる。しかし、その下がり方は5f規模を超えるときわめて緩慢になる。5−7fで12,406円が最大規模の15f以上でも10,959円、1,500円程度下がるだけだ。少なくとも日本の水田農業では、むやみに規模を拡大しても、生産コストが意味あるほどに下がるわけではない(さまざまな理由があろう。日本では、平地稲作地帯といえども、10fもの田を連たんする一枚に集めることは難しい。大規模化で作業の適期を逸する場合も増える・・・)。

 最大規模でも11,000円の生産コスト、「低迷する国内のコメ消費にてこ入れ」などどうしてできるのか(コメ消費の低迷は価格がいからだけではないが)。外米輸出価格は、最も高い米国産でもトン650ドル程度、60`で4000円にも届かない。価格競争では「輸出を伸ばしていく可能性も」広がるはずがない。

 そういうことだから、「やる気のある農家や企業が、創意工夫を重ねながら自由に生産できる環境」ができても、「やる気のある農家や企業」の生産コストはそうは下がらない。少なくと水田農業に関するかぎり、そもそも、「やる気のある農家や企業」が成功する条件がないということである。実際、現在の「やる気のある農家」を代表する「認定農業者」も減り続けるありさまだ(認定農業者 1年間で8953人減少 12年3月末 60歳以上は4割超に 日本農業新聞 12.5.14)。だから、「コメでは、経営規模の拡大が長年の課題だ。成果があがっていない」のである。成果が上がっていないのは、規制や農業委員会が悪いからではない。

 「零細農家」への「現金」支給についてはどうか。これは生産調整参加販売農家への10アール当たり1.5万円の直接支払交付金を指すのだろうが、全農家の半分以上を占める1f未満の農家は、作付面積が生産調整で60アール未満として、、受け取り額は年間9万円未満にすぎない。この程度の「現金」が「農地を売ったり貸したりすることへの妨げになっている」とは、誇張以外のなにものでもない。

 「コメ消費の低迷にあわせて作付面積を抑える生産調整(減反)の見直し・廃止も避けられない」というのもわけが分からない。生産調整などやめて「やる気のある農家や企業」 に思う存分作らせよということか。それで生産コストが60`4,000円に下がるというなら外国への大量販売もできるかもしれないが、まずは国内市場に米がだぶつくだけだろう。

 いまは、規模拡大=生産効率改善よりも、多様な農業の多様な担い手の確保にこそ全力をあげるべきときだ。