農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2013年11月26日

政府・与党 米政策交付金単を決定 飼料用米助成厚くも前途多難な主食用米需給調整

 政府・与党が25日、経営所得安定政策(戸別所得安定対策)や米政策の見直しに関し、交付金単価を決めた。

 この見直しの焦点は、国よる主食用米の生産数量目標の設定・配分(生産調整)をやめるかどうかということだ。生産調整の目的は、減り続ける主食用米の消費に合わせて生産数量目標を設定・配分することで、生産過剰がもたらす米価の低落を防ぎ、稲作農家の所得を維持することにあった。今はかつてのような強制的「減反」はなく、生産調整に協力するかどうかは農家が自由に選択できる。非協力農家が多ければ生産過剰→米価下落を免れないことになるが、民主党政権下の09年、協力農家に10アール当たり1万5000円の直接支払いを行う「戸別所得補償」制度が導入して以来、この選択的生産調整制度は順調に機能してきた。

 ところが、政府・与党は何が問題というのか、突如、その見直しを言い始めた。考えられる言い分を私が代弁すれば、主食用米の消費が今後も減り続けるとすれば(これは必ずしも確かなこととは言えない。人口減少という要因はあるが、一人当たり消費の減少が今後永遠に続くとは限らない)生産調整も無期限に続けねばならず、そのために必要な財政負担は膨らむこともあり得る。こんな制度を「納税者」いつまでも許してはおくだろうか、といったところだ。

 しかし、これはずっと前から言われていたことだ。今なぜというなら、こういうバラマキ政策が農家の「やる気」、自助努力による生産性向上→所得増大を阻んでいるという首相を筆頭とする「改革」派の台頭以外に考えられない。例えば自民党の石破幹事長、訪問先の秋田県大仙市で「コメの生産調整(減反)を改めることでコストが下がり、農家所得が増えるというプロセスを明確に示したい」と述べたそうだが(⇒「減反廃止で所得向上」 石破氏来県、コメ政策で強調 秋田さきがけ 13.11.25)、これは稲作農業の現実を知らない空論家だけが言えることだ、と農水省も分かっているだろう。

 ともあれ、政府・与党は農水省の提言を基本的には受け入れ(⇒農水省 飼料用米に数量払いで減反無用に 水田経営安定政策見直しのたたき台,13.11.1)、1万5000円の直接支払交付金を2014年度から7500円に半減して17年産まで続ける一方、飼料用米への助成を拡充、これによって「主食用米の需給を調整するとともに、農家の努力に応じて所得を確保できる仕組みを目指す。この定着状況をみながら、国による生産数量目標の配分を、5年後をめどにやめるかどうかを判断する」(日本農業新聞 13.11.26 1面)という。

 そして、飼料用米への助成については、地域の主食用米平年収量(生産数量目標を農家に配分する際の「配分単収」)を確保すれば現行どおり10アール当たり8万円、収量がこれを上まわれば助成額を増やし最大10万5000円、下回れば減らし下限を5万5000円にするという。

 そのほか、農業の多面的機能に着目した「日本型直接支払」―「農地維持支払」?と「資源向上支払」?―についても、田は都府県で10アール当たり5400円、北海道で4200円、畑は都府県で3440円、北海道で1480円、草地は都府県で490円、北海道で2500円を払うことを決めたとのことだ。

 これらが全体として、国の財政負担や各地の農業、個々の農家、農業集落にどんな影響を与えるのか、農政学者、農業経済学者の早急な専門的評価をお願いしたい。

 私がここで言えるのは、今までに述べたことに重なるが、飼料用米生産の助成の問題についてである。

 第一に、決められたとおりの助成で、果たして生産調整の代役を果たせるほどに飼料用米生産への転作が進むのか。10アール当たり800sほどの現在の最大飼料用米収量を 想定、この飼料用米に10アール当たり10万5000円が支払われる としよう。この場合、トン当たりの直接支払は13万1250円(1000/800×105000)となる。従って、農家は収穫飼料用米1トン当たり13万円ほどを 直接支払で手にすることになる。この飼料用米は、基本的には(特別の契約がないかぎり)輸入トウモロコシと同じ価格で売らねばならない。 米国トウモロコシ価格が大きく低下している今、これはせいぜい、トン2万円ほどだろう(2008〜2012年の平均輸入価格はトン2万3443円)。直接支払と合わせて15万円ほどである。

 ところで、生産調整協力へのメリット措置の削減ないしは将来の廃止で主食用米価格が60s1万円にまで下落したとしても、主食用米のトン当たり価格は1000/60×10000=16万6667円である。 主食用米価格のここまでの低下は考えにくいから、実際には主食用米価格は直接支払を合わせた飼料用価格を大きく上まわるだろう。あるいはもっといトウモロコシ価格を想定したのかもしれないが、最高時の瞬間トン3万円を想定しても( このレベルでの安定は非現実的だが)、飼料用米による農家手取り価格は16万円どまりである。これで飼料用米転作が進むのだろうか。

 それでも、この助成のため財政負担は途方もなく増える恐れがある。10アール当たり平均8万円が支払われるとすると、転作面積が10万f(平均収量を10アール当たり530sとして収穫量は53トン)ならば財政負担は800億円、20万fなら1600万円となる。農水省は飼料用米需要は450万トンにまでなると見込んでいるそうであるが、その助成のための財政負担はとんでもない額になるだろう。

 さらに、転作飼料用米が地域限定的(耕畜連携)でなく全国的に流通することになれば、生産から消費までの全過程で主食用米や加工用米と峻別する厳格な行政介入が必要になる。

 最後に、毎年1500万トンほどのトウモロコシを買ってくれる日本が大量の補助金を使って輸入代替飼料用米の増産に乗り出せば、アメリカ農業界の最大勢力であるトウモロコシ農家が黙っているはずがない。農水省も政府・与党も、アメリカ農家の間に広がる不穏な空気を知っているのか、知らないふりをしているのか。飼料用米増産の最大の障害の一つはアメリカとの貿易摩擦である。

 これらは、飼料用米政策にかかわる未だ未解決の古典的問題(荏開津典生 「転作政策と飼料米政策」 土屋圭造編『農産物の過剰と需給調整』 1984.3 農林統計協会)にほかならない。飼料用米転作による需給調整に成功の見込みはない。