農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2013年12月2日

中央大手マスコミ またも「バラマキ」農政批判の大合唱 日本水田を壊滅させる気か

 「コメの競争力を強められるかという目線でみれば、減反廃止の改革は「看板に偽りあり」と言わざるをえない。例えば、減反補助金を減らすというが、実態は民主党政権が作った補助金をやめて、「安倍政権の補助金」につけ替えるだけだ。これでは週末農業の小農家も超高齢農家も、補助金に期待して農地を手放さないだろう。本来はそういう農地を放出させ、若い担い手に集約する。そんな流れをつくるべきなのだ。そのためには米価を下げ、それに耐えられる農業者をふるいをかけて育てる必要がある。だが今回、エサ米への転作奨励金が拡充されれば、主食用米の生産は抑えられ、コメの値は下がりにくくなる」((波聞風問)減反廃止 農政大改革、看板に偽りあり 原真人 朝日新聞 13.12.1)。

 「減反と高い関税で米価を下支えしてきたことが、消費者のコメ離れに拍車をかけた。じり貧に歯止めをかけるには、減反廃止、関税引き下げへとかじを切り、中核的な農家に絞って所得補償をする仕組みに改めていくしかない。私たちは社説でそう主張してきた。その第一歩は、「消費見通しに合わせて生産を抑える」という従来の発想から抜け出すことだろう。では、農林水産省は路線を転換したのか。答えは「ノー」である」((社説)減反「廃止」 これで改革が進むのか 朝日新聞 13.11.29

 「政府が5年後をめどにコメの生産調整(減反)を廃止する方針を決めた。コメ生産に競争原理を持ち込むことで、意欲ある農家の経営規模拡大を促す狙いがあるはずだ。しかし、一方では競争力強化に逆行しかねない補助金も拡充される。これでは、何を目指しているのか分からない。国内農業を自立させるためには、整合性のある政策で将来像を示すべきだ」社説:減反政策の廃止 補助金で改革妨げるな 毎日新聞 13.12.1)。

 「政府はコメの生産調整(減反)を2018年度に廃止する方針を決めた。減反は都道府県ごとに新設する管理機構を利用して農地の集約・大規模化を進める政策と矛盾する。廃止して当然だ。しかし、減反廃止にともなう補助金の見直しは幅広く農家を守るこれまでの発想から抜け出していない。いくつも課題が残る。政府は減反に参加する農家に一律支給する現行の補助金を段階的になくしても、農家の所得は全国平均で13%増えるという試算を示した。からくりは増産する家畜飼料米への補助拡充や、農地維持の名目で支給する補助金にある。農業改革の目標は農家が補助金に頼らず、自立できる競争力を身につけることにあるはずだ。本来の趣旨に沿うよう、政府案は再度の見直しが求められる」(助金頼みから脱してこそ農業改革だ 日本経済新聞 13.11.28)。

 「日本農業の基本政策として40年以上も続いてきた減反だが、兼業・小規模農家の保護が、結果的に農村の疲弊を早め、耕作放棄地を増やしてきたのも事実だ。廃止は時代の要請でもあり、実施に移す中で再び農家の横並び保護策になるようでは本末転倒だ」(減反廃止と補助金 新たなバラマキとするな MSN産経ニュース 13.12.1)。

 政府・与党の米生産調整見直しの動きを受け、中央大手紙の「バラマキ農政」批判の大合唱が始まった。要するに、「減反廃止」によって自由競走が促され、小規模農家が駆逐されて農地が「やる気」のある農家(企業)に集積、稲作の競争力強化が進むと思いきや、この見直しは小規模農家にも行きわたる補助金を「つけ替えた」だけで、競争力強化、「農家が補助金に頼らず、自立できる競争力を身につける」ことにはつながらないというのである。

 米価引き下げと補助金バラマキを廃することで小規模農家を犠牲とする規模拡大が進めば、日本稲作の生産コストが削減され、米が安く売れるようになり、低迷する国内米消費へのテコ入れが進み、輸出の可能性も広がり、稲作農村の疲弊と耕作放棄地増加にも歯止めがかかる。こういう主張がいかに無責任で「現実を見ない空論」であるかについて、既に再三指摘してきた。

 大手マスコミ 農政・規制改革で農業構造改革をの大合唱だが 現実を見ない空論にすぎない,13.5.14
 政府・与党 農政改変に着手 生産調整、戸別所得補償・・・廃止 大規模経営こそ崩壊の危機,13.10.25
 既発表記事「政府・与党 農政改変に着手・・・」付表の訂正 大規模米農家の所得の4〜5割が所得補償・水田活用補助金,13.10.31
 農政「改革」 政府の尻叩く中央大手マスコミは現実知らずで筋違い,13.10.27

 それにもかかわらず、いかなる反省もなく、まったく同じ主張が繰り返される。ならばこちらも、同じことを繰り返すしかない。

 第一に、日本の土地条件では、生産費を大きく引き下げるような規模拡大はそもそも例外的にしかあり得ない。これ以上米価が下がれば、ほんどの稲作農家がコスト割れとなり、競争力強化以前に潰れてしまうだろう。

  第二に、最大規模(下表の20f以上)の水田作農家でも、その農業所得、総所得の50%以上を米の戸別所得補償と水田活用(転作)所得補償に頼っている。米価が下がった上にこれら補助金がなくなれば、最大規模農家といえどもやっていけるはずがない。

延べ作付面積規模別農家所得と補助金(万円)

(農水省 平成23年 農業経営統計調査 個別経営編)

  〜0.5ha 0.5〜1.0 1.0〜2.0 2.0〜3.0 3.0〜5.0 5.0〜10 10.0〜15.0 15.0〜20.0 20.0〜
農業所得(A) -10.1 1.9 49.5 106.5 200.8 368.7 633.2 1093.3 1406.3
総所得(B) 422.2 422.6 433.4 438.1 526.3 744.3 795.7 1156.7 1608.9
米の所得補償(C) 2.7 7.0 14.7 24.6 42.6 57.9 119.6 156.5 214.2
水田活用所得補償(D) 1.5 4.2 7.5 18.5 36.3 62.5 175.0 302.1 554.7
C+D 4.2 11.2 22.2 43.1 78.9 120.4 294.6 458.6 768.9
C+D/A(%)     44.8 40.5 39.2 32.7 46.5 41.9 54.7
C/A(%)     29.7 23.1 21.2 15.7 18.9 14.3 15.2
C+D/B(%) 1.0 2.7 5.2 9.8 15.0 16.2 37.0 39.6 50.6

 つまり、米価が下がり、補助金が減れば、競争力強化どころか最大規模農家さえ潰れ、稲作農村の疲弊と耕作放棄地の増加に拍車がかかるだけである。

 これは別に驚くべきことでも、日本に限ったことでもない。EUは主要作物の関税や価格支持政策を維持した上に、時に農家所得の100%にも達すると直接支払補助も続けている。アメリカも穀物農家を主な対象に、毎年100億ドル(1兆円)を超える連邦直接支払を行っている。EUでも、アメリカでも、いまどき「補助金に頼らず、自立できる」農家など滅多にないのである。この意味でも、各紙の主張は現実離れしている。