農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2014年6月28日

「新生活を始めるための支援が絶対的に足りず」 絶望感募らせる原発事故被災者

 昨日の東京新聞の特報記事、「世間の忘却と反比例するように、苦悩が深まっている。福島原発事故の被災者たちだ。自殺を防ぐ電話相談「福島いのちの電話」には昨年、過去最多の相談があった。自殺の増加にも歯止めがかからず、アルコール依存症も深刻化している。仮設住宅での孤独死も後を絶たない。被災者たちの心の疲れはもはや限界に近づいている。閣僚の「金目」発言は、そうした心にまた一つ重荷を加えた」と伝えています。

 心の疲れはもはや限界福島原発事故の被災者たち(特報) 東京新聞 14.6.27 朝刊

 どうしてこんなことになるのか。佐藤彰彦福島大特任准教授(地域社会学)は、 「原発事故は人びとから住み慣れた土地や仕事を奪い、少なからずの家族がバラバラになって避難せざるを得なかった。しかも住み慣れない環境になじみ、新生活を始めるための支援が絶対的に足りず、絶望感を募らせる人たちを増やしてしまった。・・・『被災地の問題をカネで解決できる』と考えてはいけない」と言っているそうである。

 確かにそのとおりだ。私自身、とりわけ農業を生業とする人びとについて 、望ましい選択肢の一つに「移住」を加え、それを積極的に支援すべきだと言ってきた。生産される農産物や食品の放射性物質汚染はある程度抑えることが可能だが、農地除染と農地生態系回復は極めて困難で健全な農業は望めず、農家家族(子どもや婦人)の被ばくの恐れは家族をバラバラにすることも多いからである(放射能汚染がつきつけた食と農への難問──土壌生態系の崩壊は何をもたらすか 世界(岩波書店) 2012年2月号;原発災害による農家の痛手はどうしたら癒せるのか(科学時評) 『科学』 2012年2月号)。何のために福島で農業を続けねばならないのか、と。

 しかし、これは今に至るも全く聞き入れられず、専ら福島産品の安全性の強調→「風評」払拭による福島農業の「再興」が叫ばれるばかりである。もはや、原発事故ではなく、「風評」だけが問題であるかの如くである。

 農家だけではない。バラバラになって避難している「少なからずの家族」が恐れる被ばくによる健康影響自体が否定されようとしている。6月26日に開かれた福島県や原発周辺住民の健康管理のあり方を検討する環境省専門家会議(座長:長滝重信長崎大名誉教授)では、福島第一原発事故の放射線被ばくによる死亡や急性健康影響はない、今回の事故による放射線に起因する住民とその子孫に対する健康影響が増加する見込みはなく、最も重要な健康影響は心理的なものである、などとする国連科学委員会最終報告者の評価を重視する方向が強まったという(国連科学委の評価重視 被ばく線量の健康影響で 福島民友 14.6.27

 家族がバラバラになって避難している「科学的」根拠はないのだから、「新生活を始めるための支援」の根拠もない。「心理的」負担に対する慰謝料を払えば問題は「解決できる」ということになる。国にとっても、県にとっても、東電にとっても、被災者を追い込んでいる問題自体が実在しないのである。カネをもらっている被災者をいい身分だとねたみ、イジメさえする避難先の住民もいるとも聞く。彼らにとっても、問題は存在しないのである。だから、原発再稼働にも何の問題もないことになる。

 「絶望感を募らせる人たち」は増えるばかりだ。私自身も、とっくの昔に絶望している。