農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2014年9月24日

酪農経営のコスト高 今のい飼料価格は穀物価格高騰のためではない 円安が最大の要因

 中央酪農会議(一般社団法人)が東京新聞(私が見るかぎり。他の新聞にも出ているかもしれない)の第12面に、「コスト高が酪農経営を直撃―減少続く牛乳生産―」のタイトルで全面広告を出している。その中で、資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏が「安い穀物の時代は終わった」と題し、コスト高の最大要因である配合飼料価格について、次のように言っている。

 「配合飼料の中心となるトウモロコシ価格は、米国での増産によって今年4月以降下がっている。だが長い目で見れば原油価格が1ドル=100ドルと高騰しているために1次産品である穀物価格も大きく上昇。安い穀物の時代は終焉したといえる」。

 この言い方には大いなる疑念を覚える。そもそも、原油価格と穀物価格にそんな直接的関係があるのだろうか。かつては石油価格高騰が食料・飼料作物を原料とするバイオ燃料の増産をもたらし、それが食料・飼料の高騰につながるという議論や現実があった。しかし、いまやバイオ燃料生産=需要は完全に頭打ち、将来長きにわたり食料価格高騰の原因になるとは言えなくなっている。少なくともトウモロコシ価格高騰の一因とされた米国のトウモロコシ原料エタノールの生産は、エタノール需要の壁にぶつかって、原油価格の動向と無関係に停滞したままだ(エタノール・トウモロコシ先物相場とエタノール生産量の推移バイオ燃料をめぐる国際動向:2013年 バイオマス白書2014 サイト版(本版))。

 原油価格との関連はここではおき、穀物、とりわけトウモロコシの価格を直接左右するその需給関係から今後の価格動向を推測してみよう。筆者も、気候変動の作物生産への悪影響や予想される人口増加からくる将来の穀物価格高騰を恐れないではない。しかし、それが起きるのはいつのことか。「長い目でみれば」と言うが、それはどれ位長い目なのか。酪農経営の動向と戦略に直接かかわるのは直近、長くても5年ほど将来の価格動向だろう。しかし、気候変動が米国、中国などのトウモロコシの世界的主産地に決定的ダメージを与えるのは、もっと先のことだろう(天候異変による一時的大変動はあり得るが)。筆者は、世界的大増産を受けての現在の穀物価格急降下(主要穀物・大豆の国際価格の推移)はいずれ反転はするだろうが、今後10年、基本的には落ち着いたレベルで推移すると見る。  

 というのも、2000年後半からの価格高騰が世界的大増産の波を生み、世界の穀物供給力は飛躍的に増加しているからだ(下図参照)。飼料用需要の増大はあっても、2007-2008年に起きたような需給逼迫は考えれられない。

 

  FAO(国連食糧農業機関)は今月、2013年、2014年の記録的穀物生産で2015年季末の世界穀物在庫がに6億1600万トン、過去15年間の最高に達するだろうと発表した。2014/15年の在庫率(消費に対する比率)は24.7%で、世界的食料危機時の2007/08年に記録された18.4%を6%以上上回る。在庫が最も増えるのは飼料として利用されることが多い粗粒穀物(トウモロコシ、大麦、ソルガム等)で、中国や米国の記録的トウモロコシ生産を受けて11%増加、2億4800万トンに達する。小麦在庫も、中国、インド、ロシアなどの生産増加で8%増加、1億8800万トンになるという。

 世界穀物在庫が15年来の最高に 世界食料価格指数は4年来の最低 日本のみが高騰は何故?,14.9.13

 今年発表されOECDとFAOの手になる農業10年見通し(OECD-FAO Agricultural Outlook 2014-2023年)は、「見通し期間の最初の2年、粗粒穀物の価格は米国、ロシア、アルゼンチンの余るほどの生産で相当大きく下がる。平均的天条を前提にすれば、代表的なトウモロコシの湾岸米国価格は2010-12年より32%低い175ドル/トンと予想される。その後リカバーし、予測期間の残り半分以上にわたり安定する。予測期間末には名目で225ドル/トン、実質で160ドル/トンになると予測され、、前回見通しより大きく下がる」と言う。

 http://www.oecd.org/site/oecd-faoagriculturaloutlook/publication.htm

 8月現在、この輸出価格は176ドルに下がっている。2年前、2012年8月の331ドルに比べれば50%以上の下落だ。そして、2016—2023年、225ドル程度で安定するとすれば、トウモロコシ価格が以前のような高騰レベルに上がることはない。国際穀物価格を前提にするかぎり、酪農経営を直撃するコスト高の重みは、今後10年、大きく軽減するはずだ。

 だが、実際にはそうはならない。配合飼料の農家購入価格は、いまやトウモロコシ国際価格とほとんど無関係だからだ(下図)。

 

 米国輸出価格は2013年半ばまでの300ドル/トンから175ドル/トンにまで下がった。ところが、配合飼料農家購入価格は上がりっぱなしだ。国際価格ではない、円安その他の要因が今日の飼料高の要因なのである。これらの要因が取り除かれないかぎり、酪農経営はコスト高の苦しみから解放されない。

 関連
 Commodities: Cereal excess,FT.com,14.9.23
 Cereal excess,Financial Times,14.9.24,p.7