ここでも「風評被害」だけが問題なのか 福島第一原発トリチウム汚染水処分政府小委員会

農業情報研究所意見・論評・著書等紹介原子力関係 2016年11月12日

 昨1111日、多核種除去設備(ALPS)でも取り除くことができない放射性トリチウム(三重水素)が含まれるためにタンクに溜まりつづける福島第1原発汚染水の処分に関する政府小委員会の初会合が開かれた。

 <福島第1>トリチウム水処分 慎重論相次ぐ 河北新報 16.11.12

 この問題に関しては経済産業省資源の専門家会合が今年5月、薄めて海に放出するのが最も短期間に低コストで処分できるとする報告書をまとめており、原子力規制委員会も海洋放出の必要性を強調してきた。しかし、海洋放出には漁業関係者が強く反対しており、最終的処分の方法についてはなお結論が出ていない。

 規制委員長が福島第1視察 汚染処理水、海洋放出の必要性強調 日本経済新聞 16.2.13

 福島・汚染水:海洋放出が最も短期間で低コスト 毎日新聞 16.4.19 

 <福島第1>トリチウム海洋放出 議論慎重に 河北新報 16.4.21

 「漁業者を無視してる」 福島県漁連、海洋放出に反発相次ぐ 福島民友 16.4.2

 海洋放出「最短最安」=福島第1、トリチウム汚染水-エネ庁 時 16.5.27

 第一原発トリチウム 海洋放出認めず 県漁協組合長会議 福島民報 16.4.28

 トリチウム海洋放出に反対=エネ庁報告書案に福島県漁連 時事 16.5.31

 トリチウム処分で委員会 汚染水対策委 海洋放出の是非議論 福島民報 16.9.28

 そこで政府の汚染水処理対策委員会は9月、検討課題を浄化処理後に残るトリチウム水の処分方法に絞り込む小委員会を設置、その初会合にこぎ着けたわけだ。

 初会合では、政府担当者が別の検討会が6月にまとめた処分方法に関する技術的な評価結果を説明、海洋放出のほか、地層注入、蒸発などの処分案の概要を報告した。東電幹部も出席、トリチウムが自然界にも存在することや、汚染水浄化後に残るトリチウムの濃度が低下傾向にあるデータを示した。

 これに対し、「委員の有識者からは「風評被害が懸念される」などと慎重な検討を求める意見が相次いだ」。

 「関谷也東大大学院特任准教授(災害情報学)は、地元の漁業者らが反発している海洋放出を念頭に『福島の漁業はまだ試験操業の段階で(海産物が)通常の物流ルートにのっていない。東北の漁業が特殊な状態にあることを認識すべきだ』と強い懸念を示した。
 小山良太福島大教授(農業経済学)も『全部(の処分方法が)風評になると思う。放射性物質をどうコントロールするのか、説明が重要になる』と強調した。
 東北放射線科学センター(仙台市)の高倉吉久理事は『外国で東北の海産物の輸入規制が続いている。風評の影響を考えると、委員会として結論を出すのは非常に難しい』と述べた」とのことだ。

 漁業者のみならず、福島県民をはじめとする多くの国民の懸念に応える極めて常識的な意見と思われる。しかし、ここでも「風評被害」を前面に押し出しての議論であることに不安と不満を覚える。

 海洋放出などの処分ができず、汚染水が溜まり続ければ、福島第一原発事故処理(収束)・廃炉事業は間違いなく破綻するだろう。石棺化してさえ、汚染水は漏れ出し続ける。まさにチェルノブイリがそうであるように。そのりスクと比較考量しなければ、処分方法の適否は判断できないはずだ。そのとき、汚染水処分のリスクが「風評被害」にとどまるならば、それは海洋放出などを否認する確かな論拠となり得るのだろうか。小委員会も、このままでは海洋放出に向けた流れを止めることはできないだろう。

 だからといって、私に妙案があるわけではない。こんな難題を突き付けられた委員諸氏に同情申し上げる。

 ここで言いたいのは、何もかも「風評被害」で片づける福島第一原発後の風潮はなんとかならないのかということに尽きる。

 英語にはない「風評被害」という言葉、「日本には前からあった言葉だけど、福島事故の後、特殊な意味づけで利用されていると思います。この言葉で、言い表した気になって、本当の問題を考えない手段になっている」(事故30年 チェルノブイリからの問い 6回  教室で「放射線」を語れない——外国語に訳せないいくつかの理由  尾松 亮 世界 201610月号)。