農畜産物風評被害はどれほど深刻なのか 福島県資料から何を読み取る? 復興戦略の見直しが必要
今日の日本農業新聞が、「福島産の農畜産物 震災後市場価格戻らず」と題し 風評被害がなお残ると強調している。復興庁が24日に開いた「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」に福島県が提出した「福島県における風評に係る最近の動向(農林水産物)」に含まれる「主な農産物価格の推移」から、
「震災前の桃の平均価格は1㌔439円(全国比44円安)だったが、震災年(11年)は222円と半値に暴落した。16年には399円に上向いたが、全国に比べると低迷を脱し切れていない・・・・。
和牛肉の平均価格は震災前に全国平均と比べ1㌔当たり76円安だったのに、震災年には361円安と大きく下落。近年は全国的な高値を背景に価格が上昇しているが、全国価格と比べると16年も242円安と価格の開きは鮮明だ。
米の相対取引価格(農水省統計から県推計)も、震災以前は60㌔当たりで全国比204円安だったが、16年は714円安と差が開いたままだ」と、風評被害の深刻さを強調している。
日本農業新聞 17年2月25日 2面
これには大いに疑問がある。風評被害が全くないと主張するつもりはないが、それが福島農業の復興を妨げる最大の要因だ、福島農業復興の鍵は風評払拭が握ると言い切れるほどに深刻なものとは言い切れないからである。
福島県が出す価格データを改めて検証してみよう。震災前のデータとして2010年だけを取るのは危険だから2008年、2009年の数字も加えた。県が推計したという米の相対取引価格については推計方法が分らない(対象となる米の産地・銘柄など)ので、中通り・コシヒカリの各産年価格(2016年は12月の価格)で代表させた。以下の表のとおりである。
桃(東京都中央卸売市場 円/㎏)
2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | |
福島 | 358 | 380 | 439 | 222 | 340 | 356 | 358 | 429 | 399 |
全国 | 428 | 423 | 483 | 406 | 455 | 478 | 469 | 527 | 514 |
対全国比・% | 84 | 89 | 91 | 55 | 75 | 75 | 76 | 81 | 78 |
きゅうり(同)
2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | |
福島 | 234 | 248 | 268 | 269 | 189 | 300 | 316 | 303 | 294 |
全国 | 281 | 266 | 281 | 286 | 282 | 304 | 320 | 324 | 334 |
対全国比・% | 83 | 93 | 95 | 94 | 67 | 99 | 99 | 94 | 88 |
米相対取引価格(円/60㎏)
08年 | 09年 | 10年 | 11年 | 12年 | 13年 | 14年 | 15年 | 16年 | |
コシ・中通り(A) | 15131 | 14149 | 12486 | 14181 | 15854 | 12906 | 9829 | 12046 | 13639 |
全銘柄平均(B) | 15161 | 14470 | 12711 | 15215 | 16501 | 14341 | 11967 | 13175 | 14315 |
A/B(%) | 100 | 98 | 98 | 93 | 96 | 90 | 82 | 91 | 95 |
牛肉(東京都中央卸売市場 円/㎏)
2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | |
福島 | 2160 | 1779 | 1708 | 1266 | 1359 | 1655 | 1685 | 2174 | 2447 |
全国 | 2234 | 1974 | 1784 | 1627 | 1722 | 1919 | 1986 | 2403 | 2689 |
対全国比・% | 97 | 90 | 96 | 78 | 79 | 86 | 85 | 91 | 91 |
さらに、これら全国比をグラフで示すと次のとおりである。
絶対値の比較では見えない実相が見えてくる。桃に関しては大きな被害が感じ取られるが、米、牛肉では価格差は震災前の近くに迫っている(きゅうりでは、そもそも原発事故の影響が感じ取れない)。これを見て、どうして「価格の開きは鮮明だ」とか「差が開いたままだ」言えるのだろうか。風評払拭で福島農畜産復興という戦略の有効性が問われていないだろうか。こういう戦略は、福島第一原発事故で農畜産が被った被害を原子力災害そのものではなく、放射能に関する根も葉もな噂のせいに帰そうとする無責任体制だけが正当化する戦略ではなかろうか。汚染地域農民が直面するのは風評以前の問題だ(<帰還後どう生きる>除染影響 牧草地が荒廃 河北新報 17.2.24;楢葉 来春にも帰還宣言だが… 農家「生活成り立たず」 東京新聞 14.6.10)