NHK 外国企業によるアフリカ農地争奪 あるべき行動原則と巨大なギャップ

 農業情報研究所(WAPIC)

10.1.9

 昨年12月20日・午後6時からの「海外ネットワーク」、昨日午後10時15分からの「今日の世界」(BS1)の2回にわたり、NHKが外国企業によるアフリカ農地争奪戦について放映した。エチオピア政府から東京都の1.5倍の面積の肥沃 地を配分されたインド農業・食品企業(恐らくはKaruturi Global社であろう)の巨大農場と、外国企業への譲渡のために政府から突如立ち退きを命じられたタンザニア中部のナマワラ村での現地取材によって、外国企業によるこのような農地取得が現地住民をいかに痛めつけているかを生々しく伝えた。

 自らの生計を立ててきた土地を奪われ、インド企業の農場労働者となった現地住民たちは、経営者が満足な待遇を与えていると胸を張るにもかかわらず、現実には約束とは大違い、一日働いて60円しかもらえず、以前のような生活ができないと訴えていた(世銀によると、一日あたり1.25ドルの貧困ライン以下の支払いしか受けていない⇒Ethiopian Farms Lure Investor Funds as Workers Live in Poverty,Bloomberg,09.12.31)。30万fもの農地を突貫工事で造成するために、深夜にも重機を動かす労働者も映し出されていた。食料への権利に関する国連特別報告官のオリビエ・デ・シュッターが提案する外国農地取得に関する人権法に基づく原則(⇒国連専門家 外国農地取得に関する人権法に基づく原則を提案 G8サミットで採択を,09.6.12)は完全に無視されている。人権や労働者の権利が甚だしく侵害されている。

 しかし、政府役人は、機械化され、化学化された大規模モノカルチャー農業をもたらすこのような外国投資に農業開発、食料安全保障、貧困軽減をかける。多様な小農民農業には見切りをつけたと言わんばかりだ。

 突如立ち退きを命じられたタンザニアの村の村長は、「ほかに生きていける場所はありません」と訴える。それでも、耕作を禁じられて既にどこかに立ち退いた村民の廃屋や、途中で建設を中止せざるを得なかった学校も映されていた。村長が招集した村民集会に集まった 婦人たちは、「外国企業が来たら食べ物がなくなって暮らしていけなくなる」、「子供も学校に行けない」、「政府の役人の言うことなんて聞けないわ」と叫ぶ。その政府役人は、村民がにわかに土地への権利などと言いだした、(補償)金が目当てだろうとうそぶく。しかし、村長は、「私たちは自分の土地とその未来を守りたいだけです」と言う。

 昨年9月23日、日本政府主催で開かれたニューヨークでの「責任ある国際農業投資に関するラウンドテーブル(円卓会議)」において、「責任ある国際農業投資を促進するための行動原則」などが論議され、「既存の土地及と天然資源に関する権利は認識・尊重されるべきである」、「土地の評価と関連投資の実施過程は透明で、監視され、説明責任が確保されたものであるべきである」、「著しく影響を被る人々とは協議を行い、合意事項は記録し実行されるべきである」、「投資は望ましい社会的・分配的な影響を生むべきであり、脆弱性を増すものであってはならない」等々の世銀原則が今後の共同作業のベースとして承認されたそうである(⇒国際農業投資ラウンドテーブル 「農地争奪」の負の影響を防ぐ行動原則等構築で合意,09.10.1)。こうした原則と現実のギャップはあまりに大きい。

 FAOをはじめ、多くの国際機関は、適切な原則、あるいは行動規範が実施されれば、このような農地投資は被投資国とその住民にとっての好機となると言う。しかし、被投資国の地方・中央政府が、現に人が住んでいるが慣習的権利しかもたない土地(と水)を、 競って売りたがっている状況で、こんな原則や規範が守られるはずがない。

 最近の世界的食料・経済危機以来、国の農業部門への外国直接投資に反対の立場を取ってきたエチオピアの支配政党・エチオピア人民民主戦線さえもが、農民を犠牲に外国民間投資家の呼び込みに必死になっている。既に270万fもの耕作可能地を外国投資家のためにリザーブしている。

 ケベデ農業投資支援局長は、大規模商業的農業こそエチオピアの貧困と飢餓を終わらせると、一時免税、資本財輸入に対する関税免除、輸出商品に対する売上税・消費税免除などを伴う外国投資家への巨大な農地の90年に及ぶ長期リースを正当化する。270万fという規模についても、国の耕作可能地は740万fもあると推定され、エチオピア農民はそのうち170万fしか耕していないのだから、問題にならないという。[農民や国内投資家の農業投資が進まないのは、共産主義は解体されたが個人的土地所有 ・利用権はなお確立されていないことに一部の原因がある。何時取り上げられるかも分からない土地に長期投資する者はいない。外国投資家だけが、長期の利用を保障される。]

 アフリカ(その他途上国)の多くの政府が、こんな開発戦略の虜になっている。このままでは、「新植民地主義」は避けようがない。

 (注)Karuturi Global社 によると、エチオピア政府は外国投資一般に対し、すべての投資資本財に対する輸入関税その他の税の100%免除、エチオピア製品・サービスの輸出は、すべての輸出税の支払い免除、製造業および農産工業への承認された新規投資、または農業への投資からの所得は、所得税を5年間免除、などの優遇措置を与えている。

 http://www.karuturi.com/index.php?option=com_content&task=view&id=145&Itemid=191

 同社は2008年5月、コメ、野菜、パームオイル、サトウキビを生産するための10万エーカー(4万f)の土地のエチオピア政府からの取得を完了、なお、65万エーカー(26万f)の取得のプロセスにあると発表している。

 http://www.karuturi.com/pdf/press_release_290508.pdf

 土地賃貸料は、最初の5年間は無料、それから後の84年間はヘクタールあたり年15ブル(1.18米ドル)という。マレーシアやインドネシアの同質の土地ではヘクタールあたり年350ドルかかるというから、ほとんどただ同然だ。それに労賃が一人一日60円となれば、会社は明らかにぼろもうけだ。インフラ整備も含む農業投資のためのエチオピア政府の財政収入と現地住民の生計を犠牲にしてだ。

 Ethiopian Farms Lure Investor Funds as Workers Live in Poverty.Bloomberg,09.12..31
 http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601080&sid=aeuJT_pSE68c