カジノ法<農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2016年12月15日

 カジノ法成立 「勤勉や助け合い」か、「人の不幸を踏み台に」か 日本人の方向感覚が問われている

 統合型リゾート(IR)の整備を政府に促す修正「カジノ解禁法案」が本日未明に及んだ衆院本会議における差し戻し審議を経て成立した(カジノ法、賛成多数で可決・成立 日本経済新聞 16年12月15日)。1130日の審議入りから僅か2週間、法案の持つ本質的問題は一切問うことのないスピード決着であった。

 この法案は、現代に生きる日本人の価値観を問うていたはずである。

 「そもそもカジノは、賭博客の負け分が収益の柱となる。ギャンブルにはまった人や外国人観光客らの『散財』に期待し、他人の不幸や不運を踏み台にするような成長戦略」(社説・カジノ法案審議 人の不幸を踏み台にするのか 読売新聞 16122日)を断罪するのか否かが問われていたはずである。 

 日本がもつ「田畑を共に耕し水を分かち合い、乏しきは補い合って五穀豊穣を祈り、美しい田園と麗しい社会を築いてきた豊かな伝統」(安倍総理)を重んじるのか、それとも「ギャンブルを誘蛾(ゆうが)灯にして観光客を呼び込む・・・勤勉や分かち合いとは真逆の産業」を「成長戦略の目玉」に据えるのか(斜面 信濃毎日新聞 16129*)、そう問われていたはずである。

 しかし、そんな議論はとんと聞かなかった。国会は経済効果のあるなしやギャンブル依存症拡大の問題について入口の議論をしただけで、あとは採決時期をめぐる政治的攻防に明け暮れた。マスコミも自民党の強行と民進党の無力・無能を批判するばかりであった(例えば、社説・カジノ法成立 また政治不信が募った 毎日新聞 161215日)。

 カジノ法案の本性に触れる議論は、私の目についた限り、上に取り上げた新聞の社説とコラムに見られるだけであった。カジノ法が導く日本の未来だけではない。指導者も国民も方向感覚を失い、どうでもいいじゃないかと開き直る「悪性のニヒリズム」に蝕まれる日本の未来を恐れるのである。

 ところで安倍晋三、善も悪もすべて超克して日本を善導する「超人」(「ツァラトゥストラはかく語りき」)なのであろうか。少なくともそのように振る舞っている。棚田で「強い農業」を作るのも**、IRで投資を呼び込むのも***、カネのなる木を育てるという意味では等価値だ。それによって、世間で言う悪行も善行に変わるというご本尊(ニーチェ)も到達できなかった境地に達したのだろう。

 つじつまは合っている。彼がなすこと言うことすべて正しく、他者がなすこと言うことすべて間違っている。生まれついての「超人」には、他人(ひと)から学ぶことなど何もない。(そう考えないと、彼の言動は理解できないということです)

  

*斜面(近々新聞のサーバーから削除されるので、ここに全文保存しておきます)

 「瑞穂の国」は安倍晋三首相が好んで使う言葉だ。例えば「瑞穂の国の資本主義」。ウォール街のような強欲を原動力とはせず、道義を重んじ真の豊かさを知る、瑞穂の国にふさわしい資本主義があるという

   ◆

 安倍家のルーツがある山口県長門市の棚田が原風景らしい。2年前の建国記念の日のメッセージはこう訴えた。〈日本人には田畑を共に耕し水を分かち合い、乏しきは補い合って五穀豊穣を祈り、美しい田園と麗しい社会を築いてきた豊かな伝統がある〉

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 ギャンブルを誘蛾(ゆうが)灯にして観光客を呼び込む。いわゆるカジノ法案だ。勤勉や分かち合いとは真逆の産業なのに、首相は成長戦略の目玉と位置付け成立を急ぐ。つじつまがどうも合わない。国会の党首討論で「国家の品格を欠く」と追及されても、疑問を解消する言葉は乏しかった

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 首相は3年前のニューヨーク証券取引所の講演で日本への投資を呼び掛けた。「ウォール街の皆様は常に世界の半歩先を行く。ですから今がチャンスです」。ウォール街に対する強欲批判とは正反対の言葉を並べ立てた、と哲学者の適菜(てきな)収さんは手厳しい

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 社会の病は「言葉の扱い」に表れると考える適菜さんは、首相発言を検証し新著を出した。「政治家がうそをつくのは当たり前」といった悪性のニヒリズムが日本をむしばんでいるとみる。これでは、まやかしが横行していても仕方ない。

 **「日本は瑞穂の国です。息をのむほど美しい棚田の風景、伝統ある文化。若者たちが、こうした美しい故郷を守り、未来に「希望」が持てる「強い農業」を作ってまいります」(2013年3月 安倍首相の施政方針演説)

 ***「安倍晋三首相は7日午後、国会で民進党の蓮舫代表らとの党首討論に臨んだ。首相はカジノを含む統合リゾート(IR)法案について「統合リゾートはカジノは床面積の3%で、ほかにショッピングモールやレストランもある。そこには投資があり、雇用にもつながる」と述べ、成長戦略に資するとの認識を示した」(首相「投資・雇用生む」 カジノ法案で応酬 党首討論 16127日)