民主党選挙公約確定版 日米FTA推進は変えず 農産物国境保護を棄てて農業・農村振興?

農業情報研究所(WAPIC)

09.8.12

 民主党が11日、衆院選挙公約(マニフェスト2009)の確定版を発表した。7月27日に発表したマニフェストに対する反響を踏まえ、「国民・有権者の皆様に、我々が実現する政策をわかりやすくご理解いただけるものへと一部書き振り、表記を補強」するもので、「いずれもマニフェスト政策を変更するものではなく、既にまとまっている方針をさらに丁寧に記すものである」ということだ。

 農業関係者からの強い批判を浴びた日米FTAに関しては、「 米国との間で自由貿易協定(FTA)を締結し、貿易・投資の自由化を進める」という表現を「米国との間で自由貿易協定(FTA)の交渉を促進し、貿易・投資の自由化を進める」と改めた上で、「その際、食の安全・安定供給、食料自給率の向上、国内農業・農村の振興などを損なうことは行わない」という文言を付け加えた。 7月29日の声明で言われていた「米など重要な品目の関税を引き下げ・撤廃するとの考えをとるつもりはない」とか、同じ日に菅直人代表代行が言明した「米などの主要品目の関税をこれ以上、下げる考えはない」といった表現(民主党 日米FTAで軌道修正 知的レベルの低さと政権担当能力欠如が一層露呈、農業情報研究所、09.7.30)は盛り込まれていない。

 http://www.dpj.or.jp/news/files/20090811kaiken1.pdf

 それも当然だ。予め「米など重要な品目の関税を引き下げ・撤廃」しないとした日米FTAなど、交渉開始の合意さえできないだろうからだ。小沢一郎代表代行は8日、農業の戸別所得補償制度の導入を前提に、農産物も含む日米FTA締結を目指すべきだとの考えを強調、「農協がわいわい言っているケースもあるそうだが、全くためにする議論だ」、「輸入品は国内産より安いだろうが、良質のものも選択できる。市場価格が生産費を下回れば不足分は支払う。消費者にも生産者にもいい」 と、以前からの「持論」を述べたてたそうである。米国の関心が高い重要農産物除外の日米FTAなど、そもそも考えられないのだから、筋としてはこの方が通っている。

 小沢氏、日米FTAで持論強調「農協、ためにする議論」,asahi.com, 09.8.8
 http://www.asahi.com/politics/update/0808/TKY200908080134.html

 マニフェスト確定版も、筋を通すためには、重要農産物除外など言えるはずもなかった。「その際、食の安全・安定供給、食料自給率の向上、国内農業・農村の振興などを損なうことは行わない」という付言は何の実際的約束でもない。民主党が日米FTAにこだわるかぎり、小沢氏が直截に表現する方向、つまり農産物も含む日米FTA交渉に進まざるを得ないことははっきりしている。

 しかし、これは民主党だけにかかわる話ではない。自民党も、経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)交渉を積極的に行う」という公約を掲げている。全国農政連の質問には、「国境措置をしっかり維持しつつ、国内農業の構造改革を進め、足腰の強い農業づくりに邁進します」と答えているが(「第45回衆議院総選挙 公開質問 どうする基本計画、農地、食料自給力、水田対策、WTO・EPA」 日本農業新聞 09.8.12 8-9面)、「原則として、関税その他の制限的通商規則は域内の実質上のすべての貿易について廃止せねばならない」(GATT第24条)FTAを、「国境措置をしっかり維持しつつ」推進すると言うのは、ほとんど言語矛盾である。

 実質上、すべてのといっても、農産物除外は可能という見方があるが、オーストラリア、米国、EU、中国(いずれも農産物は最大の関心品目になる)などが相手では、それは実際上、不可能だ。法的根拠を異にする途上国間協定は別として、主要国がかかわる既存FTAは、農産物に関する特別扱い(長期移行期間の設定、特別セーフガード措置の導入など)は認めても、関税撤廃にかかわる例外扱いなどは、ほとんど認めていない(注)

 (注)FTA等地域貿易協定に農産物貿易の扱いについては、北米自由貿易協定(NAFTA)とEU-メキシコ自由貿易協定における具体的扱いの例も含め、「地域貿易協定と農産物貿易」(北林寿信 国際農林業協力 24-3 01年6月号)も参考にされたい。

 日本の農業・農村・農家の悲劇は、二大政党のどちらも、農産物に関する「国境措置」の廃止(FTA推進)を想定、あるいは前提とした農業基本政策しか持たないことから来る。

 これが前提では、「国内農業の構造改革を進め、足腰の強い農業づくりに邁進」する努力も、すべて水泡に帰す。日本の農産物の国際競争力の低さの大部分は、農産物主要輸出国に比べて土地が少ないことから来る。狭小な土地しか持たない日本は、たとえ分散錯圃を克服し、農地集積を極限まで推し進めたとしても、なお米国の大規模農業にはとても太刀打ちできない。対外市場開放を前提とする日本農業”改革”はあり得ない。多少なりとも”改革”が進むとすれば、それは対外農業保護が貫徹する状況の下においてのみである。さもなければ、日本農業は”総崩れ”となるほかない。

 民主党や小沢氏が強調する戸別所得補償制度はどうか。民主党によれば、これは、現在の生産や価格とは無関係なEUの固定支払とは異なり、「生産に要する費用(全国平均)と販売価格(全国平均)との差額を基本とする交付金を交付するもの」である。 国境措置撤廃がもたらす安価な輸入農産物が国内市場を席巻するに応じて、この差額はどこまも開く。現在の内外価格差を想定すれば、主要農畜産物に関するこの差額は、現在の2倍、3倍、あるいはそれ以上にも開く恐れがある。このような補助金は、財源の面からも、国際的拘束(これは現在の生産と価格に関連した補助金だから、明らかに、WTO農業協定における削減対象=イエローボックス補助金である)の面からも、持続不能である。

 この二大政党しか選択の余地がないとすれば、日本の農業・農村・農家にも「葬式」(アイルランド農業グループ アイルランド農業の模擬葬儀 政府が農業予算に大鉈,09.7.17)の日が来るのは避けられない


 なお、マニフェスト確定版の発表にあたり、直嶋民主党政調会長は、「所得保障の政策を実行している欧州諸国は高い食料自給率を実現している。日本でも所得保証制度を実施すれば、自給率アップにつながると考えている」と述べたそうである(「民主党 選挙公約を追加修正」 日本農業新聞 09.8.12 2面)。これはウソである。

 EUはウルグアイ・ラウンドへの対応と恒常的な過剰解消を目指し(自給率向上のためではない!)、保証価格引下げに伴う所得低下を補償する直接援助の制度を1992年に導入(マクシャリー改革)、2000年以後は(アジェンダ2000)、この直接援助の生産との関連を断ち切る”デカップリング”改革を進めてきた(その一方で、ACP=アフリカ・カリブ・太平洋諸国等 最貧途上国や中南米諸国に対する農産物市場開放も進めた)。その結果、EU諸国の食料自給率は、明らかに低下に向かっている(下図)。

 

 民主党や自民党には、EPAやFTAそのものについても猛勉強を願いたい。特に、日米、日EUといった主要国間の協定となれば、韓米、韓EU協定などとは異なり、WTOの下での多角的貿システムを完全に空洞化させ、世界貿易システムは二国間・地域協定のパッチワークに帰する。そうなれば、グローバルビジネスのコストは膨れ上がるばかりだ。たとえば、仮に日米FTAが成立したとして、その原産地規則を満たすためには、日本の自動車、電機メーカーなどは、アジア諸国からの安い部品調達をやめねばならないことになるかもしれない。農産物と異なり、今や僅かばかりのものとなった工業品関税 (米国の電機、輸送機械の最恵国待遇実行関税率は、それぞれ平均で1.4%、2.3%にすぎない―WTO)を回避するために、海外生産からを引き上げ、高コストの国内生産にもどることにどんな経済効果が見込めるのだろうか。

 参照:WTO世界貿易報告、地域貿易協定に懸念,03.8.22