食料危機の悪循環が始まる?森林破壊で農地拡大 藁のバイオ燃料化で痩せる土地

農業情報研究所(WAPIC)

08.4.27

 食料価格高騰で一日に2食とか1食しかできない人々が増える”食料危機”が世界中、とりわけエンゲル係数が70%以上にもなる多くの途上国に広がっている。そのなかで、浅慮とか言いようのない対応策で、危機が危機を呼ぶ悪循環が始まる気配がある。これは何としても食い止めねばならない。

 米国では、保全区域の耕作地化が農業生産の持続可能性を脅かし始めている(米国農家 作物価格高騰で保全休耕地を耕作地に 09年までに日本の水田総面積分,08.4.5)。

 ロイター通信が伝えるところによると、大豆王”と呼ばれるブラジル最大の大豆生産者で、マトグロッソ州知事でもあるブラジルの有力政治家、ブライロ・マッジは、いま世界を襲っている食料危機を和らげるために、アマゾン雨林の伐採をさらに進めることで農地を拓くべきだ、「世界食糧危機の悪化で、環境を保全するのか、それとも食糧を増産するのか、議論が不可避になるときが来ている」と語ったそうである。

 Brazil "soy king" sees Amazon as food solution,Environmental News Network,4.26
 http://www.enn.com/top_stories/article/35356

 2002年6月に始まり、今年4月14日に発表された「開発のための農業科学・技術国際アセスメント」(IAASTD)(→世銀:農業科学のリスクと機会を探る国際協議プロセスを始動,02.8.31)の最終報告によると、品種改良・水や化学肥料や農薬の投入の増加・機械化に焦点を当てた近代農業科学・技術は農業生産の大きな増加をもたらしたが、反面、環境的持続可能性も脅かしている貧弱な社会経済的条件と結びついた環境軽視の農業方法は土壌肥沃度の喪失、土壌浸食、農業生態機能の崩壊を招き、それが貧弱な作物収量、土地放棄、森林破壊、急傾斜山腹などの限界地への進出につながるという悪循環を生み出している。

 それは、飢餓と貧困と闘うためには、農業生態科学の増強によって利用可能な水の減少や水質の悪化、土壌の劣化、生物多様性や農業生態系の機能の喪失などの環境問題に取り組む一方で、生産性を維持し、増加させることが必要だと訴える。

 また、貿易自由化のもとで、備えなしに農産物市場を開放すれば貧困軽減、食料安全保障、環境が脅かされ、過度に輸出を指向すれば土壌栄養分と水の輸出、持続不能な土壌・水管理、搾取的労働条件につながるとも指摘する。

 International Assessment of Agricultural Knowledge, Science and Technology for Development (IAASTD) :Global Summary for Decision Makers
 http://www.agassessment.org/docs/Global_SDM_210408_FINAL.pdf

 マッジが主張するさらなる森林破壊、輸出拡大は、食料生産の持続可能性を奪うだけである。

 日本の政府も、洞爺湖サミットに向け、各国に食料輸出規制の自粛を要請、灌漑施設や品種改良を通じてのアフリカ途上国の食料増産支援、廃木材・藁などの非食料原料を使ったバイオ燃料の開発の世界的協力体制作りなどの「食料高騰対策」を打ち出した(日本経済新聞、4月26日)。

 だが、いま食料輸出規制に走っている輸出国でも、輸入国並み、あるいはそれ以上に国内価格が高騰しているのだから、輸出規制自粛ができるはずがない。ブラジルさえ、国家保有米の輸出を禁止した。タイはなお輸出規制に踏み切っていないが、国内米価格は輸出価格に近いか、それ以上の速さで上昇している(図参照)。このような主張は、ほとんど無効だろう。

 無効だけならまだいいが、灌漑施設や品種改良を通じての増産が、一層多くの水や化石燃料(石油)、肥料、化学肥料や毎年購入せねばならない高価な種子の一層の利用を強要するものだとすれば、これも途上国食料生産を持続不能にする。多くの途上国小農民は、農産物価格の高騰にもかかわらず、水の欠乏、燃料・肥料・農薬・種子の欠乏・不足・価格暴騰で、これらを多量に使う農作物生産からの撤退さえ余儀なくされている(一例→Kenya: Food Alert As Farmers Now Abandon Crops Over Prices,,4.24)。これ以上に化石燃料や肥料・農薬に依存する食料生産が持続不能であることは、いまや明らかである。

 廃木材・藁などの非食料原料を使ったバイオ燃料は、土に戻されるべき有機物を燃やしてしまうことを意味する。環境を犠牲にしない食料増産の不可欠な条件である農業生態系の機能を奪い取る。土壌が捕捉する炭素も減らし、温室効果ガスも増える。これは、食料生産の持続可能性への最悪の挑戦である。

 最低限、この提案だけはやめてもらわねばならない。