言葉だけが飛び交う「保護主義」・「自由貿易」 保護主義=悪 自由貿易=善は本当か

農業情報研究所意見・論評・著書等紹介20161120

  最近の新聞記事に「保護主義」とか「自由貿易」とかの言葉がやたらと増えています。ほとんどすべての記事は、「保護主義」は悪、「自由貿易」は善とする文脈でこの言葉を使っているようです。

 どうしてそうなるのでしょうか。自由貿易は世界規模の競争を促すことで経済成長を助ける。経済学は「保護主義」は経済成長を遅らせ、「自由貿易」は経済成長を速めると教えている。だから保護主義は悪であり、自由貿易は善である。善悪の判断基準を経済への影響(のみ)に置いているだけではない。経済的にも「自由貿易」は本当に善なのかも問うこともなく言葉だけが飛び交っている、そうとしかいいようがありません。 

 「自由貿易」は本当に経済的に善なのでしょうか、先ずはそれを問う必要があります。というのも、「保護主義」とか「自由貿易」とかは抽象的存在ではなく、具体的な貿易政策に結びついて初めて意味を持つ言葉だからです。かつて第二次世界大戦につながった「関税同盟」は、加盟国間の関税を撤廃するという意味では「自由貿易」措置ですが、それは世界的意味では「保護主義」ではなかったでしょうか。無差別最恵国待遇を基本原則に据えたガット・WTOの下での関税削減は文句なしの「自由貿易」(主義)を体現したとも言えますが、それでも、EUや米国の恣意的なアンチ・ダンピング措置・補助金相殺措置・非関税障壁など、保護主義的措置の強化を助長しました。それは真に世界経済の成長を促した言えるでしょうか。確かな答えはありません。

 とりわけ二国間・地域自由貿易協定においては、「自由貿易」が保護主義的効果(域外国の輸出機会を奪う貿易転換効果など)持つことも十分にあり得ます。例えばTPP不参加のタイは、「TPP実施は圏外の国の輸出にトラブルを引き起こす、その流産はタイにとって利益となる」と言っています(Scrapping of TPP may help Thailand,Bangkok Post,16.11.17)。域内企業でさえ、原産地規則のために部品生産を最もコストの低い域外国からコストの高い域内国に移すことで損害を被る恐れもあります(WTO世界貿易報告、地域貿易協定に懸念,03.8.22)。

 つまり、「保護主義」とか「自由貿易」とかいう言葉は、それを体現する具体的貿易政策とその経済効果に関連づけられて初めて意味を持つということです。

 ところが今日の朝日新聞、”トランプ氏は米大統領選で、TPP離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉など「反自由貿易」の主張を掲げた。そうした動きを受け、APECは18日、閣僚会議を開き、「保護主義に対抗し、開かれた経済建設の意思を改めて示す。自由貿易は持続的な回復や未来の成長を促すのに不可欠」とする閣僚声明を採択した。閣僚声明を踏まえAPEC首脳会議でも、「自由貿易に対する懐疑的な見方と貿易の停滞に対処するため、開かれた経済を実現することの重要性を強調」する方向だ”などと報じています(APEC首脳会議開幕へ 保護主義に対抗、閣僚会議声明)。他紙もほとんど同様な記事を掲げています(例えばトランプ保護主義 APEC包囲網 「自由貿易への懐疑的見方」に懸念 東京新聞)。

 ここでは「保護主義」とか「自由貿易」とかの言葉が驚くほど無反省に使われています。TPPNAFTAは無条件に「自由貿易」を促進し・「保護主義」に対抗し・経済の持続的な回復や未来の成長を促すと前提されています。TPP離脱やNAFTA改訂はそういう経済効果を棄てることにつながると前提されています。まるでTPPNAFTAが作る以上の国際貿易体制はないと言わんばかりです。安部首相の主張(「自由貿易こそ重要」 首相、ペルー大統領と会談 東京新聞 16.11.19)を垂れ流すに等しいこれらの記事は、まさに近頃のマスコミの堕落ぶりを象徴しています。

 イギリスがEU離脱を決め、トランプ氏がTPP離脱を主張する今、マスコミは改めて「貿易自由化」の意味を問い直すべきです。その経済的影響のみならず、社会的影響「競争力の阻害要因となるものすべて(人間も自然も)」を切り捨てるグル―バリゼーションの負の側面―もお見逃しなく。手放しのTPP賛歌で国民をミスリードするのはやめるべきです。

 農家も一安心

 なお、くだんのAPEC首脳会合、TPPについては「各国が国内承認手続きを進める決意を確認するのにとどまった。・・・一連の会合に先立ち、安倍晋三首相は他の主要国首脳に先駆けてニューヨークでトランプ氏と直接会談。局面打開のきっかけになるかと注目されたが効果は未知数・・・このままでは、「米国抜きTPP」のシナリオが現実味を帯びるのは必至だ」とのことです(TPP漂流、不安消えず=「米国抜き」「再交渉」も-12カ国首脳会合 時事 16.11.20)。そうなればTPPの長期漂流が確実となる。農家のみなさんも一安心です。