”素粒子”の暴言 ”山スキーツアーに行くときにはガイドの判断をば信ずべからず”

農業情報研究所(WAPIC)

07.2.16

 昨日15日付けの朝日新聞夕刊・”素粒子”欄、”「人生の教訓」べからず集”として、第一に、”山スキーツアーに行くときにはガイドの判断をば信ずべからず”とある。言うまでもなく、八甲田山の雪崩事故を受けての話だろう。しかし、これは、ガイドを侮辱すると同時に、ガイドなしの山スキーツアーの危険性をまったく知らない者の暴言である。少なくとも山スキーを楽しむ者の一人としては、とても許し難い。

 多少なりとも山スキーを嗜む者は、それがいかに危険を伴うものであるかを知っている。自分の判断だけでいきなり山に入れば、大抵の者は無事生還を保証されない。山スキーをすること自体を完全に否定するか、諦めるのでないかぎり、コースを熟知し、シーズン中にはほとんど毎日コースに出ているガイドの判断に従って行動することが安全確保の絶対的条件なのだ。

 これを書いた新聞人は、今回の事件の原因はガイドの判断の誤りにあると勝手に解釈し、さらに、それをガイド一般への不信に結びつけるという二重の間違いを犯している。

 筆者は、八甲田山スキーコースを自ら開発し・山のすべてを知り尽くしている故・三浦敬三先生とその一番弟子と言われる名スキーヤー兼ガイドに連れられて、今回事故があった”銅像コース”も何回となく滑っている。それから得られる知識・経験と今までに報道された事実から判断するかぎり、ガイドの判断の誤りが事故につながったとは到底見ることができない。

 ぼやけた地図で見難くて申し訳ないが、このコースのツアーにおいては、ロープウェイ山頂駅から少し上った田茂萢岳山頂から緩やかな斜面を北に下り(写真@)、やがて対面の緩やかな林間斜面をトラバースしつつ、今回雪崩が起きたとされる前岳(地図のちょうど真ん中あたり)の南側の下に出る。条件に恵まれれば、そこで前岳に直登(写真A)、その裏側のいささか急な斜面の大滑降を楽しみ(写真B)、本来のコースの途中の谷に降りることもある。それからは、傾斜の緩やかな林間のトラバースと下りを繰り返しながら(写真C)、外周道路沿いの銅像茶屋まで延々降りるだけだ。

地図

(下方、黄色のコースの左端がロープウエイ山頂駅、そこから右に少し上った田茂萢岳山頂から
北に伸びた青の帯が銅像ツアーコース。コースの中ほどよりやや手前の左手に前岳がある)

  写真(昨年の筆者のツアーから)

@

A

B

C

 ところで、今回のツアーの出発時、強風のときには止まるロープウェイは動いており、少なくとも田茂萢の頂上から降り始めるまでにツアー中止を決める理由はなかった。そして、一旦降りれば、途中で天候が急変しても林間で危険は小さく、登ることを意味する引き返しは不可能だし、却って危険だ。

 しかも、ガイドリーダーによると、暖冬による雪崩の危険性は認識していたために、[雪崩が起きやすい]コースの前半部のコースは本来のコースを回避、南風を避け、斜度の緩い樹林帯を選んだという。恐らくは、前岳の北斜面から遠い対面の林間を抜けて、前岳北側下の谷に出た。

 そして、生還者の証言によれば、そこで後続部隊を待とうとしたときに雪崩に襲われたということだ。従って、ツアー一行が滑ったことが雪崩を誘発したとは考えられない。たまたま雪崩が発生したとき、たまたまそこに居合わせたという偶然が引き起こした事故というほかなく、ガイドにはまったく責任はない。

 もしこの事故がガイドの不適切な判断によるものとされれば、誰もガイドなどしなくなり、まさに”ガイドの判断をば信ずべからず”無謀山スキーツアーしか残らなくなるだろう。この発言は、何か新たな事実が現れないかぎり、何も事情を知らない者の無責任極まりない暴言というしかない。

 [恐らくは地球温暖化と関連して、世界中で雪崩が増えており、従来の知識と経験に基づいて雪崩被害を回避することは一般的に難しくなっているように見えるが、それはガイドの判断だけにかかわる問題ではない。そのためには新たな雪崩危険地地図の作製が必要になるだろうが、そのためにもガイドの貴重な知識と経験がますます必要になる]