農業情報研究所環境原子力東電福島第一原発事故関係2012年1月28日

避難区域除染工程表 健全な農地・農業の回復は超長期的課題 除染・早期帰還より新村(分村)建設を

 環境省が26日、東電福島第一原発事故に伴い設けられた避難区域(警戒区域、計画的避難区域)内の11市町村で国が進める放射性物質除染作業の工程表を発表した。年間被ばく線量が50ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備」(20ミリシーベルト以下)と「居住制限」(20ミリシーベルト超50ミリシーベルト以下)の両区域での作業を優先、平成25年度末までにこれら区域の全域で作業を完了させる。 他方、50ミリシーベルト超の「帰還困難区域」は、当面モデル事業で低減の手法を探る。

 解除準備区域については、一般住民の被ばく線量を13年8月末までに半減させ、長期的には1ミリシーベルト以下にすることを目標に掲げる。居住制限区域は、14年3月末までに帰還可能な20ミリシーベルト以下にするという。

 細野豪志環境相兼原発事故担当相は、「住民に1日も早く戻っていただくのが大きな目標。困難は非常に多いが必ず乗り越えられる」と強調したということだ。

  どの地域の、どんな場所が、どんなふうに、どれほど汚染されているのか、除染作業の大前提である汚染の実態のきめ細やかな調査も進んでいない。場所や汚染状況に応じた的確な除染技術も確立されていない。あるのは、汚染土の処分先さえ決まっていない表土の引き剥がしや、除染効果の限界が見えてきた高圧水洗浄ぐらいである。事故原発はなお放射性物質を放出しつづけており、放出され・拡散し放射性物質も、杜撰な放射性廃棄物管理や除染による移染などの人為的要因も手伝って、なお拡散を続けている。

 工程表が掲げる目標が達成できるとは誰も思わない。実現する恐れがあるのは、住民の1日も早い危険区域・コミュニティ崩壊区域に向けての強制送還にほかならない。

 野山に大量に降り注いだ放射性物質をどうやって短期間に取り除くのか。「素人が考えても無理だと分かる」、「故郷は、もう帰って生活する場所ではない。せめて、福島県内のどこかに新しい家をつくり、家族で暮らしたい(浪江町から東京都江東区の東雲住宅に避難する主婦岩野芳子さん=71歳、東京新聞 12年1月27日 27面)。

 「自宅周辺は線量が高く、除染なんてできる状態じゃない」、「やっと[除染工程表が]出てきたのかという思い。除染をしてもそこで生活ができるようになるまではものすごい年月がかかる。それよりは、町全体が移れる場所を確保してほしい」(埼玉県加須市のアパートに避難する双葉町の無職鵜沼友恵さん=36歳、同上)。

 公共施設や通学路を含めた学校や保育施設、商業施設・街路などの除染(移染)は、ある程度は進むだろう。しかし、広大な山野や海川湖沼の除染はもとより、生産・営農が可能な農地を取り戻すことは不可能に近い。表土の引き剥がしによる田畑の除染は、何百年もかけ生成したかけがえのない生き物としての作土(耕耘され・作物の主要な養水分供給の場となる農地土壌の層)の喪失を意味する。農地として回復させるためには大量の客土を必要とする。これは通常時でも大変な難事業だが、四方八方の土壌が放射性物質で汚染されているなかで、どうやって実現するというのか。

 農水省や福島県は、表層近くの放射性物質を作土の下に埋め込む「反転耕」を推奨するが、「この辺りは土地が浅くて反転耕ができない」と言う農家もある(福島市大波地区の農家伊藤松男さん=64歳、除染工程 あふれる難題  東京新聞 12年1月27日 2面)。反転耕は実行できても、農地として回復させるためには表土引き剥がしと同じ問題がある。反転耕は、今までの下層土を作土として利用することを意味する。下層土は耕されたことがない、いわば”死んだ”土であり、それを作土に改良するためには大量の有機物や土壌改良資材、肥料の投入が必要になる。ところが、その有機物や改良資材の使用が、まさに放射性セシウム汚染で制限されているのである。除染(移染)には成功しても、土が死んでしまっては意味がない。

 避難区域内における農業生産・営農活動は長期にわたって停止せざるを得ないだろう。生産物が売れないため(だけ)ではない、除染によって土壌生態系が破壊されてしまうからだ。農地・農業・農村を欠いた「強制送還」地域社会は地域社会の体をなさないだろう。

 だとすれば、今は大量の資源を注ぎ込み、「除染」に血道を上げているときではない。遠い将来の帰還は睨みつつ、「町全体が移れる場所」の確保に全力を上げねばならない。除染が厳しい避難区域に関しては、「暮らしと生業(なりわい)の両立し、小さくてもよい、もう一つの飯舘分村(新村)を建設し長期的な避難生活を支えたい。・・・共同の農場や工場、市場、祭りの場や交流市場などがあると良い。除染しながらの居住は厳しい」という糸長浩司日本大学生物資源科学部教授の提案(除染厳しい飯舘の森林 分村建設の権利を認めて  東京新聞 12年1月18日 21面)が重く受け止められねばならない。政府は、除染から新村建設の支援に向けて、舵を切り替えねばならない。

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