福島の農林水産業 「風評」という言葉が再生を阻む 国もマスコミも、なぜ本当の問題を考えないのか
英語にはない「風評被害」という言葉、「日本には前からあった言葉だけど、福島事故の後、特殊な意味づけで利用されていると思います。この言葉で、言い表した気になって、本当の問題を考えない手段になっている」(「事故30年 チェルノブイリからの問い 第6回
教室で「放射線」を語れない——外国語に訳せないいくつかの理由」 尾松 亮 世界 2016年10月号)
福島民報の本日付記事が「県内農林水産業の風評対策 復興特別会計に新たに47億円計上」と報じている。
「県内の農林水産業再生総合事業として復興特別会計に新たに47億円を計上した。県産農林水産物の生産、流通、販売の各段階で総合的な風評対策を進める」という。
記事の元ネタと思われる復興庁の「平成29年度予算概算決定概要(参考資料)」
を見ると、「福島県農林水産業再生総合事業」予算として47億円が計上されている。その事業内容は、「福島県の農林水産業の再生に向けて、生産から流通、販売に至るまで、風評の払拭を総合的に支援」と説明されており、この事業はまさしく「風評対策」(風評を払拭するための事業)と認識されているようだ。
ここで言う「風評」とは、具体的に何とは言われていないが、言うまでもなく福島第一原発事故でまき散らされた放射性物質汚染による農林水産物の安全性にかかわる「根も葉もない」噂ということであろう。それ以外の福島産品に対する「風評」被害は考えられない。
ところで、このような風評払拭のための事業は次の事業から成るという。
①第三者認証GAP等取得促進事業(第三者認証GAP等の取得支援等)
②環境にやさしい農業拡大事業(有機JASの認証取得支援等)
③水産物競争力強化支援事業(水産エコラベルの認証取得支援等)
④農林水産物の検査の推進(放射性物質の検査等)
⑤流通実態調査事業(国が、福島県産農林水産物等の販売不振の実態と要因を調査)
⑥販路拡大タイアップ事業(生産者の販路開拓等に必要な専門家による指導・助言
⑦戦略的販売促進事業(量販店での販売コーナーの設置、オンラインストアにおける特設ページの開設、ポイントキャンペーン(量販店の販売コーナー、オンラインストア)の実施)
これがどうして風評払拭のための事業なのだろう。普通の意味で「風評」にかかわるのは⑤だけだろう。
①から③は、放射能汚染にかかわる「風評」とは直接には関係がない。安全性と無関係とも言えないが、生産物の付加価値を高めることに主眼を置く手段である。それは福島農業「再生」の手段ともなり得るが、それを「風評」払拭の手段だ位置づけ・それによって福島農業を再生すると言うなら、福島農業が被った被害はすべて「風評」のせいだと言っていることになる。
④は原発事故で不可欠となった放射能汚染地域における農林水産物の安全確保策でる。「風評」払拭を主眼とするものではない。検査は安全確保ではなく「風評」を払拭するためにするなどと言えば、検査結果に対する疑惑を招くだけである。基準そのものが本当に「安全」基準なのかという疑いも払拭されていないなか、これでは風評を助長するだけである。
⑥、⑦はただの「販促」活動である。それによって売り上げは増えるかもしれないが、「風評」が払拭されるわけではない。
「風評」は生産環境からの放射性物質の徹底した除去(とその立証)と、生産物の安全性の徹底した検証によってしか「払拭」できない。
ところが、国は「風評の払拭を総合的に支援」することによって「福島県の農林水産業」を再生する言い、マスコミもそれを無批判に復唱する。福島原発事故による農林水産業被害を「風評」、つまり根も葉もない噂に惑わされる消費者の「無知」のせいにしているかぎり、「風評」はいつまで経っても払拭できない。
お前の無知のために福島の復興が進まないかの如く言われる消費者は反発を強めるだけである。ここに掲げられた手段が福島県の農林水産業の再生に真に役立つように、国は、先ずは「風評対策」というその標語を外すべきである。その上で、原発事故で破壊された農林水産業を立て直す手段を本気で考えてもらいたい。
例えば
福島産品を扱わないスーパーや外食産業に働きかけるのも結構。しかし、それより生産基盤の再興が先決だ。
福島県の農業産出額
