農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2014年11月27日

一票の格差 なぜ問題なのか 地域政策を持たない日本 誰が地域格差を是正する?

 今日のマスコミ、参議院選挙における「一票の格差」の問題でもちきりである。最高裁の違憲判決を受け、選挙制度の早急な改革の必要性を訴え、これに関する国会の怠慢を指弾する論調が地方紙にまで広がっている。こうまで画一的な見解に、「一票の格差」がなぜ問題なのか、いくら考えても分からない自分は戸惑うばかりである。

 この問題に関する一研究は次のように言う。

 「私たちは一票の格差が与える影響について調べるため、一票の価値と地方自治体の公共投資額について関連性があるか分析を行った。結果は一票の価値が重い地域、つまり議員一人当たりの有権者数の少ない地域ほど公共投資額が多いということが判明した。

これは一票の格差があることにより、より人口の少ない地方自治体の意見が尊重されているということを意味しており、国民が居住している場所の違いによって不利益を被ることが証明されたということになる。ここから私たちは一票の格差という問題を解決しなければならない問題と結論付けた。

また研究過程で、国会が地方の利益誘導の場になっているのではないかと私たちは考えた。国会議員は本来であれば外交などといった国家の運営に関わることについて議論をすべきであると考えるが、実際は国会が国会議員の地元への利益誘導を行う場になってしまっており、国会としての機能が正常に働いてはいないのではないかと仮定した」

 東洋大学中澤克佳研究会行政分科会 国際比較から考える一票の格差と適切な議会制度の在り方 政策フォーラム発表論文 201212
http://www.isfj.net/ronbun_backup/2012/aa01.pdf

 十分調べたわけではないが、恐らくは、これが「一票の格差」がもたらす問題についての代表的見解であろう。

 しかし、「議員一人当たりの有権者数の少ない地域ほど公共投資額が多い」ことがなぜ問題なのか。それがどうして「国民が居住している場所の違いによって不利益を被ること」、あるいは「国会が国会議員の地元への利益誘導を行う場になってしまっており、国会としての機能が正常に働いてはいない」ことにつながるのか、政治学者に自明のことかもしれないが、素人の私にはとんと分からない。

 経済・人口における地域格差は自由市場経済の必然的帰結である。「公共投資」がその役割を果たせるかどうかは分からない。しかし、地域格差是正の試みは、市場経済がもたらす社会の歪みを正す試みであり、必ずしも「地元への利益誘導」に還元されるものではなく、健全な「国家の運営」に資するものでもあり得るだろう。

 EUは、低開発地域や条件不利地域を援助する法的に定められた「地域政策」を持ち(拙稿 「地域政策」 国立国会図書館内EC研究会編 『新生ヨーロッパの構築―ECから欧州連合へ』 日本経済評論社 1992年 第8章;同 「地域政策」 『EU 政策と理念』 大西健夫・岸上健太郎編 早稲田大学出版部 1995年 第6章)、これら地域の経済開発・雇用創出プロジェクトに1989年から2013年までに8000億ユーロ(約120兆円)のEU予算を注ぎ込んできた。2014年—2020年には共通農業政策予算を上まわる3518億ユーロ(52兆円)、EU予算の33%を地域政策に充てる。地域政策は、今や農業政策にも勝るEUの最優先政策だ。農業産業政策では農村地域経済を救えないグローバル化社会の帰結である。

 法的(公的)「地域政策」を持たない日本で人口が少ない地域の優遇策を国家目的に沿わない「地元への利益誘導」と切り捨て、それで健全な「国家運営」と言えるだろうか。「地方創生」ができるだろうか。地方創生は、健全な国家・社会に不可欠なものではないのか。

 議員が文字通り「国民全体」の利益を代表して行動するのでないかぎり、それが保証されないかぎり、定数是正はむしろ格差拡大に寄与する恐れがある。一票の格差は地域政策の不在を埋め合わせる機能を果たしているかもしれないからである。

 誤解なきように言っておけば、私の本旨は定数是正論者を論難することではない。大都市議員であっても地方のために働くような、そうすることで落選することがないような政治社会をどうしたら作れるのか、それを考えようということである。といって、原発地元を慮って原発再稼働を唱える政治家が居るとしたら、それはごめんだが。

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