農業情報研究所意見・論評2010年10月16日

市民運動宰相さえ経済に魂を抜かれた国の政治家 理想はFTAに狂奔する韓国や中国なのか

  10月16日付の東京新聞の「本音のコラム」で、中谷 巌氏が次のように述べている。

 久しぶりに聞いた国会予算委員会の質疑で、元外務官僚という質問者が「国を開く」というテーマで、「韓国や中国が自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)をすごいスピードで進めているのに、日本は何をぐずぐずしているのか、日本は世界に置いていかれる、もっと積極的に国を『開く』施策を推進すべきだ」というものだった。しかし、正直言って、この質疑には閉口させられた。「FTAやEPAを積極的に推進するのはよい。しかし、それで日本が抱えている問題が解決するわけではない。・・・・・・。大事なのは・・・さまざまな問題を抱えた世界の中にあって、日本がどういう国になるべきか。これを解決しないで「国を開く」だけでは、国はますます疲弊するだけだ。・・・・・・FTAやEPAといった表面的な制度だけでなく、国の「中身」をどうするかという議論こそ必要なのだ。・・・・・・」

 中谷氏の意見にいつも同調するわけではない。「FTAやEPAを積極的に推進するのはよい」とも思わない(無益有害なことなぜを推進しなければならないのか)。しかし、その他に関しては全面的に賛同する。

 この元外務官僚は、あるいはFTAやEPAの推進を大声で叫び始めた政治家たちが想像する国の「中身」とは何なのか。理想像は韓国や中国なのか。民主党はFTAやEPAを「新成長戦略」の一環と位置づけているが、農林水産業や中小企業を犠牲にもっぱら財閥系大企業を伸ばすことで「輸出依存度」54.8%(ドイツ、中国でもそれぞれ47.9%、36.6%だ―2010年通商白書)の経済を築きあげた韓国の成長モデルがお手本だとでもいうのだろうか。日本にとって、FTAやEPAは突出して輸出依存度が高く、日本の企業全体の中では一握りにすぎない自動車や電気機械の大企業を利するだけ、中小企業や農林水産業には何の利益もなく、有害でさえあり得るものだ。中小企業や農林水産業を基軸とする「内需」依存の成長戦略など眼中にないのだろうか。

 ジャック・ドロール欧州委員会前委員長はつい最近、欧州議会で、今の欧州政治家は、個人主義の横行、グローバリゼーションと各国政府の関心の欠如で、「ヨーロッパの父」(ジャン・モネ)の遺産である欧州統合の「魂」を失ってしまったと述べた。ドロールの時代であれば、輸出(外需)依存の大企業が主導する経済発展しか眼中にない李明博が大統領を務める韓国とFTAを結ぶことなどあり得なかったであろう。すべての政策の立案に当たって社会・環境影響の評価が義務付けられているEUの政治家でさえ経済的利益しか考えないのが今の世界の現実となってしまった。

 European Parliament:Jacques Delors: Europe needs a "soul" ,2010.10.11
 http://www.europarl.europa.eu/news/public/story_page/002-85429-286-10-42-901-20101006STO85428-2010-13-10-2010/default_en.htm

 今ヨーロッパでは、社会・環境影響を無視したEUとアジア諸国(インド、韓国など)のFTAに反対を唱える市民運動が起きている。

 Civil society groups slam EU free trade pacts,Inquirer,10.13
 http://globalnation.inquirer.net/news/breakingnews/view/20101013-297536/Civil-society-groups-slam-EU-free-trade-pacts

 市民運動の「魂」を受け継ぐはずの宰相が、こんな世界の流れに敢然と抗するどころか、竿さすとは。彼もまた、経済に魂を抜かれてしまった。