農業情報研究所意見・論評2010年10月28日

大手新聞TPP社説 そろいもそろって無知蒙昧の恥さらし 米国も逃げ出す日本参加にラッパ吹く

 日本の「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」参加問題に関する大手新聞の社説が出そろった。以下に示すように、一様に参加をためらってはならないというものだ。その理由も一様、ここで参加しなければ日本企業の韓国などに比べた国際競争力が大きく削がれ、日本経済の成長の機会を失することになるという。そして、大きな打撃を受ける農業について、戸別所得補償のようなバラマキ政策を改め、日本農業の国際競争力を強化せよと、現実した無視した(あるいは無知による)夢のような対応策を提言する点でも一様だ。

 今に始まったことではないが、大手新聞は、一様に思考停止に陥っている。そうでなければ、これほど酷似した社説が出るはずがない。こうした主張の裏にあるのは、二国間または地域貿易協定は、必ずや貿易拡大と経済成長に寄与するという神話、あるいは固定観念である。こんな固定観念や神話は、国際専門家がとっくの昔に否定しているというのに(日本に重症FTA(EPA)フィーバー 戸別所得補償も農山漁村再生ではなくFTA推進のため)、FTAやEPAが本当に貿易拡大や経済成長に寄与するといういかなる証拠も示すことなく、貿易拡大や新たな成長に役立つと呪文のように唱える。

 唯一朝日新聞は、「5年前のFTA締結で、日本からメキシコへの輸送機械輸出は15億ドル増えた。一方、日本と豪州とのFTA締結が遅れているため、自動車メーカーが豪州とFTAを結ぶタイへ生産拠点を移す動きも出た」と証拠を示したつもりのようだが、輸送用機器に最大50%、平均で36.9%もの例外的に高い輸入関税を課していたメキシコの例だけを取り出すのは、明らかに作為的だ。また、同品目に対するオーストラリアの平均輸入関税率は12.6%にすぎず、日本自動車メーカーは、タイ−オーストラリアFTAが発効する2005年よりはるか前から、大挙してタイに進出してきた。

 そのうえ、あり得る利益を協定による輸入増加がもたらす国内産業の損害と比較する視点もまったくない。農業については、損害補償にどれほどのコストがかかるかまったく考慮がなく、「先進的な日本のコメ農家は中国や米国に負けない競争力を有し」という卓論、いや迷論まで飛び出す始末だ。

 こんな議論を相手にするのは時間の無駄だが、もう一つ言っておけば、これらの論説委員は、日本が無理やり参加となれば、そもそものTPP交渉そのものが遅れ、成り立たなくなることさえあるのをご存じないのだろうか。ブッシュ大統領時代に調印された韓米FTAは、韓国の自動車・牛肉市場開放が不十分という労組や国内産業の圧力を受けた米政府が再交渉を要求 (米車の販売不振の原因とされる韓国の自動車税や規制政策の改廃、燃費・排出基準の緩和、徴収した輸入部品関税の払い戻しを許す戻し税制度の廃止・制限、牛肉の30ヵ月齢制限の廃止など)、韓国がこれを断固拒否することで、未だに発効をみていない。もし日本(や、参加が噂される中国)が参加となれば、米議会が政府の交渉権限を承認するかどうかさえ怪しくなる。

 無知蒙昧の一流紙トップが世論と政治をリードする日本の将来は、想像するのも恐ろしい。管政府も、日本がTPP参加などと言えば、TPPそのものが崩壊に瀕することくらい知るべきだ。

  太平洋FTA―首相は交渉参加の決断を(朝日、10月26日:http://www.asahi.com/paper/editorial20101026.html#Edit1)

 「内閣府は、TPPに参加すれば国内総生産(GDP)が3兆円押し上げられると試算した。その数字の妥当性はともかく、FTAが貿易拡大と経済成長に役立つという効用は過去の例からも明らかだといえよう。 5年前のFTA締結で、日本からメキシコへの輸送機械輸出は15億ドル増えた。一方、日本と豪州とのFTA締結が遅れているため、自動車メーカーが豪州とFTAを結ぶタイへ生産拠点を移す動きも出た」。

 「TPP参加で農産物の輸入が増え、国内農業が著しい打撃を受けないかという心配が関係者の間にあることも理解できる」が、「安全で高品質な日本の農産物は、戸別所得補償など適切な政策を活用すれば、競争力を発揮できる。新興国の中間層や富裕層の拡大に伴う輸出市場の開拓も期待できる。高齢農家の農地を意欲ある農家に集め、自由化に負けない強い農業を育てる。そのためなら、農業予算がある程度膨らんでも、国民の理解は得られるのではないか」。

 太平洋経済連携 首相は交渉参加に指導力を(読売、10月27日:http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20101026-OYT1T01341.htm)

 「日本がTPPに不参加なら、経済発展に欠かせない枠組みから締め出されてしまう。早期に交渉に加わり、貿易拡大や新たな成長を目指すのは当然の判断だ」。

 「民主党政権は、農家の戸別所得補償制度を導入したが、国際競争力向上の視点を欠く。ばらまき政策を見直し、自由化に備えた農業の強化策を急がねばならない」。

 首相は環太平洋経済協定に参加決断(日経、10月23日:http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE3E4EAE4EBE6E4E2E0E1E3E2E0E2E3E28297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8D8D8D8D)

 「日本から海外への工場移転にも拍車がかかり、国内雇用を損ないかねない。競争力の源泉である技術の流出が進む懸念もある。米欧との協定がないままでは、日本企業は韓国企業と対等に競争できない。日本から海外への工場移転にも拍車がかかり、国内雇用を損ないかねない。競争力の源泉である技術の流出が進む懸念もある」。

 「米欧との協定がないままでは、日本企業は韓国企業と対等に競争できない。日本から海外への工場移転にも拍車がかかり、国内雇用を損ないかねない。競争力の源泉である技術の流出が進む懸念もある」。

 社説:環太平洋FTA 参加をためらうな(毎日、10月28日:http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20101028k0000m070118000c.html)

 「TPPは自由貿易協定(FTA)の構築で韓国や中国に後れをとった日本が追いつくチャンスだ。米国、チリ、豪州、マレーシアなど9カ国が関税引き下げのみならず、投資ルールの統一などをめざすもので、経済効果は10兆円との試算もある。逆にこの機会を逸すると、欧米市場さらには中国市場に関して韓国との競争条件に大差がつき、市場を奪われるおそれが強い」。

 「いま、先進的な日本のコメ農家は中国や米国に負けない競争力を有し、条件が整えば輸出さえ展望できる力がある。国の補助は農家の規模を拡大し、意欲のある農家を伸ばす方向に使わなくてはならない」。

 太平洋自由貿易農業と両立で国を開け(中日、10月28日:http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2010102802000013.html)

 「低迷が続く日本経済は、自動車や家電などの購買力を高めた中間所得層が急速に増えているアジア諸国との貿易を拡大して富を増やさなければ、新たに成長する道はない」。

 「韓国は安い農産品輸入に直撃される農家を救済するため、九兆円の巨費を投じる。日本も農家の戸別補償などを土台に収入減を補う政策を進め、貿易と農業との両立を図らねばならない」。