農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2014年11月19日(11.20最終改訂)

フランスの農業経営構造規制 前日記事「農水省 米生産費減へ・・・」の補遺

  昨日発表した記事:農水省 米生産費減へ生きた農民・農業を忘れた画一的「担い手」像で、フランスの農業経営構造規制について書きもらした。農業経営構造規制とは、地域の経済・社会等にかかわる目標に照らして、 経営の併合による経営面積の変動を規制し、「適正」な規模の経営の創出と維持を図ろうとするものである。1958年のオルドナンスにより導入された制度で、1962年農業基本法補完法により法律化され、1980年農業基本法、1999年農業基本法、2014年農業未来法で大幅に改定されてきた。担い手路線一辺倒の日本との対照を際立たせるために、 これに関して以下のことを付け加えることにした。

 当所、この規制の主眼は「既に十分に持てる者の増加を最小限にとどめる」ことにあった。構造政策の中心的推進者が中小家族経営の後継者を中心指導者とする全国青年農業者センター(CNJA)であったからである。1980年農業基本法以前のこの規制の基本的メカニズムは、省令により定められる上限を超える経営面積―それ以下の面積では国の経済援助が与えられない「自立下限面積(SMI)」の2−6倍―をもたらす併合を知事の事前の許可に服させるというものであった。併合が一つの経営面積をSMI以下に縮小させる場合、経営者(小作人)の同意なしに30以上の経営面積縮小をもたらす場合や経営に不可欠な建物を奪う場合も事前の許可に服さねばならず、法人による土地取得はすべてが規制に服さねばならなかった。

 ただし、この規制は取得時に農業者でない者には適用されない、併合を対象とする規制であるから既存のどんな巨大規模経営も対象にならない、規制は併合の「禁止」ではなく、必ずしもすべてではない申請者に対する「事前の許可」によるなどの欠陥のために、有名無実化していたとされる。

 構造政策(農業近代化)がもたらす農業人口流出=農山村砂漠化が社会問題となる中で成立した1980年農業基本法は、この構造規制 にかなりの改変をもたらした。それは構造規制の目的を次のように規程した。

 @一定の職業訓練を受けたか経験を持つ農業者の自立(経営創設、単なる「新規就農」ではなく、農業経営主としての自立を意味する)助成すること、

 A個人責任の家族経営の形成または存続に寄与し、また規模が不十分な経営の拡大を助長すること、

 B農業以外の社会または職業集団の自然人の農業への接近条件、並びに各県における兼業活動に結びついた経済・社会・人口にかかわる利益に応じて非農業農村就業者による兼業農業の実行条件を決定すること、としていた。(以上、拙稿 「フランス新農業基本法(資料)」 『レファレンス』 1999年12月号による)

 経営拡大・合体の際の上限面積はSMIの2−4倍に引き下げられ、青年農業者の自立の優先(申請の審査に際しては青年農業者の自立と経営拡大の優先関係を考慮しなけれならない)、新たな農業参入者や兼業農業への配慮が特徴となった。青年農業者自立援助金(DJA)は1973年に山地区域において創設され、その後全国的に拡大していたが、自立を阻む最大の要因は土地取得の困難であった(拙稿 「フランスにおける青年農業者自立・就農促進政策」 レファレンス 397(1984.2))

 それにもかからず、それによって規模拡大、農業経営と農業人口の減少の趨勢を覆すことはできなかった。グローバル化の進展で構造規制の上限を超える経営でさえ存続は難しくなる一方だ。これも当然の成り行きである。 

 左翼政権下で成立した1999年農業基本法は、急速な経営集中、特に従来の規制の抜け穴を利用した法人経営による急速な経営=土地集中が青年の自立を妨げているという認識の下、構造規制の 更なる改善を試みた。それは、その目的を次のように書き換えた。

 「構造規制の優先目的は、自立に向けて漸進する者も含めた農業者の自立を助長することである。

 それに加え、一もしくは複数の農業者の自立を可能にする存続可能な農業経営の分割を防止すること、

 規模、生産基準、もしくは援助への権利が県農業構造基本計画に定められた基準に比べて不十分な農業経営の拡大を助長すること、

 人口の変化と経済の展望により正当化されるところではどこでも、兼業農業者の自立を可能にし、もしくはその経営を補強すること」(これも拙稿 「フランス新農業基本法(資料)」 『レファレンス』 1999年12月号 による)

 青年の自立の優先や兼業農業の助長の方向が一層鮮明に打ち出された。法人の規制逃れの道が封じられ、大規模経営を優遇するフランス農政の面影は完全に消えた。

 それでも経営集中の趨勢は一向に止まらない。ただし、自立下限面積にも届かない20ha未満の経営の減少の1990年以降の鈍化は構造規制の多少の反映だろうか。青年農業者自立優遇の構造規制は、経営者の年齢に最もよく反映されているように見える。1988年から2000年の間の経営主の年齢構成をみると、40歳未満の経営主が24.2%から26.1%に増える一方、60歳以上の経営主は25.9%から20.4%に減っている*。先にも述べたように(フランス農業雇用に関する最新統計情報 経営主の平均年齢50歳 日本と大差)、2000年から2012年にかけても、経営主の平均年齢は49歳から50歳に一つ上がっただけである。 手放された土地を場合によっては先買権を行使して買入れ、細分地片の再編や既存経営の拡大、自立(経営創設)のために再譲渡するSAFER(土地整備農事創設会社、1960年農業基本法で創設。日本で今年から創設された農地中間管理機構はそれに似る)は、2012年、再譲渡(販売)農地の34%、29700haを自立農業者に配分している。自立に関わる1450の事業のうち、1230(80%)の事業が新規自立、150が他の活動を補完するための自立(つまり兼業農家としての自立)を助けるものという(SAFER白書:Le Livre blanc des Safer,juin 2013)。

 今年9月に成立を見た農業未来法**が、「地域農業経営指導計画は、様々な区域の特殊性と持続可能な農業地域計画に定められた経済・社会・環境上の目的を考慮して、地域の農業経営構造の適正化政策の方向づけを定める 」とし、新たな農業者の自立と多様な農業を助長し、過剰な経営拡大に対する規制を強化する諸条項を盛りこんだ(同法第32条) ことも書いておこう。

 しかるに、日本は担い手への農地8割集積に向けてまっしぐら、兼業農業も多様な農業も排除の対象でしかない。農山村砂漠化は必定だ。それでも「地方創生」だそうである。

 *Recensements agricoles 1988 et 2000:http://agreste.agriculture.gouv.fr/IMG/pdf/ra2000/nat.pdf

 **http://www.assemblee-nationale.fr/14/ta/ta0402.asp