(意見・論評)偏った情報で国民をミスリードするNHKの大罪 「ランドラッシュ」に寄せて

農業情報研究所(WAPIC)

10.2.16

 日本の食料や農業の将来をまじめに心配していると思われるグループのブログにこんな投稿が見られる。

 「ゴールドラッシュならず、ランドラッシュです。昨夜のNHKの番組を見ました。

 @2050年に人口が90億になったとしたら、30億トンの穀物が必要になるそうです。しかし、穀物の生産量は簡単に増やせるものではなく、25%も足りないという予想です。世界的な食料危機です。

 2年前の穀物急騰を背景に、世界では、穀物農地の争奪戦が始まっており、日本は完全に乗り遅れているという話でした。

 食品の値段が多少上がっても、日本は今のところ経済力があるので、さほどに感じません。危機感が全くありません。

 これに対して、例えば韓国です。一人当たりの経済力が日本の3分の1と言われている韓国では、その影響が3倍に増幅されます。韓国政府が海外で真剣に農地の囲い込みをするのは納得できます。

 日本も韓国も、自国の穀物の生産は、自給率が30%を切るようなレベルだそうです。その点では、日本も巻き返しを考える必要がありそうです。

 しかし、国内の自給率を上げるべきという声も大きいのは当然です。A1970年のデータで、日本の米(もみ)の生産量は、1648万トンというデータがありました。 その当時まで生産量を増やす力を、日本は持っていると思います。カロリーベースで、41%という自給率ですが、経済性さえ見合えば、倍増も夢ではないように思います。

 しかし、土地が荒れ、土壌が荒廃した今、油断できないのはもちろんです。善玉くんは、有機堆肥の優等生です。原料を消耗することなく効率よく生産でき、少ない量で大きな肥料効果があるものです。そして、善玉くんの技術は、様々な有機質に応用できます 。これを広げることが、日本の食糧事情を改善する大きなファクターになると思います。これを伝えることが、私の最も重要な仕事になりそうです。」(下線と下線部の前に付した番号は引用者がつけたものである)

 http://midorinonet.com/blog/zendamakun/917/index.htm
 信州みどりのネット/北信州型有機循環システム/環境ビジネスの広場/善玉くん通信:2010 年 2 月 12 日

 さすが天下のNHK(参照:(意見・論評)NHKスペシャル「ランドラッシュ 世界農地争奪戦」 際立つ「あさましさ」に不快だけが残る)、食料や農業について多少なりとも見識をもつ人さえ惑わしたようだ。NHKが煽る危機感をバネに有機堆肥を売り込もうという商魂は非難しようと思わない。しかし、この危機感にどんな根拠があるというのだろうか。

 @は、昨年9月、国連食糧農業機関(FAO)がローマでのハイレベル専門家会合を前に出したディスカッション・ペーパー:Global agriculture towards 2050の受け売りである。

 この30億トンには、人間の食料用穀物と家畜飼料用穀物が含まれる。その比率は示されていないが、現在利用できる最新の2005年の数字によれば(FAOSTAT)、20億4682万トン生産された穀物の36.1%に相当する7億3855万トンが家畜飼料として消費されている。途上国での食肉消費が増えると予想されている2050年には、この比率はもっと高まるだろう。いざとなれば、生産される穀物の40%近くを直接人間の消費にまわすことが可能ということだ。

 この数字が発表されたあとの昨年11月、同じFAOが、途上国で収穫される食料の15%50%が、生産物の価値を減らす不適切な成熟段階での収穫・雨ざらし・干ばつや極度の異常気温・微生物汚染・物理的損傷などで失われるという推定がある、収穫後に失われる食料は適切な投資と訓練で劇的に減らすことができると発表した(Post-harvest losses aggravate hunger,FAO,09.11.2)。そうだとすると、これをまったく考慮することのない生産量が25%足りないという予想も怪しげなものとなる。

 その上、ストックホルム国際水研究所(SIWI)・国際水管理研究所(IWMI)の研究によると、現在の世界全体の食用作物収穫量は1人1日当たりで4,600キロカロリーになるが、収穫後の損失で600キロカロリー、その一部を家畜に与えることで(肉などで取り戻される分を差し引いて)1200キロカロリー、流通過程と家庭における損失・廃棄で800キロカロリーが失われ、利用できるのは2,200キロカロリーと半減してしまう。

 Saving Water: From Field to Fork,SIWI and IWMI,Stockholm,May 2008.
  http://www.siwi.org/documents/Resources/Policy_Briefs/PB_From_Filed_to_Fork_2008.pdf

 ということは、生産に関して言えば、現在の収穫量だけで90億以上の人を養うことができるということだ。世界全体の穀物増産の困難を理由とする「食料危機論」には根拠がない。必要なのは、FAO自身が指摘するように、「不均衡と不平等に取り組み、必要とする食料への世界中のすべての人々のアクセスと、貧困を減らし・自然資源の拘束を考慮する方法での食料生産の実行を確保する適切な社会経済的フレームワーク」である(2050: A third more mouths to feed,09.9.23)。

 NHKは、FAOの真意さえ曲げて伝え、ナイーブな人々の危機感を煽りたてたのだ。NHKの罪は重い。

 Aについては、米の生産量を2倍に増やしたところで、米消費がそれだけ増える(すなわち、「経済性が見合う」)のでなければ、食料自給率は全然上がらない。日本の現在の食料自給率が40%にまで落ち込んでいる原因のほとんどは、米生産の減少ではなく、大部分が家畜飼料として使われるトウモロコシ(年にほぼ1600万トンの世界でダントツのトップ輸入国である。これだけのトウモロコシを生産するには、アメリカ並みの高収量を前提としても160万ヘクタールの土地が要る。韓国がマダガスカルで取得しようとして国際的批判を浴び、失敗した130万ヘクタールをも上回る土地が必要になるということだ)、食料・飼料用に使われる大豆、パンや麺類の原料となる小麦をのほほ100%を輸入に頼っていることにある。

 これらの輸入、従って消費を減らし、その代わりに国産作物の生産と消費を増やす以外、日本の食料自給率を引き上げる方法はない(逆に、これらの輸入が止まっても、米さえしっかり確保できれば、日本人が飢え死にすることはないということでもある)。NHKには、こうした事実を広く国民に伝えることをも期待したが、無駄だった。「大日本皇国国会」も顔負けだ(http://ameblo.jp/togaku2841/entry-10457129412.html