(意見・論評)NHKスペシャル「ランドラッシュ 世界農地争奪戦」 際立つ「あさましさ」に不快だけが残る

農業情報研究所(WAPIC)

10.2.12

 先週、NHK担当ディレクタ−からの連絡を受け、このHPトップページでも、「2月11日(木)、当研究所も取材準備に協力した「NHKスペシャル」番組(総合・午後10時)・「ランドラッシュ〜過熱する世界の農地争奪〜(仮)」が放映されます」と予告した。別の担当者制作の既放映番組(NHK 外国企業によるアフリカ農地争奪 あるべき行動原則と巨大なギャップ(紹介・意見),10.1.9)同様、こんなことが許されるのだろうかと疑念を抱かせるような良識と知性に基づく報道を期待したからである。

 ところが、放送当日の朝の新聞のテレビ番組欄を見ると、この番組について、「ランドラッシュ▽世界農地争奪戦▽再び迫る食料危機▽日本の食卓は大丈夫か」と出ている。そこで当日朝、前 記の予告に、急遽、

 「「日本も乗り遅れるな」といった類のけしかけだけは願い下げだ。今世界で起きていることは、食料自給率が1%にも足りない東京に本拠を置く企業が、東京都民の食料安全保障のためにと、財力にまかせて北海道の過疎の村の農地と林野を丸ごと買占め、これらの土地に生活を依存してきた人々の一部を労働者として働かせる大農場を造成することにも等しい。農村は都会人が食料を確保するための”植民地”ではない。そういうことを実感させる番組であって欲しい。同時に、食料自給率40%の日本、どうするなどと危機感を煽るのも御免こうむりたい。食料自給率がここまで下がっているのは、家畜の餌となるトウモロコシや大豆、パン・麺類の原料となる小麦を、ほぼ100%輸入に頼っているからだ。これらの輸入が止まったら肉やパンなどが今までほどには食べられなくなるだろうというだけで、国民が餓死に追い込まれるわけでもない(肉やパンがたらふくたべられないなら死んだ方がましという人は除いての話だが)。いたずらに危機感を煽るのではなく、こういうことをしっかりと国民に伝えるのも、マスコミの重要な責務である」

と付け加えた。

 そして本番、まさに一片の「良識と知性」も感じられないイデオロギッシュなものだった。世紀の世界農地争奪に挑む日本政府の腰が定まらないために、ウクライナやロシアの土地争奪で日本企業が惨敗している、人口増加による世界的食料不足が予想されるなか(これ自体、我田引水の国際機関予測を鵜呑みにしたものにすぎない⇒クリントン国務長官 飢餓との闘いでGMが決定的役割 食料増産を助ける米国の主要手段,09.10.17)、これでは日本人の食料確保が危うくなると危機感を煽り、政府と商社の尻をたたく。「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」を立ち上げ、日本企業の海外農地取得の後押しに乗り出した外務省や農林水産省さえ目を白黒だろう。

 ただし、あまりにやりすぎたために、番組制作の意図は空回りしてしまったようである。これでもか、これでもかと映し出される極東ロシアの土地取得で日本に勝利した韓国の企業やこれを後押しする韓国大統領、土地を外国企業に売り込む現地ブローカーやウクライナ農民の姿を見ていると、「あさましさ」だけが目立つ。多くの視聴者も、日本の食料の将来を案じる前に、日本政府や企業のこんなあさましい姿は見たくもないという思いをつのらせたではないだろうか。この意味では、この番組は、その意図に反し、食料をめぐる日本人の世界観が健全さを取り戻す大きなきっかけを与えた功績を称えられるべきかもしれない。ただし、こんな下劣で不愉快な番組は二度と見たくはない