農業情報研究所意見・論評または東電福島第一原発事故関係2011年7月9日 (7.11追補)

農水省の大罪 農地除染は放置 放射性物質を含む汚泥肥料の流通容認

 「福島市内の放射線量は、いまなお毎時1マイクロシーベルトに達している。福島県内では、避難指示が出されていない地域においても、低線量被曝をめぐってさまざまな議論が巻き起こっている。原発の被災者に寄り添う視点を、マスメディアは失っていないか」(神保太郎 「メディア時評」 世界 2011年8月号 112頁)。そんななか、「他の一般紙の報道記事とひと味もふた味も違っている」(同、126頁)のが東京(中日)新聞特報部の原発事故報道だ(⇒農業情報研究所:原発事故関係内外報道集)。東京新聞でも、ときに農地除染のための「ヒマワリ作戦」を称えるなどの見当はずれの記事(⇒農業情報研究所:困ったこと 「ヒマワリ作戦」に高校生集結)を見かけるが、本日の特報部の記事・「放射性物質含む汚泥 肥料化OKに懸念」(朝刊 24面)は、まさしく本領発揮だ。

 農水省は先月下旬、公共下水道汚泥や集落排水汚泥を肥料原料として使う際の基準を「関係都県」(汚泥から放射性セシウムが検出された岩手県、山形県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、長野県、山梨県、静岡県、新潟県)*に通知した。前者については「汚泥中の放射性セシウム濃度が200 Bq/kg以下は肥料原料としての利用を認める」、後者については「汚泥中の放射性セシウム濃度が@農地土壌の濃度より低くかつ、A1,000 Bq/kg以下は肥料原料としての地域内利用を認める」というものだ。

  *その後、青森県でも検出(⇒浄水汚泥からセシウム/八戸水道 東奥日報 11.7.9)

 汚泥肥料中に含まれる放射性セシウムの取扱いについて(農水省)

 公共下水道汚泥を使う汚泥肥料生産者は、原料汚泥の放射性セシウム濃度が200 ベクレル/kg以下であることを確認のうえ原料として使用し、搬出元・数量等とともに記録・保管を行う、 集落排水汚泥排出者が自ら汚泥肥料を生産・販売し・排水の集水区域内に肥料を施用する場合、この排出者は原料汚泥について放射性セシウム濃度を測定し記録・保管するとともに農林水産省農政事務所等へ毎月10日迄に報告するのだという。ただし、これは罰則なしの自主管理の指針である。

 筆者に言わせれば農水省の大罪ともいうべき汚泥肥料の流通承認だが、他のマスメディアが沈黙するなか、東京新聞特報部が漸くこれに噛みついた。記事は、1キロ当たり200ベクレル以下の根拠について、農水省担当者は「10アールの土地を表面から15センチの深さまで耕し、4トンの汚泥肥料を使ったと仮定する。この場合、土壌1キロ当たりで換算すると、5ベクレル。コメの作付けは同5000べクレル以下なら認められており、問題のない数値だ」と主張する、と書く。

 農作物に含まれる放射性セシウムの暫定規制値は1キロ500ベクレル以下、土壌からコメへの放射性物質移行係数は0.1(これだって確かな根拠があるわけではない)だから、基準以下の放射性物質を含む汚泥肥料を使ってもコメに移るのは0.5ベクレル以下、何の問題もいというわけだ。

 [記事が触れていない汚染農地から集落排水汚泥についていえば、これを廃水地域内の農地に戻しても、元の農地の汚染度は高まらないということだ―7.11追補]

 しかし、記事は、近畿大の山崎秀夫教授(環境解析学)の「いくら低濃度であっても、明らかに汚染されている肥料を使うことは問題だ」、「低濃度でも大量に使えば、それだけ蓄積量が増える。環境学的には原理原則に反する」という談話を引き出す。「環境学的」などと言わなくても、「汚染されていない田畑をわざわざ汚したり」する行為を、どうしてわざわざ認めるのか。  [排水で折角洗い流されたセシウムを、何故、わざわざ元の農地に戻すのか―7.11追補]。農水省以外、誰にも理解できない。記事は、さらに、法規制されている有害な重金属を含む肥料についてさえ業者の違法行為が環境破壊を招いたケース(徳島県三好市井内谷川、04年)をあげ、「放射能汚染された汚泥肥料も、悪質な業者が同様な汚染を引き起こしかねない」という市民団体「徳島県廃棄物問題ネットワーク」の代表者の懸念を伝える。

 山崎教授は、「下水道処理場に放射セシウムを含む汚泥がたまりすぎて、それを解消するために基準を決めたのだろう。本来なら、こうした汚泥の再利用は望ましくない。どこかに一時保管すべだ」と、農水省に通知の撤回を訴える。

 政府(農水省)は、各水田土壌の放射性セシウム濃度が5000ベクレル以下であることや用水の汚染も確認することもなく、福島県や県外の「ホットスポット」を含む広大な面積の水田で田植えが進むのを許した(放置した)。その上、汚泥肥料による土壌汚染の高度化と全国拡散さえ助長する。他方、大部分の食品が検査をされることなく流通しており、基準値そのものもに対する疑念も消えないことから、国内外の消費者の食品安全への不安は消えるどころか高まっている。

 そんななか、最優先すべきは、土壌汚染の徹底したモニタリングと汚染土壌の除染である。それによって、消費者の信頼と農業の回復が可能になる。政府(農水省)は、原発事故以来、これとまったく逆のことししかしてこなかった。政府は、自ら日本農業を傷つけたと知らねばならない。


 なお、どれほど汚染された汚泥肥料が出回っているのか、今のところ全くデータがない。先日、筆者のHPの一読者という方から、福島のホームセンターで売っている腐葉土等のサンプルを各所に送り、某農政局関係の方から、本品は腐葉土というより混合堆肥で、「スペクトル分析の結果セシウム134と137と判断が可能」との非公式コメントを頂いたという知らせが届けられた。ホームセンターで売られている安価な堆肥や腐葉土には下水処理場で出た活性汚泥が混合され、販売量を水増することが常態化していることの結果ではないかという。もしそうなら、全国の田畑どころか、各家庭のホー ムガーデンにまで汚染が広がることになる。

 国は通知の撤回だけでなく、汚泥肥料の流通実態を調査、放射性物質検査体制を整え、放射性セシウムを多少なりとも含む汚泥肥料の流通を止める措置を早急に講じるべきである。