農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2014年9月10日

「農林水産業・地域の活力創造プラン」実行へ 「所得倍増」はアベノミックスのただの宣伝文句

  政府が9月8日、「攻めの農林水産業実行本部」の設置を決めた。「農業・農村全体の所得を今後10年で倍増させる」という大目標を掲げる「農林水産業・地域の活力創造プラン」を実行に移すためという。

 「攻めの農林水産業実行本部」の設置及び第1回会合の開催について 農林水産省報道発表 14.9.8
 攻めの農林水産業実行本部 農林水産省 14.9.8

 これに関し、西川新農林水産大臣は9月9日の記者会見で、「昨日、省内で、「攻めの農林水産業実行本部」、設置してスタートしました。そのとき、冒頭に、大臣、農産物の生産と並んだ需要の開拓ですとか、あるいは、2020年1兆円の、輸出目標ですね、それの引き上げなども言及されていらっしゃったんだと思いますけれども、まあ、改めて、意気込みとか決意とか、お聞かせいただけますか」という記者の問いかけに次のように答えている。

 「農林水産省、少し、生産を重視し過ぎたかな、というきらいは、私は持っているんです。それで、どの産業もですね、生産を大事に、いいものを作る、これ、当然のことです。しかし、同時にですね、自分たちの作ったものを、いかに売るかと、こういうことを考えないと、やっぱり、産業として競争力、弱くなりますね。そういう意味で需要の開拓、これは、内外共にですね、みんなで取り組んでいこうと、こう思っています。それから、輸出の問題、4,500億(円)、5,500億(円)と、まあ、上がりだしておりますが、2020年に1兆円を目標にしておりますけれど、非常に、去年、おととしの間の上がり具合、順調でありますし、これから、特に、人口の大きい国にも目を向けて、この売込みをやっていきたいと、こう思っておりますので、今、1兆円、目標ですが、可能な限り、これをオーバーしていきたいと、こう考えておりまして、みんなで取り組んでいきたいと、この決意でございます」

 いくら生産しても売れなきゃしょうがない。その意味では「需要開拓」の強調は間違ってはいない。しかし、売ろうにもモノ(生産物)がなければしょうがない。これも真実だ。これから生産をどう増やすのか。所得を増やそうというなら、これは決して軽視できない問題、というより基本的重要問題だ。この発言は大雑把で誤解を招くかもしれない。しかしここでは、その真意は生産・販売の両輪を同じように重視すべきことを指摘したものと善意に解釈しておこう。福島第一原発を視察、「放射性物質の影響は福島第一原発の港湾内で完全にブロックされている」などと強調、廃炉や汚染水対策について「全体としてコントロールされている」と言った小渕優子経済産業相の大雑把さに比べれば、この大雑把さはまだ許される。

 「全体としてコントロール」 小渕経産相、福島第一原発視察 福島民報 14.9.8
 参照:汚染水 外洋流出続く首相の「完全ブロック」破綻 東京新聞 14.7.17;汚染水対策、手詰まり 廃炉作業遅れを懸念 河北新報 14.9.10

 しかし、所得増加のための具体的方策としてここに提示されているのは輸出倍増だけだ。日本農業新聞によると、西川農相は「農家所得を増やすには『他産業と組み、農家が価格決定権を持てる仕組みが必要』と指摘しており、実行本部の論点になる見込みだ」という。どうやら、これが所得倍増のための方策の2本柱ということらしい。

 「活力プラン」具体化 所得増大へ実行本部 攻めの農業で農水省 日本農業新聞 14.9.9

 しかし、現在(2012年)2兆9000億円ほどの「生産農業所得」、林業・漁業所得を合わて3兆4000億円ほどの農林漁業(漁家)所得に輸出5000億円増が丸丸所得として加わったとしても(農業総産出額に対する生産農業所得の比率である30%を適用すれば、所得として加わるのは1500億円)、農林漁業(漁家)所得は3.4兆円から3.9兆円(3.55兆円)に15%(4.4%)増えるだけである。農相がいうように輸出が1兆円以上、例えば2兆円に増えたとしても、所得効果は知れている(下図参照−データ出所は農水省)。倍増という大目標にはほど遠い。輸出拡大結構。ただ、それが所得倍増の手段などににならないと知るべきである。

 上図に見るように、農業産出額は1980年代半ばから90年代半ばにピークに達した後に急減してきた。それに応じて生産農業所得も急減してきた。林業産出額と生産林業所得の減少はもっと激しい。

 農相が言うように、生産増加の努力(耕地・家畜・農業人口・生産力の維持・増強)はもうほどほどでいいのなら、所得増加のためには生産物の単価を大幅に、もし倍増というなら2倍にも上げねばならない。しかし、安売りスーパーが全盛のいまどき、「他産業と組み、農家が価格決定権を持てる仕組み」で高価格を実現するなど幻想にすぎない。世界中、それに成功した国はどこにもない。いまやスーパーに勝てる「他産業」などない。それこそが今日の農業衰退の元凶だ。スーパーに勝つには、農家自体が団結(例えば協同組合を通じて)、価格交渉力を強めるしかない。政府は逆方向を向いている。

 生産増加は望めない。価格引き上げも期待できない。後は生産コスト引き下げしか所得増加の手段がない。しかし、生産資材(とその原材料)の多くを輸入に頼る日本、生産資材価格は上昇する一方だ。とりわけ円安による飼料や光熱動力の高騰は、経費減どころか農林漁家の廃業を余儀なくさせている(下図)。アベノミックスが退場しないかぎり、日本の農山漁村の未来はない。

 なお、政府・与党の農業・農村所得倍増目標がいかに荒唐無稽であるかについては、次の拙稿も参照されたい。

 第二次安倍政権の農政改革を問う―米政策見直し・構造改革と農業・農村・農民― 世界(岩波書店) 2014年4月号 188−197頁

 減少の恐れさえある中、ピーク超え狙う農業産出額 根拠は極めて非現実的(所得倍増戦略を問う) ニューカントリー(北海道協同組合通信社) 2013年7月号 26−29頁