豚インフルエンザ 何故パンデミック・フェイズを上げない?

農業情報研究所(WAPIC)

09.4.27

  世界保健機関(WHO)が25日夜、豚インフルエンザのパンデミック(世界的流行)フェイズの4以上への引き上げを見送った。人々の不安を煽るつもりは毛頭ないが、率直に言って納得がいかない。フェイズの定義と現実がかけ離れているように見え、また、「ワクチンの使用を含む介入を実施するための時間を稼ぐために、新たなウィルスを限定された地域に封じ込めるか、その拡散を遅らせるかする」というフェイス4の重要目標を達成するための行動にも既に遅れが出ているように見えるからである。

 (各フェイズの定義と各フェーズにおいてWHOとWHO加盟各国が取るべき行動については、Pandemic Influenza Preparedness and Response;http://www.who.int/csr/disease/influenza/PIPGuidance09.pdf を参照のこと)

 フェイズ4とは、「コミュニティレベルの発生を持続させることができる動物または人畜インフルエンザ様ウィルスの人から人への伝達が実証された」段階である。WHOによると、26日現在、米国政府は人間のA/H1N1豚インフルエンザの20のケース(ニューヨーク:8、カリフォルニア:7、テキサス:2、カンザス・オハイオ:各1)を確認したと報告した。20のウィルスすべてが同一の遺伝子型という。また、メキシコ政府は、18のケースの確認を報告した。32州のうち、19の州で疑われるケースが報告された。既にコミュニティレベルの発生を超えていることは明らかではなかろうか。人から人への感染であることも既に確認されている。

 スペインではメキシコ帰りの一人に豚インフルエンザ感染が確認され、イスラエル、ニュージーランド、スコットランドでも疑われるケースが報告されている。既に「新たなウィルスを限定された地域に封じ込めるか、その拡散を遅らせるかする」ことに後れを取った可能性も非常に高い。

 ワシントン・ポスト紙が26日付で伝えるところによると、米国公衆保健当局は、メキシコで豚インフルエンザの発生が増えていることを、メキシコが防御措置をスタートさせた後も1週間近く知らなかった。また、死亡が稀なインフルエンザ株で起きたことも、カナダ当局の報告まで知らなかった。

 2001年のテロ、2003年のサーズ、最近のH5N1鳥インフルエンザで、国・地方保健当局は、パンデミックにつながり得る病気の発生に備える膨大な計画を作り上げた。国や諸機関の間の開放的で頻繁なコミュニケーションがその「品質証明」だった。それにもかかわらずである。

 メキシコの疫学者が3月半ば以来増えていたインフルエンザに特別に注目したのは、4月12日に39歳の女性が死亡したときだった。メキシコ政府は、4月16日か17日に、WHOのアメリカ支部であるワシントンのパン・アメリカン保健機関に知らせた。どちらも、ジュネーブのWHO本部のインフルエンザまたはパンデミックオフィスにメキシコでの発生を何時知らせたか答えられなかった。

 メキシコは、この患者のウィルスのサンプルが今年のインフルエンザと違ったために、19日にカナダの国家微生物試験所に肺と喉から採った検体を送った。検体は22日にカナダに到着、6時間後、メキシコ当局は、CDCがカリフォルニアの患者から分離したのと同じ株の豚インフルエンザに陽性と知らされた。メキシコ当局は、その翌日、CDCと接触した。

 記事は、「国の間のコミュニケーションの遅れが実際にどんな結果をもたらしたかは分からない」が、メキシコで日々発見される豚インフルエンザが増えているかどうか問われた25日の記者会見で、CDCの担当者は、「そういう質問には答えられない」と言ったそうである。メキシコで起きていることを、未だによく知らない。

 U.S. Slow to Learn of Mexico Flu,The Washington Post,4.26
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/04/25/AR2009042501335_pf.html

 それとも、メキシコの状況を正視できないのだろうか。フェイス4となれば、メキシコだけでなく、金融危機に発する危機の最中にある米国経済に致命的な追い討ちがかかる。死んでもフェイス4などと言いたくないのだろう。

 ウィルスの世界中への拡散の防止は、もはや手遅れかもしれない。そうであればなおのこと、一刻も早いフェイス4、さらにはフェイス5(同じウィルスが、WHOの一地域内の複数の国で持続的なコミュニティレベルの発生を引き起こした)への引き上げが必要ではなかろうか。筆者の懸念が杞憂であれば、それほど結構なことはないが。