アフリカ肥料サミット 肥料不足解消を要請 化学肥料依存の土壌回復策に批判の声も

農業情報研究所(WAPIC)

06.6.14

 6月9日から13日まで、急速に養分を失いつつあるアフリカの土壌を回復するために低コストの肥料の供給を確保しようとナイジェリア・オバサンジョ大統領が呼びかけた農業専門家、閣僚、政策担当者による”アフリカ肥料サミット”がナイジェリアの首都・アブジャで開かれた。

 参照:アフリカの農地土壌が急速に劣化 作物収量維持のために肥料コスト削減が急務,06.4.1

 この会合について伝える報道によると、ロックフェラー財団の食料安全保障部長・Gary Toenniessenは、肥料過剰も問題だが、肥料過少も同様に問題だ、それは土壌養分が回復されないことを意味すると語った。サミットに参加した研究者たちは、これがアフリカの土壌を劣化させ、植物の生命を支える能力を減退させ、水不足と砂漠の拡散につながってきたと語った。会合に参加したアフリカの閣僚たちは、肥料へのアクセスを容易にし、一層手頃な価格にする方法を考えているという。

 会合は、諸国政府に対し、肥料を戦略的資源と宣言し、輸入されるとき、あるいはアフリカ諸国の間を移動するときに課税しないようにすることを要請した。また、アフリカ開発銀行に対し、肥料を農民に届けるために必要な輸送インフラを改善するためのローンを提供するように要請したという。

 Toenniessenによると、1ha当たりの土地に毎年使用される肥料は中国では350kg、オランダでは420kgであるのに対し、アフリカ農民は平均で8kgしか使っていない。また、彼は、大陸は肥料の燐成分を作るのに必要な燐鉱に恵まれている、サミットはアフリカが自身で肥料を増産するように奨励するだろうとも語ったという。

 しかし、サミットは有機農業運動からの批判を浴びた。国際有機農業運動連盟は、化学肥料は自然の循環を打ち壊し、化学物質依存を作りだすと、化学肥料に反論する声明を出したという。

 Fertilisers 'key to food crisis in Africa', says summit,SciDev.net,6.13

 実際、専ら肥料に焦点を当てたこのようなアプローチがアフリカの農業・食料・貧困問題の解決にどれほど寄与するかについては疑問がある。

 サセックス大学開発研究所の農業生態学専門家のIan Scoonesは、ル・モンド紙にインタビューで次のように語っている。

 Entretien:"Une révolution verte est possible en Afrique",Le Monde,6.8

 土壌の貧困は確かにアフリカ農業の基本問題の一つだが、この問題はすべての農民の問題ではない。地方的状況に応じた標的を絞ったアプローチが必要だ。それにもかかわらず、政策論議は一般化と低質な研究に基づいている。肥料供給の大規模プログラムの形でのアプローチは、より統合的で持続的な土壌管理を犠牲にした悪しきアプローチだ。

 以前のこのプログラムは1996年に始動したが、その実施で崩壊してしまった。大規模な計画というものは、地方的な複雑な現実にそぐわない。援助供与者は、それが最善の資金支出方法で、貧しい農民生活を改善すると思わなかった。肥料生産者にとっても、それが重要な収益源になるようには見えなかった。農民も、提案された”科学的”解決策が肥料問題に対する彼ら自身の様々な対応よりも優れているとは思わなかった。

 アフリカの農業問題を語るのは何時でも結構なことだが、大きな野心を伴うこのような企画は疑問だ。過去に失敗してきたし、将来も失敗する恐れがある。地方的管理システムを考慮するもっと控えめで、現場関係者参加型のアプローチがある。

 アフリカで”緑の革命”は可能か?農業はこの大陸が貧困から脱するための鍵を握るのだから、それは必要だ。だが、1960年代、70年代のアジアと同じようには起きない。地方の農業システムに置き換わるのではなく、それに支えられたもっと辛抱強いアプローチが必要だ。それは、開発政策により数十年来無視されてきた道路・灌漑・研究等々の基礎的インフラへの投資を前提とする。

 アフリカには、目覚しい成果を示す多くの土壌回復の具体例がある。それらの一般的前提は、掘割、井戸、小規模ダムなどによる水管理と結合した藁・有機肥料・アグロフォレストリーを通じての土壌有機物成分の改良だ。それは、基本的には地方に存在する資材に依拠する統合的解決策であり、農民はこれらの生産物の有効性を最大限にする方法を開発してきた。

 アフリカに希望はあるのか?そのとおりだ。それは、基本的には農民に固有の知識、彼らの経験と豊かな工夫の才に因る。

 サミットは、農業専門家や政治家がアフリカの農業・農民問題に真剣に取り組もうとしていないという批判を免れるための免罪符を獲得するだけのものなのだろうか。それとも、肥料産業の利益を拡大するためのものなのだろうか。サミットに参加した閣僚を招いた夕食会で、ナイジェリア国有肥料会社・NAFCONを買収したばかりの民間石油企業・Notore Chemical Industriesは、この機会を提供した農業大臣に謝意を表明、2007年半ばまでに肥料生産を60万トンにまで引き上げると約束した。農業大臣も招待に感謝の意を表明したという。肝心の農民はどこに行ったのだろう。

 Nigeria: Notore Pledges to Curb Fertiliser Shortage - Okoloko,This Day via AllAfrica.com,6.13
  http://allafrica.com/stories/200606130425.html