カリフォルニア 大気汚染の元凶として大規模酪農が槍玉にー農業が環境政策論争の重要論点

農業情報研究所(WAPIC)

05.8.27

 ワシントン・ポスト紙によると、米国・カリフォルニアの大気汚染の最大の元凶の一つとして農業ー大規模酪農ーが槍玉に上げられている。

 In California, Agriculture Takes Center Stage in Pollution Debate.The Washington Post,9.26
 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/09/25/AR2005092501172.html

 記事は、シエラ・ネバダとコーストレンジに挟まれ、南北に二本の高速道が走る州最大の農業地帯、サンウォーキン・バレーはスモッグが晴れることが滅多になく、呼吸器病を蔓延させる大気に包まれていると書き出す。地域の子供の15%が喘息もちで、この比率は国の平均の3倍にもなる。谷の最大の都市・フレスノの喘息もちの比率は国で3番目に高く、最悪のロサンゼルス、ヒューストンを競い合う。大気の状態がひどい日には、一部の学校は赤旗を掲げて両親に子供を外に出さないように呼びかけ、状態がよい日には緑の旗を揚げる。

 専門家は、車と発電所に並び、大規模酪農場を主要な汚染源として取り上げているのだという。彼らは、米国の環境政策論争では農業は目立つ位置を占めていないが、他の経済部門以上に土壌、大気、水に影響を与えている、排気に加え、国の土地の半分を占拠、大量の養分を含む排水が地方河川やメキシコ湾を汚染していると言う。大気について言えば、カリフォルニア大学デービス校のミカエル・クリーマン環境・土木工学教授は、谷の大気汚染の半分は農業に責任があると推定している。

 農業が引き起こす健康問題のために、州選出のディーン・フロレス上院議員は、農業に対する州大気汚染法適用免除の廃止を求めるようになった。彼は、農業は工場や発電所と同様に排出を抑制せねばならない、牛は車と発電所とともに主要汚染源に加わったと言う。しかし、環境活動家、規制官、農民は、牛の排気や古びたジーゼル設備などを政府がどこまで規制できるかで反目している。

 この地域は国の牛乳の5分の1を生産する大酪農地域だ。この夏、州大気資源局は、揮発性有機化合物やアンモニアを放出する酪農場を主要汚染源と位置づけ、1000頭以上の乳牛をもつすべての既存農場が許可を申請せなばならないと決めた。揮発性有機化合物は窒素酸化物と結合してスモッグを作り出し、アンモニアはスモッグと反応して微細粒子汚染につながる。

 しかし、酪農民はルールの科学的根拠を激しく攻撃、牛が排出するメタンやその他のガスを捕らえる技術を義務付ける計画を阻止した。地域の1900の酪農場の半分を代表する”西部統一デーリーマン”を率いるミカエル・マーシュは、「牛が世界中のすべての車やトラックより悪いなどとは信じない」、糞尿処理機の設置には全体で10億ドルもかかるが、これが義務ということになればどうやって払うのか、と言う。

 他方、地域住民は大規模生産者と戦う市民グループを結成した。このグループを率い、自ら喘息を患うトム・フランツは、「我々の肺が農業補助金として利用されているのだから、実際腹が立つ」と言う。グループは今月、大気浄化法の許可なしに新たな2800頭の酪農場を建設している近隣農民に提訴の計画を告げた。

 大規模畜産による環境汚染をめぐるこのような論争はカリフォルニアだけのものではない。ノースカロライナ、アイオワなどの公衆衛生活動家たちは、”監禁動物飼育事業”として知られる養豚・養鶏・酪農農場の規制を推進してきた。ワシントン(DC)地域では、藻の大発生で酸素が欠乏、魚やカニが息をできないチェサピーク・ベイの”デッド・ゾーン”を生み出す汚染の30%は農業によるものだ[筆者の6月の訪米中にも、この問題はマスコミを賑わしていた]。

 大規模畜産農場は最近数十年の間に急増した。農務省統計によれば、5%の農場が肉・乳用牛の54%をもつ。環境保護庁(EPA)は、近隣住民による呼吸器や眼の不調の訴えを受け、90年代半ばに巨大農場の調査を始めた。1999年には、ミズーリの養豚企業が養豚場のガス排出の監視に同意、会社は950万ドルを払って豚の排泄物と排出ガスを販売用乾燥肥料に変える技術を導入するという最初の成果を得た。ところが、ブッシュ政府が2001年、EPAに、企業に罰則を課すことにつながる農場排出ガスの調査の停止を命じた。

 EPAは先月、代替手段として、2008年半ばまで大気汚染違反での懲罰を免除する一方でEPAが問題の研究を2年間続けるという協約を2700の畜産企業と結んだ。協約を結んだ企業は過去の違反について違反の規模に応じて200ドルから10万ドルの罰金を一回かぎりで払い、この研究のために2500ドルを拠出する。

 EPAは、これが問題があるかどうかを決定するための最善の方法と言い、産業も歓迎する。しかし、これは、巨大家畜農場が相変わらず汚染を撒き散らし続けることを意味する。現実の問題に直面する近隣住民は、健康被害を逃れるためのEPAの即座の措置に頼る道を塞がれてしまった。

 しかし、ワシントン・ポスト紙は、「巨大家畜生産者に対するEPAの恩赦は、農民の最も忠実な同盟者[上下議員]でさえも公衆の感情の変化に敏感になっているから、一時的執行猶予にしかならない可能性がある」と言い、これら議員の発言を引用している。

 大量消費社会を支えてきた大規模畜産業も持続不能なときが訪れるのだろうか。米国では、巨大アグリビジネスが主導する企業農業の製品や食品以外でもメーカー品の再販売を一切許さない”ファーマーズマーケット”が着実に地歩を築きつつある。コミュニティーに溶け込もうと有機農業に転進する中堅農家も増えつつある。 

 ワシントン州州都オリンピアのファーマーズマーケットと有機転換中の近隣酪農農場し尿溜

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