熱帯地域で食料を確保し、熱帯林の生物多様性を守るのは小規模家族農業 米国の新研究

農業情報研究所(WAPIC)

10.2.23

 ミシガン大学の二人の研究者が、大量の食料を生産する一方で世界に残る熱帯林の生物多様性を保全する最善の方法は大規模な工業的農業だという多くの生態学者の通念を覆し、小規模な家族農業こそ二つの目的を達成するためのより良い方法だとする新たな研究を発表した。研究者によると、世界の多くの熱帯地域では、小規模 農業の生産性が工業スケールの農場の生産性に匹敵するか、それを凌ぐことができる。同時に、小規模な多角化した農業は、大量の森林破壊が進む熱帯地域における生物多様性の保全にも一層貢献する可能性が高い。

 残された大部分の熱帯林は断片化されており、農業にとりかこまれたつぎはぎ(パッチ)状態をなしている。これらつぎはぎの森林の生物多様性を維持しようと思えば、これらのパッチの間の生物の移動を可能にすることが肝要だ。そして、大豆、サトウキビ、その他の作物の巨大なモノカルチャー・プランテーションよりも持続可能な農業技術を採用する小規模家族農場の方が、種の移動にずっと有利な環境を提供するだろうという。

 この研究は、2月22日、全米科学アカデミーのProceedings誌(PNAS)オンライン版で発表された。ミシガン大学の22日付の報道発表が伝えている。

 SNRE Professor Perfecto co-authors PNAS paper on family farms, biodiversity and food production, University of Michigan Press Release,2.22
 http://snre.umich.edu/newsroom/2010-02-22/snre_professor_perfecto_co_authors_pnas_paper_on_family_farms_biodiversity_and_f

 研究者によると、一部の生態学者は、北米東部の歴史が熱帯の将来を予見するモデルを提供すると言う。ヨーロッパによる北米東部の植民地化は、農業の拡大による大量の森林破壊につながった。しかし、その後、工業化が人々を都市に引きつけ、森林は回復した。このシナリオは森林遷移モデルとして知られている。同様なことが熱帯で起きれば、農村人口減少で保全のために利用できる土地が増えるだろう。このモデルは、農業を大規模なハイテク農業に統合すれば、生産性が上がり、保全に当てられる土地が増えると推論する。

 しかし、研究者は、コスタリカ、エルサルバドル、パナマ、アルゼンチン、ブラジル、メキシコのケーススタディをレビュー、「森林遷移モデルが熱帯に有用であると示唆するものはほとんどなく」、それは「楽観的にすぎる予見」だと結論した。そして、森林遷移モデルに代わるクオリティマトリックス・モデルを提案する。これは、熱帯地域における保全計画の堅固な基盤を提供する。

 残った熱帯林は農業の大海のなかの孤島のようなものと考えよ、大海とは研究者がマトリックスと呼ぶもので、撹乱が起きていない自然のハビタットの間の地域のことであるという。そして、ハイクオリティマトリックスとは動物と植物が残った森林のパッチの間を移動することを可能にするもので、与えられた種が生き残る可能性を高め、生物多様性の保全を助ける。

 農業生態学的技術を使用する小規模家族農場は自然の森林ハビタットに非常に近く、植物と動物が森林の断片の間を移動することを可能にする回廊を作りだす。この技術には農薬に代わる生物学的防除、化学肥料に代わる堆肥やその他の有機物の施用、アグロフォレストリーの利用も含まれる。種の保全に関心があるなら、その関心は自然ハビタットの断片の保全だけでなく、断片の間の地域に向けられねばならない。熱帯における大農場を分解し、それぞれが土地の管理に最善を尽くす多数の小規模農民を奨励すべきである。

 研究者は、これは小規模で持続可能な農業こそ世界の飢餓を軽減し、同時に持続可能な発展を促進する最善の方法だと結論した農業科学・技術国際アセスメントIAASTD) 総合報告注)の発見に沿うものだと言う。

 注)http://www.agassessment.org/reports/IAASTD/EN/Agriculture%20at%20a%20Crossroads_Synthesis%20Report%20(English).pdf
   参照:キューバ農民 農業生態系重視 伝統農法の回復で食料生産に大変革,08.5.15