マリ 外国資本の農地開発で小農民が水飢饉? 食料不安が煽る持続不能な食料増産

農業情報研究所(WAPIC)

09.3.17

 西アフリカ・マリ共和国中部のニジェール川流域は、同国唯一の農耕地帯をなす。”ニジェール開発公社”が管轄するこの地域で平均3fを耕作するコメ生産農民が、彼らの組合本部に集まった。一人が口火を切る。「政府の政策は外国投資に向けられている。だが、我々の将来はどうなる?大規模事業者が居座るとなると、水路網はみんなの必要を満たせるのか?」。これが、4月15日付けのル・モンド紙の伝えるマリ稲作農民の最近の不安である。

 curité alimentaire (2/5) : au Mali, les nouvelles mises en culture bénéficient surtout aux investisseurs libyens,Le Monde,4.15

 1930年代のフランス植民者による公施設(公社)の創設に際し、地域では100万fの耕作が可能と見積もられた。しかし、今耕作されているのは8万fにすぎない。政府は、2020年までに、さらに12万fを開発する任務を 公社に与えた。マリのコメ自給を達成し、あわよくば輸出もしようというのである。しかし、国にはこれを実現するための金がない。外国資本で土地を開発、道路も灌漑水路も作ろうということだ。

 拡張計画はそれだけではない。農民たちによると、外国人(企業)がかかわる36万fの拡張計画がある。小農民がかかわる計画もあるが、関係面積はたったの9000fにすぎない。これらには、ミレミアム・チャレンジ勘定の名でマリと協力する米国政府が資金を供給する1万4000fの整備も含まれる。新たに灌漑される土地の一部は原住民に分配されるだろう。しか、残りは誰に?

 リビアの最高権力者・カダフィ大佐が関係するマリビア社への10万fの配分が大評判になった。この土地は、灌漑水路の最上部に位置する。農民たちより先に水を取ってしまう。中国人による水を大量に使うサトウキビ栽培計画もある。既に6000fが耕作されている。

 公社によると、更新可能な30年の借地権を与えられたリビア人が、2万5000fの開発に着手した。米国・南ア資本グループの1万5000fのサトウキビ栽培計画もある。別の1万1000fが西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)に与えられ、加盟8ヵ国の国籍を持つ者が入植する。

 しかし、公社責任者は楽観的だ。土地を求めてやってくる者はみんな輸出を望んでいるが、少しはマリにも残ると思う、農民が農業労働者にならないように保証することも必要だ、学校や無料診療所も要求するという。ただし、水の分配は困難が予想されるとは自覚しているそうである。


 4月18日から、初のG8農相会合がイタリアで開かれる。フィナンシャル・タイムズ紙が入手したその報告案は、増加する人口を養うために農業生産を倍増させなければ、世界は永続的食料危機と世界的不安定に直面すると述べているそうである。

 World faces lasting food crisis and sistability,warns G8 report,Financial Times,4.6,p.1.

 これでは、貧しい国の農村社会・環境・食料安全保障を脅かす豊かな国と企業の海外農地ラッシュを煽るだけだろう。持続可能な方法で食料生産を倍増できるほどの容量を地球はもたない。

 生産を倍増させる必要はない。効率的な収穫技術や貯蔵・輸送施設を欠くために畑や貯蔵・輸送の過程で生じる途上国における損失、加工・流通段階、家庭・食堂などでの最終消費段階での廃棄による先進国における損失をなくし、家畜飼料用に消費される穀物の量を減らすだけでも、利用可能な食料を倍増させることができる(食料・水問題の解決には食料損失・廃棄の削減が決定的に重要ー新研究,08.5.26)。

 コメ消費量の倍にもなる飼料用トウモロコシを輸入することで食料自給率を40%に引き下げている日本も、一刻も早く生産増強をとあわてふためくことはない。第一、1500万トンもの輸入飼料用トウモロコシを生産するには、米国並みの10トン/fの高収量を前提しても150万fもの農地が要る。現在のような畜産食品消費を続けるかぎり、日本には自前でそれを支える資源(土地)がそもそも存在しないのだ (つまり、日本の食料自給率の低さは、元気な若者や”やる気のある”企業などの農業参入で意味あるほどに上がるといった性格のものではない)。

 だからといって、輸入が途絶えたときの食料危機を恐れる必要もない。肉や卵や牛乳が、いまほど安く、大量に食べられなくなるだけだ。コメさえ十分にあれば、飢えることはない。主食、米粉としての米の消費拡大に加え、今は経済的・技術的にトウモロコシ飼料に太刀打ちできない国産飼料(米を含む)による畜産を国をあげて支援すること、そうすることでコメの生産基盤を維持・増強することができる。

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