違法伐採を止められないインドネシア 温暖化防止を口実に国際援助増強を要求

農業情報研究所(WAPIC)

07.10.22

  今日の朝日新聞(朝刊)が、”「ポスト京都」の温暖化対策を話し合う12月の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP13)で、ホスト国のインドネシアが、開発途上国の森林破壊に歯止めをかけるための「特別基金」と「市場取引メカニズム」の創設を提唱することが分かった。同国政府高官が明らかにした”と報じている。

 ウエブ版:森林保護の基金提唱へ インドネシア、COP13で  朝日新聞 10.22

 これは、先月24日の気候変動に関する国連ハイレベル会合の傍ら、25日にインドネシア・ユドヨノ大統領が世界の熱帯雨林の大部分を持つ国々ーブラジル、カメルーン、コンゴ、コス・タリカ、ガボン、マレーシア、パプアニューギニアーに呼びかけ、同意を得たことだが(RI wants more green support,The Jakarta Post,0,9.26)、大”朝日”が何故今頃”分かった”のか、全然わけが”分からない”。

 それはさて置くとしても、上のインドネシア紙も、この提案を、”違法伐採に対処する術を知らない国が緑のプロジェクトを支持できるかどうか懐疑があるにもかかわらず”と批判的に報じていることくらいは伝えて欲しいものだ。

 インドネシア政府は、国の森林伐採の90%を占めるといわれる”違法伐採”を止めることができなかった。資金の不足が決定的な理由ではない。”腐敗”、”汚職”こそがその主因である(インドネシア:森林消滅の危機、農民にも脅威,02.9.29)。

 ベルリンに本拠を置く国際的汚職・腐敗防止非政府組織・Transparency Internationalのアジア太平洋地域コーディネーターのリサ・エルゲスは、”違法伐採は腐敗病の症候だ。森林破壊が支配している国では、腐敗も非常に高度だ”、”森林は政府機関の統制化にあるから、関連省庁・政治家・地方官僚の腐敗をチェックする者は一人もいない”と言う(ENVIRONMENT-ASIA: Deforestation Symptomatic of Corrupt Regimes,IPS,10.20)。

 このような腐敗には、貧しい社会経済的条件、不十分な法と規制の枠組と執行のメカニズム、情報へのアクセス・透明性の欠如が寄与し、組織犯罪グループが、一部の国では軍さえもが腐敗を助長しているという。

 TI Asia Pacific Forestry and Corruption Programme Development Workshop, 25th – 27 July 2007, Bangkok, Thailand:Workshop Report

  環境団体は、先進国の資金提供を要求するよりも、森林破壊を止める法が先決と言っているそうだが、それも当然のことだ。

 Indonesia 'should stop deforestation' before seeking forestry funds,The Jakarta Post,10.20

 ユドヨノ大統領は、自らの無能を棚にあげ、歯止めがかかららない森林破壊を先進国から資金援助を引き出す格好の口実に仕立て上げている。この資金が腐敗をさらに助長することにさえなりかねない。

 「市場取引メカニズム」、この場合にはクリーン開発メカニズム(CDM)を通しての資金分捕りについては、大統領は、森林保護と引き換えに炭素排出権を獲得しようとする者は、節約される炭素にもっと高い価格を払うべきだと主張していた。しかし、インドネシア政府は、今や森林にかかわるCDMの要件の緩和も主張し始めた。

 Indonesia aims to ease terms for forestry CDM,The Jakarta Post,10.18

 京都議定書では、CDMの対象となる「植林」(aforestation)は最低50年間は森林でなかった土地の森林への転換、「再植林」(reforestation)は1989年以後の林地への転換と定義されている。また、それによる炭素排出削減量も計算されねばならない。違法伐採の跋扈を放置してきたインドネシアがこんな要件を満たすことをどうして証明できるのか。今頃になって気付いたらしい。

 資金を提供するならば、使用状況の有効な監視が不可欠、不適正な使用があれば返還さえ求める厳罰も必要だ。CDMの要件緩和は、ただでさえ有効性が疑われる森林CDMの効果をますます怪しげなものにする。インドネシアや巨大な熱帯林を持つ諸国が、気候変動抑制のために真剣に取り組む姿勢に転じたと喜ぶには早すぎる。温暖化防止は、 先進国から一層のカネをせしめるための格好の材料として利用され始めた。