EUバイオ燃料政策 世界の貧しい消費者の飢えにつながる恐れ EU自身の影響研究

農業情報研究所(WAPIC)

10.3.6

 EUのバイオ燃料促進政策はEU農民所得と農産商品価格を引き上げるだろうが、食料価格上昇か食料不足を通じて世界の貧しい消費者を飢えに直面させる恐れがある。これはバイオ燃料に批判的なNGOの主張ではない。情報公開法に基づきロイター通信に対して開示された116のドキュメントを含むEU自身のバイオ燃料政策影響研究の草稿に示された予測だという。

 EU drafts warn of biofuels' link to hunger,Reuters,3.5
 http://www.reuters.com/article/idUSTRE62420Y20100305

 2008年のEU再生可能エネルギー利用促進指令は、2020年までに輸送エネルギー消費の最低10%をバイオ燃料など再生可能エネルギーにすることをEU構成国に義務づけた(EU再生可能エネルギー利用促進指令採択 ブラジルエタノール業界が安堵の声,08.12.20)。これらの研究は、このような目標を達成しようとすればどんな影響が生じるかを研究したものだ。

 これらの研究は、農産物に対する新たな増大する非食料需要が農産物価格を上昇させ、農民所得を増やすことは疑いないとし、農民所得は2020年までに3.5%増えるという予想もある。しかし、このような望ましい影響の陰には、食料価格の上昇または食料不足に直面するかもしれない世界の貧しい消費者が支払う高い人間的コストがある。

 欧州委員会内部の通信には、こうした予測に使われたモデルは、「科学的に認められ、堅固なもの」の記されている(ただし、委員会報道官は、確たる結論を出すには一層の研究が必要と言っている)。

 このようなモデル研究の一つは、エタノール製造に使われる小麦などの穀物に対するEUの需要は今後10年の間に7%ほど増え、穀物価格は10%上昇すると述べる。

 別のモデル研究によると、やはりエタノール製造に使われる砂糖とトウモロコシの世界価格は、EUのバイオ燃料需要のために20%上昇する。EUのテンサイ生産も10%増えるが、砂糖の輸入も大きく増加する。

 EUバイオ燃料需要の最大の影響は、バイオディーゼル製造に使われる植物油の価格への影響である。2020年、EUは世界全体の半分近くのバイオディーゼルを消費することになる。これは、植物油価格の30∸35%の上昇につながる。EUの植物油輸入は2020年までに倍増、2000万トンに達する。この増加する需要の大部分は、インドネシアやマレーシアにおけるパームオイル生産の増加で賄われる。

 つまり、EUバイオ燃料政策は、世界の食料価格を吊り上げるだけでなく、熱帯雨林や泥炭地のオイルパーム農園への転換を促すことで、生物多様性喪失と温暖化促進にもつながる恐れがあるということだ。重ねて言うが、これは環境NGOの主張ではない。「科学的に認められた堅固な」モデルに基づく、EUのオフィシャルな研究が示すところなのである。温暖化防止を基本的目的とするEUバイオ燃料政策の存立が根底から問われている。