EU再生可能エネルギー利用促進指令採択 ブラジルエタノール業界が安堵の声

農業情報研究所(WAPIC)

08.12.20

  欧州議会が12月17日、再生可能エネルギー利用促進指令を採択した。内容は欧州議会と閣僚理事会の調整案(EU、バイオ燃料の持続可能性確保で欧州議会案から大きく後退,)のとおりだ。論争の焦点の一つをなした2020年までには輸送エネルギー消費の最低10%を再生可能エネルギーにするという欧州委員会の年初めの提案は維持された。EU市場輸出向けバイオ燃料の増産を通じて多くの途上国の社会と環境に重大な損害をもたらす恐れのあるこの義務的目標を廃止せよという世界中のNGOの主張は退けられた。ただ、10%にカウントされる”再生可能エネルギー”には農作物を原料とする第一世代バイオ燃料(多くのNGOはアグロ燃料と呼ぶ)だけでなく、再生可能資源を原料とする電気等あらゆる形態のエネルギーも含まれるという気休めの文言が導入されただけだ。

 補助の対象となり、10%にカウントすることのできる”持続可能なバイオ燃料”の基準も、ほぼ欧州委員会の提案通りだ。化石燃料に比べての温室効果ガス排出の最低削減率を35%にするという提案も維持され、ただ2017年からこれを50%(新たに生産されるものについては60%)に引き上げるとしただけだ。これでは、EUのナタネバイオディーゼル、マレーシアのパームオイルバイオディーゼル、ブラジルのサトウキビエタノールなど、特に森林や泥炭地の破壊を伴わないかぎり、みんな合格だ。

 高い生物多様性価値を持つ土地、炭素を多量に貯留している土地で生産された原料から製造されたものではないことという提案もほとんどそのままだ。提案ではなかった「社会的持続可能性」(労働条件や児童労働など)に関する配慮が加えられたが、欧州委員会に2年ごとの報告を義務付けただけだ。年初来、最大の論争点となってきた土地利用の間接的変化の温室効果ガス排出への影響についても、これを最小限にする取り組み方も含め、2010年末までに欧州委員会に報告を義務付けたにすぎない。

  European Paeliament:Position of the European Parliament adopted at first reading on 17 December 2008 with a view to the adoption of Directive No .../2009/EC of the European Parliament and of the Council on the promotion of the use of energy from renewable sources

 この指令が非関税貿易障壁を作り出すと恐れ、場合によってはWTOに提訴するとしていたブラジルの砂糖産業協会(UMICA)は、早速、バイオ燃料生産者・消費者・投資家に”ポジティブなシグナル”だと歓迎(安堵)の声明を出した。08年9月に採択されたアグロ−エコロジカルゾーニングなどの土地利用計画を持つ国の世界最大のサトウキビエタノール生産州・サンパウロ州ならば、こんな基準はすべて簡単にクリアできるという。

 UNICA News Release:12/17/2008 Approval of European Directive for renewables in transport a “positive signal” for biofuel producers, consumers and investors according to Brazilian Sugarcane Industry Association

 しかし、サトウキビ生産拡大の社会・環境 影響は決して透明とはいえない。早くから指摘されてきた土地の収奪と集中、劣悪な労働条件の拡大などのマイナス社会影響を否定する証拠は示されていない。

 スイス連邦素材科学技術研究所(EMPA)の04年のデータに基づく研究(*)によれば、サトウキビ収穫前の乾燥した葉の焼き払いや、多量の砒素を含む殺虫剤(ダコネート)の使用のために、人間の健康への影響(温暖化促進や大気汚染による)、生態系損傷(酸性化、富栄養化、陸生生態毒性、土地占有・改変による)などの環境影響を総合評価する”欧州エコインジケーター99”と呼ばれる方法で評価したブラジルのサトウキビエタノールのライフサイクル環境影響は、マレーシアのパームオイルバイオディーゼルや米国のトウモロコシエタノールを大きく上回り、ガソリンの3倍にも達する。

 *http://www.news-service.admin.ch/NSBSubscriber/message/attachments/8514.pdf
  英訳:http://www.theoildrum.com/node/2976

 間接的な土地利用への影響を無視してさえ、ブラジルのサトウキビエタノールが環境に優しいかどうか、少なくとも疑問がある。間接影響を考えればなおさらだ。

 セラードにおけるサトウキビプランテーションの拡大が、間接的にアマゾン森林地域への食料(大豆・牛肉)生産の進出を加速しているという指摘も古くからある。 地球の友・ヨーロッパの最近の報告は、EUの動物飼料・アグロ燃料の需要増大がユニークな森林の損失、重大な温室効果ガス排出、途上国の農村紛争を生み出している、EUは今や、家畜を養い、車を走らせるために、毎年、ドイツとハンガリーの 耕地総面積に相当する1600万fの外国農地を使っている、その大部分は南米にある、と伝えている。これも、少なくとも間接影響の一部をなすと言えないであろうか。

  http://www.foeeurope.org/agrofuels/FFE/Media%20Briefing%20final.pdf

 間接的土地利用変化の温室効果ガス排出への影響の科学的解明(バイオ燃料→土地利用変化で温暖化ガスが激増 森林等破壊防止規制も無効 新研究,08.2.9)から1年、EUでもバイオ燃料の持続可能性基準をめぐる議論が沸騰した。しかし、この1年の議論はいったい何だったのか。少なくとも途上国のバイオ燃料増産を煽る義務的利用目標だけは廃止せなばならなかった。