EU:欧州環境庁(EEA)、GM作物花粉による遺伝子移転に関する報告を発表

農業情報研究所(WAPIC)

2002.3.28

 EUの欧州環境庁(EEA)が遺伝子組み換え(GM)作物からの花粉による遺伝子移転に関する欧州科学在団(ESF)専門家の研究報告を発表した(EEA:Genetically modified organisms (GMOs): The significance of gene flow through pollen transfer)。この研究は、EUにおいて商業的利用が見込まれる油料種子ナタネ、テンサイ、ジャガイモ、トウモロコシ、小麦、大麦について、環境と農業への影響を評価するために最近の研究による知見を詳細に検討したものである(ヨーロッパにおけるGM果実についても、簡単なレビュー)。その上で、報告書は、組み換え遺伝子による作物と近縁野生種の汚染を防止するために、いくつかの作物の隔離距離の見直しなど、様々な考察と勧告を行なっている。詳細は別途紹介するつもりであるが、とりあえず、報告の要点を紹介しておく。

 油料種子ナタネ

 作物から作物、作物から近縁野生種への遺伝子の流れのリスクが高い。遺伝子の流れは遠距離に及び、完全な遺伝子隔離は難しい。これは、特に雄性不稔要素をもつ変種や系統に当てはまり、伝統的変種よりも高頻度、遠距離で受精能力のある近隣のGM油料種子ナタネと交雑する。栽培ナタネのB.napusuにおけるジーン・スタッキング(複数の形質の積み重なり)が作物中に観察されており、複合抵抗性遺伝子をもつ植物が広がり、自生GM植物に対する様々な除草剤使用が必要になるであろう。油料種子ナタネは多くの近縁野生種と他家受粉し、これらの種への遺伝子の流れは高度にあり得る。

 テンサイ(シュガー・ビート)

 作物から作物、作物から近縁野生種への遺伝子の流れのリスクは中位。テンサイからの花粉は1km以上離れたところでも比較的高頻度でみられる。根菜作物の他家受粉は、開花前に作物が収穫されるから、通常は問題にならない。しかし、一部は抽だいし、作物間の組み換え遺伝子移動が起きるであろう。耕作ビートと野生のハマフダンソウ(sea beet)の間の交雑と遺伝子移入が起きている。

 ジャガイモ

 作物から作物、作物から野生近縁種への遺伝子の流れのリスクは低い。収穫される塊茎が入り込んだ花粉の影響を受けることはないから、作物間の交雑は、通常は問題にならない。しかし、種子生産の場所では、汚染につながる近接作物間の交雑の可能性はより高い。自生植物が作期を越えて生存すれば、リスクはある。作物と近縁野生種の自然に起きる交雑や遺伝子移入はヨーロッパではありそうもない。

 トウモロコシ

 作物から作物への遺伝子の流れのリスクは中高位。GMトウモロコシは勧奨されている200mの隔離距離を越えて非GMトウモロコシと交雑するという証拠がある。ヨーロッパでは、野生近縁種との交雑については知見がない。

 小麦

 作物から作物、作物から野生近縁種への遺伝子の流れのリスクは低い。通常は、近接植物との他家受粉は起きない。小麦といくつかの野生大麦、イネ科植物との雑種は第一世代に限定されている。

 大麦

 作物から作物、作物から野生近縁種への遺伝子の流れのリスクは低い。大麦はほとんど完全に自家受粉で生殖し、花粉の量は少ない。ヨーロッパでは、大麦と野生近縁種の間で自然に生じた雑種は報告されていない。

 果実

 ストロベリー、リンゴ、ブドウ、プラムは他家受粉、雑種化の傾向があり、GM作物から他の作物や野生近縁種への遺伝子の流れは起きやすいであろう。ラズベリー、ブラックベリー、クロスグリについては、一部は情報がないために、予見はそれほど簡単ではない。

 考察と勧告 

 現在、これらの作物のいずれも、花粉を完全に封じ込めることはできない。従って、種子と花粉の移動は今以上に測定され、管理されねばならない。作物間の直接的な遺伝子の流れを最小化し、生存種子(seed bank)と自生植物群を最小限に抑えるために、空間的・時間的隔離のような管理システムが利用できる。隔離帯、作物その他の植物による障壁は、天候や環境の条件により完全とはいかないが、花粉分散を減らすことができる。生物学的封じ込め手段が開発されつつあるが、花粉・種子を通しての遺伝子の流れを制するために植物生殖をコントロールできるのかどうか、研究が必要である。

 作物と野生種との交雑・遺伝子移入にどんな意義があリ得るのか、今のところ明らかではない。操作された遺伝子が関連野生種にどのように発現するのかを予見するのが難しいからである。GM作物からの移入遺伝子を含む野生種の適応度は、移入された遺伝子と受け手側のエコシステムの双方にかかわる多くの要因に依存している。作物と野生近縁種の間の交雑の頻度を決定することは重要ではあるが、遺伝子が野生植物群に移入されるのかどうかを決定すること、そして重要な生態学的影響をもつレベルを確定することがもっと重要である。

 関連情報

 3月25日、「EEAの報告によれば、英国の実験サイトで使われているGM作物は他の作物を汚染する高度なリスクがある」と英国土壌協会がpress releaseを発表(GM crops in UK pose highest risk

 イギリス:土壌協会、GM実験の緩衝ゾーンで政府は混乱(農業情報研究所,02.3.12)

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