米国:科学アカデミー、遺伝子操作動物の安全性で報告書

農業情報研究所(WAPIC)

2002.8.22

 8月20日、全米科学アカデミーの政策提言機関・全米科学評議会がバイオテクノロジー動物、特にクローン家畜の安全性に関する報告書を発表した。この報告は、これら動物の安全性確保のためのルールを策定するために食品医薬局(FDA)が行なった諮問に答えるものである。ただし、この諮問は、安全性に関係して懸念される事項を科学に基づいて確認することだけを求めたもので、動物バイオテクノロジーの利益の確認や政策に関する勧告は求めていない。FDAは、今後、この報告を斟酌しつつ、独自のルール作りを進めることになろう。

 報告書が認める最大の懸念事項は遺伝子を操作された魚その他の動物が逃げ出し、野生の群に操作遺伝子が導入される可能性である。クローン動物製品の人間による消費については、今までのところでは安全でないという明証はないが、食品の構成に関する追加情報がなければ懸念事項を確認するのは難しいという。

 浩瀚な報告書つぶさに見ている余裕はないので、以下、報告書と同時に発表された緊急リリース(Potential Environmental Problems With Animal Biotech Raise Some Concerns; No Evidence Cloned Animals Are Unsafe to Eat, But Data Still Lacking,8.20)によって報告の要点を紹介しておく(報告書そのものは、⇒Animal Biotechnology: Identifying Science-Based Concerns)。

 ・最も懸念されるのは、高度な移動性をもち、容易に逃げ出し得るGE昆虫・甲殻類(貝等)・魚・その他の動物が逃げ出し、自然環境の中で繁殖する可能性である。これら動物の繁殖能力が自然界の同種動物よりも高いときには、この懸念は一層高まる。例えば、成長を速めるように操作された遺伝子をもつ鮭が自然環境中に放出されれば、食糧や「つがい」の獲得競争で野生鮭に打ち勝つ可能性がある。

 ・人間消費用に開発される遺伝子組み換え動物においては、遺伝子が他の種の動物から挿入されるときに発現する僅かな新たな蛋白質が、少数ではあるがどれほどの比率になるかは知られていない人々のアレルギーまたは過敏反応の引き金になる可能性が、低レベルではあっても存在する。新たな蛋白質をめぐる不確実性とアレルギー体質の消費者に対してあり得る影響は、「中位なレベルの懸念を誘発するに十分なほどに深刻である」。

 ・乳の中に薬品を生み出す牛のような非食用製品を生産するために遺伝子を操作された動物は食用を意図したものではない。しかし、そのような動物の死体の使用に制限を課すことには根拠がある。少なくとも、そのような動物の死体からの肉が食品製造に使われた例がある。

 ・バイオテクノロジーの適用は、いつの日か、食料や繊維の生産のために必要な動物の数を減らす可能性があるとしても、動物福祉に悪影響を及ぼす可能性がある。体内受精またはクローンを通して生産された子牛や子羊は、出生体重が大きく、妊娠期間も長い傾向があり、これは難産につながる。さらに、現在使われている技術のあるものは極度に非効率的で、生き残る胎児は少ない。生き残る動物の多くは、挿入された遺伝子が適切に発現せず、しばしば解剖学的・生理学的・行動的な異常が生じている。乳中での薬品生産のための遺伝子が動物体内の他の部位に移り、悪影響を引き起こす可能性もある。

 ・政策勧告は求められていないが、報告は、「動物バイオテクノロジーを規制する連邦当局の責任がいくつかの点で不明確であることを考慮すると、現在の規制のフレームワークは適切でないかもしれない」と示唆している(FDAや農務省は、他の目的のために作られた法律の「パッチワーク」をもつだけで、その意図は良しとしても、断片的で不適切)。

 「ワシントン・ポスト」紙(Gene-Altered Animals' Risk Detailed,The Washington Post,8.21)によると、FDA関係者は、少なくとも現行の法律はこの分野での規制の権限を明示的に与えていないと認め、この報告に基づく新たな政策を打ち出すことになろうし、より広範な規制が必要かどうか研究すると言う。

 なお、わが国農水省は、8月13日、クローン牛は食用として安全という実験結果を発表している(⇒報道発表資料:クローン牛生産物性状調査結果の概要について)。

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