ISAAA 2005年GM作物栽培状況を発表 イランがGM米栽培開始 全体的には閉塞状況
06.1.13
農業バイテクの国際推進団体・ISAAAが12日、2005年の遺伝子組み換え(GM)作物の世界的栽培状況を発表した。
要約版→http://www.isaaa.org/kc/CBTNews/press_release/briefs34/ESummary/global.htm
栽培面積は全体で9000万haと推定されており、前年の8100万haに比べて11%増えた。伸び率は2001年以来の各年間伸び率より若干低下した。ブラジルが大きく伸ばしたのに対し、従来の主要栽培国(米国、アルゼンチン、カナダ、中国)では頭打ちの傾向が見られ、これが全体の伸び率を押し下げたようだ。パラグアイ、インドの増加も目立つが、その栽培規模はなお小さい。その他の小規模栽培国では大きな伸びは見られない。
栽培国は前年の17ヵ国から21ヵ国に増えた。フランス、ポルトガル、チェコ共和国のEU3ヵ国とイランで新たに栽培が始まったためだ(第1表参照)。ただし、今のところ、消費者と環境団体の根強い抵抗を考えれば、ISAAAが期待するようにEU諸国で栽培が大きく伸びるという展望は描けそうjにない。
第1表 国別GM作物商業栽培面積(1996-2005年、100万ha)
1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | |
米国 | 1.45 | 7.16 | 20.83 | 28.64 | 30.3 | 35.7 | 39.0 | 42.8 | 47.60 | 49.8 |
アルゼンチン | 0.05 | 1.47 | 3.53 | 5.81 | 10.0 | 11.8 | 13.5 | 13.9 | 16.20 | 17.1 |
カナダ | 0.11 | 1.68 | 2.75 | 4.01 | 3.0 | 3.2 | 3.5 | 4.4 | 5.40 | 5.8 |
ブラジル | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 1.18 | ? | ? | ? | 3.0 | 5.00 | 9.4 |
中国 | 1.00 | 1.00 | 1.10 | 1.30 | 0.5 | 1.5 | 2.1 | 2.5 | 3.70 | 3.3 |
以上5ヵ国計 | 2.6 | 11.3 | 28.2 | 69.2 | >43.5 | >51.8 | >58.1 | >66.6 | 77.70 | 85.4 |
パラグアイ | - | - | - | - | - | - | - | - | 1.20 | 1.8 |
インド | - | - | - | - | - | - | <0.1 | 0.1 | 0.50 | 1.3 |
南アフリカ | 0.000 | 0.00 | 0.06 | 0.18 | 0.2 | 0.2 | 0.3 | 0.4 | 0.50 | 0.5 |
ウルグアイ | - | - | - | - | <0.1 | <0.1 | <0.1 | <0.05 | 0.30 | 0.3 |
豪州 | 0.000 | 0.20 | 0.30 | 0.30 | 0.2 | 0.2 | 0.1 | 0.1 | 0.20 | 0.3 |
ルーマニア | - | - | - | - | <0.1 | <0.1 | <0.1 | <0.05 | 0.10 | 0.1 |
メキシコ | 0.000 | 0.000 | 0.05 | 0.05 | <0.1 | <0.1 | <0.1 | <0.05 | 0.10 | 0.1 |
スペイン | 0.000 | 0.000 | 0.000 | 0.01 | <0.1 | <0.1 | <0.1 | <0.05 | 0.10 | 0.1 |
フィリピン | - | - | - | - | - | - | - | <0.05 | 0.10 | 0.1 |
コロンビア | - | - | - | - | - | - | <0.1 | <0.05 | <0.05 | <0.1 |
イラン | <0.1 | |||||||||
ホンジュラス | - | - | - | - | - | - | <0.1 | <0.05 | <0.05 | <0.1 |
ドイツ | - | - | - | - | - | <0.1 | <0.1 | <0.05 | <0.05 | <0.1 |
ブルガリア | - | - | - | - | - | <0.1 | <0.1 | <0.05 | <0.05 | - |
インドネシア | - | - | - | - | - | <0.1 | <0.1 | <0.05 | - | - |
フランス | 0.000 | 0.000 | 0.002 | 0.000 | <0.1 | - | - | - | - | <0.1 |
ポルトガル | 0.000 | 0.000 | 0.000 | 0.002 | - | - | - | - | - | <0.1 |
チェコ共和国 | <0.1 | |||||||||
ウクライナ | 0.000 | 0.000 | 0.000 | 0.001 | - | - | - | - | - | - |
計 | 2.7 | 11.5 | 28.5 | 37.3 | 44.2 | >52.6 | >58.7 | >67.7 | 81.0 | 90.0 |
注:2004年までの数字は、北林寿信「遺伝子組み換え作物の将来 その1 遺伝子組み換え作物の普及と開発の現状」 農林経済(時事通信社) 05年5月16日(9696号) 2-7頁による。
GM作物栽培農民は前年の825万から850万に増えたにとどまる。ISAAAは、その90%(770万)は”貧しい生業的農民”(中国:640万、インド:100万)で、バイテク作物が途上国の貧困削減で重要な役割を演じるようになったと、途上国における今後の急速な普及を期待する。
しかし、この発表に先立ち発表された”地球の友”のレポートは、GM作物の導入のされ方を見れば、それにより利益を得たのがGM種子を所有する巨大アグリビジネスとバイテク企業、輸出国の大規模農民であることは明白だ、「いくつかの途上国ー特にアルゼンチンとパラグアイーの小農民は、主として豊かな国に輸出するための大豆栽培の巨大な拡大を目指す大土地所有者により駆逐されてきた。ラウンドアップ・レディー大豆のようなGM作物はモノカルチャーを促進するから、アルゼンチンで最も劇的に見られたように、国の食料の多様性と安全保障を減退させる」、「GM作物は世界の飢餓の緩和にはいかなる貢献もしない。GM作物は圧倒的に豊かな国で栽培されるか、豊かな国に輸出されている」と言う。
http://www.foei.org/publications/pdfs/gmcrops2006execsummary.pdf
大規模に商業栽培されるGM作物は、依然として大豆、トウモロコシ、カノーラ(ナタネ)、ワタに限られている。しかも、大部分は、ほとんどが飼料に使われる大豆とトウモロコシだ(第2、3表参照)。地球の友は、「GM作物は、大部分が米国、ヨーロッパ、日本などの豊かな国における食肉生産と消費のための動物飼料となる。世界の貧しい農民は、彼らの家畜を養うための輸入大豆ミール・トウモロコシを購入する余力がない。ある程度のGMトウモロコシは人間の直接消費のために貧しい国に輸出されるが、それが通常のトウモロコシを上回る利益を与えることはまったくない」と言う。
第2表 作物別GM作物商業栽培面積(100万ha/%)
作物 |
栽培面積(同百分比) |
全栽培面積に対する百分比 |
||
2004年 |
2005年 |
2004年 |
2005年 |
|
大豆 |
48.4(60) |
54.4(60) |
56 |
60 |
トウモロコシ |
19.3(24) |
21.2(24) |
14 |
14 |
カノーラ |
4.3(5) |
4.6(5) |
19 |
18 |
ワタ |
9 (11) |
9.8(11) |
21 |
28 |
第3表 国別の商業栽培GM作物種類(2005年)
米国 |
大豆、トウモロコシ、ワタ、カノーラ(HT)、カボチャ、パパイヤ |
アルゼンチン |
大豆、トウモロコシ、ワタ |
カナダ |
カノーラ(HT)、トウモロコシ、大豆 |
ブラジル |
大豆 |
中国 |
ワタ(Bt) |
パラグアイ |
大豆 |
インド |
ワタ(Bt) |
南アフリカ |
トウモロコシ、大豆、ワタ |
ウルグアイ |
大豆、トウモロコシ(Bt) |
オーストラリア |
ワタ |
ルーマニア |
大豆 |
メキシコ |
ワタ(Bt)、大豆 |
スペイン |
トウモロコシ(Bt) |
フィリピン |
トウモロコシ(Bt) |
コロンビア |
ワタ(Bt) |
ホンジュラス |
トウモロコシ(Bt) |
イラン |
米 |
ドイツ |
トウモロコシ(Bt) |
フランス |
トウモロコシ(Bt) |
ポルトガル |
トウモロコシ(Bt) |
チェコ共和国 |
トウモロコシ(Bt) |
これらのGM作物の形質も、依然として除草剤耐性、害虫抵抗性か、これらを組み合わせたものに限られており、消費者に特別の便益をもたらすものではない(第4表)。再び地球の友によれば、「それは安くもなければ、品質が良いわけでもない。フランスのバイテク産業でさえ、現在市場で利用できるGM作物は消費者に便益を与えないと述べている。最も広く栽培されている除草剤耐性品種は農薬利用を大きく増加させるから[この点については、異なる結果を示す様々な研究があるが、バイテク産業が主張するように、農薬利用がどこでも、いつでも減るという証拠はなく、却って増える場合もあるということだけは確かである]、明らかにGM農業の環境便益はない。さらに、大豆の拡大は小農民を土地から追い立て、巨大メガファームを促し、森林破壊に寄与する」。
第4表 形質別GM作物商業栽培面積(100万ha/%)
形質 |
栽培面積 |
同百分比 |
||
2004年 |
2005年 |
2004年 |
2005年 |
|
除草剤耐性(HT) |
58.6 |
63.7 |
72 |
71 |
害虫(Bt) |
15.6 |
16.2 |
19 |
18 |
HT/Bt |
5.8 |
10.1 |
9 |
11 |
栽培国は増えたとはいえ、なお非常に限定されており、GM作物普及が閉塞状況にあることに変わりはない。ただ、イランが世界に先駆けてGM栽培を始めたことだけは注意に値する。ただし、これに関する情報は、なお乏しい。
ISAAAによれば、イランでは2005年、4000haにBtライスが栽培され、2006年には1万haから2万haの栽培が計画されている。
http://www.isaaa.org/kc/CBTNews/press_release/briefs34/ESummary/iran.htm
しかし、大規模栽培には環境省が強く反対しているという情報がある。
http://www.iran-daily.com/1383/2219/html/focus.htm
また、この米は人間が食べても安全であることを確認し、害虫抵抗性の発達などの環境リスクを最小限にするための一層慎重なテストを行うべきと言う研究者もいる。
http://www.afaa.com.au/news/news-1600.asp
ISAAAの期待通りに事が運ぶかどうか、なお不透明なところがある。ISSSAが早期にGMライスを承認すると見ていた中国も、結局は一層の安全性審査が必要として承認を先に延ばした(中国生物安全委員会 GMイネ商業栽培を承認せず 一層の安全性データを求める,05.12.12)。
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