EU GM作物栽培禁止権限を各国に 欧州委が来月提案するという報道

農業情報研究所(WAPIC)

10.6.5

  フィナンシャル・タイムズ紙によると、来月に予定されている欧州委員会の提案で、欧州連合(EU)各国が遺伝子組み換え(GM)作物の栽培を禁止する権限を与えられることになりそうだ。提案文書を見た人によると、計画は、それぞれの意にかなうどんな理由でもGM作物栽培を禁止する権限を各国に与えることで、GMOをめぐるEUの「麻痺状態」を終わらせる試みだという。

 Move to allow EU ban on GM crops,FT.com,6.4
 http://www.ft.com/cms/s/0/6654b40a-6fef-11df-8fcf-00144feabdc0.html

 現行ルールでは、各国はEUレベルで栽培が承認されたGM作物の栽培を、基本的には禁止することができない(域内自由流通というEUの大原則に反するからである)。EUレベルの承認の後に新たな「重大なリスク」が発見された場合、各国は一時的に禁止できるという例外措置(セーフガード)はあるが、この場合、EU レベルでのリスク再評価で新たな「重大なリスク」の証拠はないとされると、各国はこの禁止を解除せねばならないとされている。そして、実際にも、再評価が「新たな重大なリスク」を認めた例は一例もない。

 現在栽培が承認されているGM作物はモンサント社の害虫抵抗性性(Bt)トウモロコシ1種(MON810)、バイエル社の除草剤耐性トウモロコシ1種(T25)と、今年3月に承認されたBASF社のスターチポテト(EH92-527-1)にとどまる(EU 工業用遺伝子組み換えジャガイモの栽培を承認 フランス、イタリア等で拒否反応,10.3.3)。

 1998年に承認されたMON810については、新たなリスクは認められないという欧州食品安全機関(EFSA)の再三の再評価にもかかわらず、オーストリアとハンガリーが禁止の解除を拒み続けている。2009年3月2日の閣僚理事会は、解除を求める欧州委員会の提案を否決、両国の措置継続を助けた (EU オーストリアとハンガリーのGMトウモロコシ栽培禁止の解除に失敗,09,3.4)。オーストリアのT25禁止も、同じ閣僚理事会で解除を拒まれた。 さらに、2009年、ルクセンブルグとドイツもMON810の禁止に踏み切った。まさに、EUはGMOをめぐって「麻痺」状態にあるわけだ。

 来月新たな提案をするジョン・ダッリ保健・消費者政策担当委員は、各国は禁止権限を獲得する代わりに、オーストリアやハンガリーのような「引き延ばし戦術を放棄する」ことを望んでいるということである。 


 しかし、GMOをめぐる「麻痺状態」がこれで終わるのだろうか。この提案が通れば、一般的にはこれまでGM農業推進派であった英国、スウェーデン等北部諸国ではGM作物の大々的栽培が急速に広がる可能性がある。しかし、オーストリア、ハンガリー、イタリア、ギリシャなどは先頭を切って禁止に走るだろう。フランスやドイツなどの大国も一部GM作物の栽培は承認しない可能性が高い。このとき、生産物の域内市場流通をめぐって大混乱が起きるだろう。域内市場が「麻痺」してしまう恐れがある。欧州委は、この問題にどう対処しようというのだろうか。