ベトナム 農地の非農業用地転換を”最小限”に 食料安全保障と大量の離農に懸念

農業情報研究所(WAPIC)

08.4.22

  ベトナムのグエン・タン・ズン首相が、農地、特に水田の非農業用地への転換を”最小限にする”ように地方当局と関連機関に要請した。18日の政府ウェブサイトで、首相は土地法違反のプロジェクトは原状の農地に戻すべきであると述べた。政府は、農地の工業団地、都市区域、建設用地への無規制な転換が国の食料安全保障に悪影響を及ぼし、大量の農民を農業から追い出すことを恐れているという。

 首相は、自然資源環境省が関係諸機関と協力して、全国各省の農地利用状態を評価する特別委員会を立ち上げるように指示した。委員会は、ベトナム北部・中部・南部の人民委員会と共同で、草の根行政レベルでのゾーニングと農地利用戦略を点検する。点検結果は国の統計と比較される。

 首相の決定は、多くの地方組織が土地利用状況を再調査し、有効に利用されていないプロジェクト用地は原状に戻すことを要求している。

 自然資源環境副大臣によると、2005年から2007年の間に、ベトナムは3万4330fの水田を失った。そのうち、メコン河デルタの1万6000f、紅河デルタの8000fは非農業用途に転換された。多くのプロジェクトは、工業団地に転換できるように農地を休耕地に変えたが、実際にこれらプロジェクトに利用されている率は非常に低い。

 例えば、南部・ロンアン省のスェン工業団地(306f)は1997年に許可されたが、全面積の15%が未だ放置されている。国の主要米産地の大部分の省や都市が、投資を呼び込むために工業団地建設を競っているが、一部の省は外国投資家を引きつける能力を欠いているという。 

 PM asks authorities to protect farmlands,Viet Nam News,08.4.21
  http://vietnamnews.vnagency.com.vn/showarticle.php?num=01AGR210408
 


  ベトナム政府は、国内の米不足と米価格高騰を恐れ、今年の米輸出量を昨年の450万トンから350400万トンに減らすと決め、これに応えてベトナム食品協会も傘下輸出企業が7月よりも前に新たな輸出契約を結ぶことを禁じた。インドの事実上の米輸出禁止とともに、それが現在の米価格”暴騰”の大きな要因の一つをなしている。先週、今年国内生産で200万トンの米不足が予想されるフィリピンは、50万トンの輸入を目指す入札を募ったけれども、ベトナムはトン当たり1,200ドルの高値でも11万トンの供給を申し出ただけだった(タイ輸出業者も1,070-1,150ドルで20万トンをオファーしただけ)。

 だが、この事態を招いたのは、まさにこのベトナムの例が示すように、農業、基礎食料生産軽視の開発政策であった。価格高騰によって途上国の多くの人々が一日二食、一食しかできなくなる”食料危機”の原因については、誰もが中国やその他新興国の食料需要の爆発的増加やバイオ燃料用需要の増加を指摘するが、当然予測されたこの需要増大に備えるどころか、貿易自由化、規制緩和、補助金削減・撤廃、国営企業民営化を強要し、輸出商品(中国の日本向け野菜も含む)農業開発や工業化を優先した貿易政策、農業政策、開発政策で食料安全保障の最大の担い手である小農民や婦人を、従って食料自給力を木っ端微塵に痛めつけてきたことこそが今日の事態を招いた根本的原因であることには誰も触れない(参照:国連開発計画 アジア途上国は農業を重視 安価な輸入食料依存を減らさねばならない,06.7.3)。

 日本政府は洞爺湖サミットで食料問題を議題に取り上げるように要請、ゼーリック世銀総裁もこれを歓迎しているが、日本政府の最大の力点が、「食料輸出国による穀物の輸出規制を避けるための対策の必要性」(日本農業新聞、08.4.22 1面)というのでは、サミットの名が泣く。フィリピンが50万トンの米の調達にも四苦八苦しているときに毎年70万トンものミニマムアクセス米輸入を強要するような国際貿易政策を含め、既存の貿易政策、農業政策、開発政策の根本的見直しこそが目下の急務である。