英国、バイオエネルギー政策で一歩前進、タスクフォースとインフラ計画立ち上げ

農業情報研究所(WAPIC)

04.10.18

 英国政府が環境に優しい燃料として利用するために特別に栽培される作物の奨励に乗り出す。環境食糧農村省(DEFRA)は15日、ナショナル・ファーマーズ・ユニオンのベン・ギル前会長を長とする新たなバイオマス研究のためのタスクフォースを立ち上げると発表した(Energy: Biomass Study Task Force)。このタスク・フォースは、バイオマス・エネルギーの発展を阻む障害を研究、政府と産業が更新可能なエネルギーの目標と持続可能な農業・林業・農村という目的のためにこれを発展させるのを助けるという。

 同時に、エネルギー作物と木材燃料を収穫、貯蔵、加工し、エネルギー最終ユーザーに供給するのに必要な供給チェーンを開発するために農業者・林業者・関係ビジネスに350万ポンド(1ポンド=約200円)の資金を提供するバイオエネルギー・インフラ計画(Bio-energy Infrastructure Scheme)と、昨年2月の「エネルギー白書」が掲げた更新可能なエネルギー源からの電力生産のシェアを2020年までに20%に増やすという希望的目標の達成にはバイオマスが大きく貢献するとし、バイオマス市場を刺激するために導入すべき広範な措置を勧告した今年5月の「環境汚染に関する王立委員会(RCEP)」の報告(Biomass as a Renewable Energy Source)への政府への応答(Government's response to the biomass report)も発表した。

 これらの発表に当たっての報道発表(NEW BIOMASS TASK FORCE TO GENERATE GREEN POWER SURGE)によれば、ラリー・ホワイティー農業・食糧担当相は、「我々は低炭素エネルギー源の探求において将来に目を向ける。バイオマス・エネルギーには、気候変動と闘い、農業多角化の促進、一層の農村雇用創出に関して巨大な利益を生む潜在力がある」、「代替エネルギー源を存立させるために産業の信頼を確立し、生産者が畑や森林からバイオマスを得、市場に出すことを容易にしようと望むならば、障害が克服されねばならない。ベン・ギルと彼のチームは、これらの問題に取り組み、我々のエネルギー目標へのバイオマスの貢献を最大限にするのを助ける」と言う。

 昨年2月の政府「エネルギー白書」は、地球温暖化と闘うために、英国電力の更新可能なエネルギー源からの供給を、現在の3%から2010年までに10%に増やす目標をかかげ、2020年までにはこれをさらに倍増するという希望的目標も述べた。ところが、今年5月のRCEPの報告は、更新可能な有益なエネルギー源としてのバイオマスの利用は、これを達成するための重要な要素であり、世界のいくつかの国ではバイオマス・エネルギーは十分に確立されている―技術は立証され、利益が証明されているにもかかわらず、英国での開発は遅れており、既存の政府のバイオマス・エネルギー支援措置は複雑で、相互に矛盾する恐れがあると批判、政府の政策の合理化を提案、バイオマス・エネルギー・インフラストラクチャーの開発を奨励することでの政策を一層効果的にする方法を示した。今回の政府の動きは、これに対する一定の対応が取られ始めることを意味する。

 既存のバイオエネルギー政策

 イングランドでは、エネルギー作物計画が、生産調整のための休耕地へのエネルギー作物としての短伐期雑木やミスカンサスの植栽を助成してきた。最近の共通農業政策(CAP)の改革により、非休耕地でのエネルギー作物栽培のために、1ha当たり年45ユーロ(1ユーロ=約137円として、6,200円ほど)の追加支払が行われるようになる。

 林地助成計画の下では、新たな林地創出、適正な管理の奨励、既存林地再生のための助成が提供されている。農場に新たな林地を創出する農場林地奨励計画もある。

 インフラストラクチャーに関しては、エネルギー作物計画が、短伐期雑木生産者集団設立のコストの50%までを補助している。

 さらに、エネルギー作物のユーザーに関しては、かつて、エネルギー作物とその他のバイオマス原料を燃焼させる熱・電気生産プロジェクトに投資するディベロッパーや組織が助成されてきた。現在は、新たな新バイオエネルギー市場計画が策定されている。2002年更新可能義務指令は、イングランドとウェールズのすべての認可電気事業者に、全販売額の増加する割合を指定された更新可能なエネルギー源から調達することを義務付けた。発電事業者は、既存発電所でのエネルギー作物の化石燃料との混合燃焼についての「更新可能な義務認証(ROC)」を受けることができる。

 資金供与や助言により更新可能なエネルギーに一層馴染む機会を家屋所有者やコミュニティーに与えることを目的とする1,000万ポンド(1ポンド=約200円)のクリア・スカイ・イニシアティブや、主として熱電併給技術を使う新たな計画の策定や旧いインフラストラクチャーや設備の一新への資金供与を通して、コミュニティー熱供給を促進する英国全体規模の5,000万ポンドのコミュニティー・エネルギー・プログラムもある。

 他方、エネルギー白書は、液体バイオ燃料はゼロ炭素輸送の目標達成のための重要な要素となり、油料種子ナタネ、シュガービート、穀物などのバイオ燃料作物の栽培は、英国や世界の農業に新たな機会を創出すると述べた。03年5月に採択されたEUバイオ燃料指令は、バイオ燃料の輸送燃料中のシェアを各国が05年までに2%、10年までに5.75%に高めることを要請している(EU:バイオ燃料導入目標を定める新指令を採択,03.5.25)。これに対する取り組みは始まったばかりだ。利用可能な助成に関しては、02年予算で、超低硫黄ジーゼルに比べて1リットル当たり20ペンス少ないバイオ・ジーゼル燃料税率が導入された(02年7月から実施)。03年予算では、05年1月からバイオエタノールで同様な燃料税率削減が予告された。

 新たなバイオエネルギー・インフラ計画

 15日に発表された計画では、短伐期雑木(柳またはポプラ)、ミスカンサス、多種の草、森林からの木質燃料や製材などの一次加工(おが屑など)、藁、その他のエネルギー作物が対象となる。指定バイオマスを供給するための生産者集団を設立する農業者と林業者が計画を利用できる(エネルギー作物計画で資金を供給されているイングランドの集団は除く)。また、指定バイオマスを供給するビジネスも参加を求めることができる。

 生産者集団の設立については、集団設立の法的・行政的作業のための費用、事務所設備の賃借料、事務所とIT施設の購入・賃借料が補助される。生産者集団とビジネスの資本と訓練に関連して、収穫・事前加工(乾燥や裁断など)・品質保証などのための特別設備の購入、貯蔵スペース・舗装駐機場、生産者集団またはビジネスのメンバーの訓練費用が助成される。

 これは、農業者の市場アクセスと部門の投資家の信頼の改善のために、RCEPが可能な限り早期の実施を勧告していたものである。

 RCEPの勧告への応答

 政府は、バイオマスは、熱と電気の生産で化石燃料に取って代われば、二酸化炭素排出レベルの大きな削減に寄与することを認めた。それは、電力供給における更新可能なエネルギーの目標の達成を大きく助けると言う。また、バイオマスが更新可能な熱生産と熱電併給に大きく貢献するという点でも、RCEPと意見を共有すると言う。しかし、専らバイオマス・エネルギーだけを奨励するのではなく、他の更新可能なエネルギー源や、道路輸送燃料などのバイオマス原料のあり得る利用、化学原料や他の更新可能な工業用原料と比較してのその相対的便益を考慮することが重要と言う。

 RCEPの報告によると、エネルギー作物のための英国農地は700万haになり、これは土地の食糧生産からの大きな転換を意味する。今年1月の英国通産省(DTI)の分析では、エネルギーが熱よりも電気の形態と取ると仮定して、バイオマスが2020年までに英国電気供給の6%に寄与するには、35万haをエネルギー作物生産に当てねばならない。政府は、更新可能なエネルギーへの一般的アプローチに従い、現段階ではバイオマス・エネルギーの特定の目標は設定せず、土地利用の大きな変化の帰結を、関係者と共に、一層分析する仕事を続けると言う。

 RCEPの数多くの勧告の一つは、長期的にエネルギー作物栽培を奨励するためには、農業者の安全保障が必要であり、農業者にROC(更新可能な義務の認証)の資格を可能にする生産者との長期契約を発電事業者に義務付けることが、農業者に必要な安全保障を提供し、ROCシステム内の主要関係者間の公平をもたらすというものであった。また、政府は、市場が一層発展するまで、安全保障を高めるために農業者に保証された市場を提供することを考えるように望むとも述べた。

 だが、政府の回答は、エネルギー作物の開発には長期安全保障が枢要な問題とは認めながらも、関係者との協議は、義務的契約は、エネルギー作物を混合燃焼利用の増加に関心をもつ発電事業者へのさらなる拘束として作用し、目標への前進を助けないと結論したと言う。農場レベルでの追加支援についても、農村開発政策に含まれるCAPのルールに拘束されており、農民へのこの種の支払は、少なくとも当面は問題外だろうと言う。EU農村開発規則は一定タイプの資本支出のための支払は認めているが、短伐期雑木については設立費用の助成支払に限定されている。

 RCEFの他の重要な勧告の一つは、すべての新たな建築・改修プロジェクトでバイオマス燃焼熱電併給計画を採用すべきというものであった。だが、政府は建築プロジェクトでの更新可能なエネルギーの利用を強く支持しており、バイオマスは最適な更新可能なエネルギーである場合も多いが、他の更新可能なエネルギーも考慮する必要があると、すべて今後の検討に委ねている。

 インフラ計画の始動は一歩前進だが、バイオマス・エネルギーの前途は、なお多難のようだ。