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イギリス:原発なし、2050年までにCO排出60%削減、エネルギー白書

農業情報研究所(WAPIC)

03.2.25

 2月24日、イギリス政府(貿易産業省、DTI)は、長い間待たれていた「エネルギー白書」(Our Energy Future - Creating a Low Carbon Economy)で、エネルギー政策を根本的に改変、その最優先目標を地球温暖化抑止に置くことを明かにした。それは、新たなエネルギー政策の第一の目標として、地球温暖化の主要要因とされる二酸化炭素排出を、2050年頃までに1990年レベルから60%削減することを掲げた。それは、3年前、「環境汚染に関するロイヤル委員会」が気候変動の安定化のために最低限必要として勧告した数値を公式に受け入れたものである。その他の目標としては、エネルギー供給の安定確保の維持、英国内外での競争的市場の維持、すべての家庭に適切で、手頃な価格での暖房の保証が掲げられている。

 地球温暖化抑止が最優先目標とされたのは、イギリスでは、ここ数年、秋から冬のかけて、多大な被害を伴う前例のない大洪水に襲われており、これは地球温暖化との関連でしか理解できないとする認識が一般化していることに関係している。この白書の発表に際し、貿易産業相は、「気候変動は明確な、現在の危険である」と「緊急の行動」の必要性を強調している。ただ、現在、イギリスは、世界全体の2%ほどの二酸化炭素を排出するにすぎない。白書も、我々の行動が協調的な国際的努力の一部をなすのでなければ、それは気候変動へのインパクトをもたないだろうとしている。このために、将来の国の外交政策の中心的目標をこの野心への国際的約束を確保することに置くと言う。この第一の目標を含め、これらの目標が設定された背景、あるいは理由の詳細については、別のこの白書のサマリーの一部の翻訳(イギリス:エネルギー白書サマリー(部分訳))を参照して頂きたい。

 このような政策が地球温暖化抑止にどれほど、またどのように寄与できるかという問題は別として、問題はこれらの目標をいかにして達成するのか、また達成できるのかということである。白書は、社会のあらゆる分野を通じてのエネルギー効率の改善、太陽、風力、波力、バイオマスなどの更新可能なエネルギーの拡大、輸送のための「クリーン」テクノロジーの推進、2005年から始動する新たな炭素取引計画によってこれらの目標を同時に達成しようとしている。更新可能なエネルギーのシェアは、現在の3%から2010年には10%に増やすとし、2020年までに20%まで増やすという希望的目標も示している。

 温室効果ガス削減の最も有力な手段と見られる原発については、閣内の意見は必ずしも一致していなかったが、ブレア首相により、原発利用の拡大は退けられた。コストや廃棄物問題が考慮されたという。また、原発依存を認めれば、更新可能なエネルギーの開発意欲が減退するという考慮もあったようだ。ただし、その可能性が完全に消されたわけではない。原発の新たな建設は少なくとも5年間凍結され、更新可能なエネルギーの拡大で目標が達成されるならば、その後も新規の建設はないと言う。つまり、更新可能なエネルギーは5年間で原発不要の見通しを立てねばならない。エネルギー効率改善などの他のあらゆる手段を通じても、エネルギー需要を満たせないことがはっきりすれば、原発新設が再浮上することになりそうである。

 イギリスにおける更新可能なエネルギーの大部分は、今のところ風力となるが、発電量は不安定で、電力不足時の補完にとどまる可能性が高い。さらに、景観等、別の側面での環境影響を否定的に見て風力発電に反対する強力な組織も存在する。その他、波力、太陽、バイオマス、エネルギー作物栽培、小水力(ダム反対で大規模発電の拡大は望めない)などが考えられるが、いずれも発電量が不安定であるか、少なすぎる、今のところコストが高すぎる、環境への悪影響があるなど、様々な問題を抱える。石油・石炭は、二酸化炭素排出削減の観点からはすれば論外であるし、天然ガスも無闇に増えれば同じ問題が生じる。供給面からすれば、第二の目標(エネルギー供給の安定確保の維持)の達成には非常な困難が伴うように見える。

 エネルギー効率改善策としては、建築規制の変更や新築・改修家屋・電気製品の基準の強化などが含まれる。断熱設備、二重窓、ソーラー・パネルの設置、屋外での行動についても、「歩く」、自転車・バス・電車の利用、職住接近、小規模エンジンの車の購入、飛行機旅行の回避など、様々な方策の推進が提起されている。これらがどれほど効果をあげるのか、また国民にどこまで受け入れられるのか不透明である。新たな政策の2020年までの影響として、家庭のエネルギー支出は5−10%上昇、工業用電力価格、工業用ガス価格はそれぞれ25%、30%上昇すると予測されている。

 環境団体などは、原発の扱いについては歓迎しながらも、更新可能なエネルギーの2020年の目標を「希望的目標」としたことは、開発意欲を著しく削ぐとして、確たる目標に据えるように要求している。BBC NEWS によれば、世界エネルギー委員会の科学アドバイザーであるニュウカッスル大学のイアン・フェル教授は、政府の構想を「無謀」と言う。彼によれば、技術的見地からすれば、10%という更新可能なエネルギーのシェアは達成できないことはないが、2010年までには無理だし、20%の希望的目標は巨額の資金流入とエンジニアリング努力を意味する。原発新設なしでは、二酸化炭素排出削減目標を達成するチャンスはない。

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