太陽光ラッシュ ここはどこ?地方の風景は一変 世界遺産にまで触手

四万十川 熊野古道・・・

農業情報研究所環境エネルギーニュース:2016年8月20日

 このところ気になっていた四国・四万十川沿いのメガソーラー建設計画が市(四万十市)の許可を得られず、いったん白紙に戻されたという(高知県四万十市のメガソーラー建設計画を市不許可 一度白紙に 高知新聞 16.8.20)。

 旧窪川町・大正町とともに現四万十市を構成、四万十川中流に位置する旧十和村は、山村振興調査会のコンサルタント業務(オーバードクター時代のアルバイト)で訪れた全国の村々の中でももっとも印象に残る村であった。このときの調査行は石鎚山の麓の愛媛県面河村(現久万高原町)から入り、四国カルスト高原を超えて梼原村(現梼原町)を経て十和村に至るという強行軍であった。二つの村での業務を終えて最後に辿りついた十和村、中央からの補助金に頼らず、独自の開発戦略を貫いていることで知られていた。村長が村の一人の若者に工場を委ねて開発した「十和紅茶」はその象徴であった。そんな落ち着いた村の宿では、三度三度、アユとウナギを頂いた。業務を終えても去りがたく、コンサルタントの先生方が帰ったあとも一人残り、報告書の原稿を書いていたものである。

 そんな村の四万十川沿いの民有地に、「出たー!メガソーラー!」、千葉県君津市の「新昭和」がメガソーラーを建設するというのである。これでは、、高知県四万十川条例などで保護されている日本の宝ともいわれる四万十川沿いの風景も台無しになってしまう。

 「四万十川の景観を守る規定に反する」「(建設地へ)盛り土をすることで川の流れが変わり、下流の地域で災害が起きる恐れがある」という市の計らいで計画はいったん白紙になったが、油断はできない。仲介役の太陽光企画開発(東京都港区)なるものの社長は、「盛り土する高さを変更し、再度、住民の同意を得られる形で申請書を提出したい」と言っているからである。

 それだけではない。かつてのバイオ燃料ブームがもたらしたランドラッシュを彷彿させるような動きが太陽光をめぐって起きているからである。それは、軽井沢、八ヶ岳山系南麓、霧ケ峰、筑波山、富士山など日本の名だたる景勝地の風景を台無しにしてきたが、いまや地方の隅々にまで手を伸ばし、人々が毎日眺める身近な風景さえ一変させようとしている。(ここは一体どこかいな。お山のてっぺん、何しゆう―?)。

 挙句、とうとう世界遺産にまで手を付けた。紀伊民報によると、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の周辺でも太陽光パネルの設置が増えている。条例により設置には事前の申請が必要だが、和歌山県や関係市町は申請者と景観との調和を協議するだけで、設置自体は禁止できない。文化財関係者は「このまま増えれば、いずれ景観に著しい影響が出る可能性がある」と不安視しているそうである(太陽光で古道の景観に不安 紀伊民報 16.8.19)。

 太陽光をめぐって今起きていることは、まるでエネルギー資本による地方の”新植民地化”だ。それにより日本の宝である地方の伝統的風景が絶滅、地域再生で重要な役割を演じる内外からの誘客のための観光資源さえ失われることになる。 

 地方は条例によりこの流れを推しとめようと必死だ。しかし、規制緩和・撤廃(アベノミクスの第三の矢)に突っ走る現政権の下で、それも空しい抵抗となっている。せめてマスコミが苦慮する地方の応援に回ればと思うが、中央マスコミがこの問題を取り上げることは滅多にない。世界遺産が脅かされようとも、これを報じる中央マスコミは皆無だ。