農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2022年7月2日

米国最高裁 EPAに石炭発電所温室効果ガス排出規制権限なし 民主主義の危機?

 

 米国最高裁が米環境保護庁(EPA)には石炭火力発電所からの温室効果ガス排出量に一律の制限を設ける権限はないとの判断を下した。

 

 米最高裁、温室ガス規制で政府の権限を制限 AFPBB 22.7.1

 US Supreme Court curbs EPA’s power to regulate greenhouse gas emissions,FT.com,22.6.30

 Supreme Court restricts EPA’s power to cut greenhouse gas emissions, a blow to Biden’s climate agenda,The Washington Post,22.6.30
 
 石炭ガス発電所は米国最大の温室効果ガス排出源の一つをなす。この判断は、気候変動により脅かされる国民の生命や生活より、規制がもたらす石炭産業の危機を回避する方を重視したということだ。これは、「専制国家」に対峙する「民主主義国家」の「盟主」と目される米国の「民主主義」の危機を象徴する。米国最高裁はつい最近、女性が中絶する権利の合憲性にも異を唱えた。人権と自由を守る司法が機能しなければ民主主義は成り立たない

 

 米国と共に「民主主義国家」の一翼を担う日本の「民主主義」も同様だ。安倍政権以来、政治指導者は国民の意見(異見)聴く耳を持たず、「政治的な俗物」や「政治的な技術屋」(マックス・ヴェーバー)が支配する議会にはこれを修正する力がなく、絶望の裁判所も頼りにならない。最高裁は、今なお3万5000人もの福島県民が古里に還れない原発事故を防げなかった責任は国にはないと言う(原発事故、国の責任認めず 避難者訴訟、最高裁が統一判断「津波対策命じても防げなかった可能性高い」 東京新聞 22.6.18

 

 米国では、国レベルの一律の気候変動対策は否定されても、地方(州等)レベルの対策は止まらないないし、却って刺激される側面もあるようだ(As Federal Climate-Fighting Tools Are Taken Away, Cities and States Step Up,The New York Times,22.7.1)。民主主義は死んではいない。だが、日本の民主主義に救いはあるのだろうか(世界も日本も民主主義の危機 独裁者に抗う政治とは 東大・宇野重規教授に聞く 東京新聞 22.6.15