熱帯魚飼育の基礎知識 技術編


目次
濾過について
水槽立ち上げ時期の対策

濾過について

私達が魚を飼育する上で最も重要なことは,水槽内の水を魚達が快適に住むことができる河川や湖沼や海といった自然な水に近い状態に保ってやることです. この自然な水を狭い水槽内で保ってやるために行うのが「濾過」です. この濾過には大きくわけて物理濾過生物濾過の2種類があります.
物理濾過とは,水の中のゴミ等こし取る濾過です.

生物濾過とは餌の食べ残しや魚のフンからでる有害な成分をバクテリアの作用で分解して無毒化する濾過です.
この濾過は自然界の中では普通に行われているもので,河川などの水が綺麗なのはこのためす. 水槽では濾過器を使い,自然界における濾過サイクルを水槽に再現していることになるのです. 「濾過」では特に生物濾過が重要となります.
濾過サイクル
・生物濾過のしくみ

生物濾過で行われるバクテリアの働きは一般的に「硝化」と呼ばれます. まず魚のフン,食べ残した餌,水草や魚の死骸などの有機物は微生物の酵素によって分解され,アンモニアが発生します.これは魚にとって非常に有毒な成分になります.

その後,アンモニアはニトロソナモスと呼ばれるバクテリア群によって,亜硝酸塩に分解されます. この亜硝酸塩もまだ魚にとって有毒な成分です.

さらにこの硝酸塩はニトロバクターと呼ばれるバクテリア群によって硝酸塩に分解されます. この硝酸塩は魚にとってほとんど無害な成分となります.

そして水槽内に溜まる硝酸塩を水換えによって除去するというのが,水槽における基本的な濾過サイクルとなります.

水槽を立ち上げたばかりの時期には,この生物濾過が機能しておらず,図のようなサイクルによって十分な濾過が行えるようになるまでには少なくとも1ヶ月以上かかることになります.

水槽を立ち上げてから生物濾過が機能するようになるまでには一般的に次のような過程をたどります.

まず水槽を立ち上げると数日で有機物を分解する微生物が増殖します. この時期の水槽水がすこし白く濁りますが,それはこの微生物が増殖していることを示しています. またアンモニアの濃度も高い時期なので,魚を入れるのは非常に危険ですので,遠慮しましょう.

1週間程度が経過するとアンモニアを分解するバクテリアであるニトロソナモス群が増殖していきます. そのためアンモニア濃度は次第に下がっていきます. しかし,まだアンモニア濃度と亜硝酸濃度が高い危険な時期であるといえます. 水草は亜硝酸を吸収して成長しますので,水草を植えることで亜硝酸濃度を抑えるという方法もあります. 亜硝酸によって苔も元気になるために,ものすごい苔に悩まされる時期でもあります.

2,3週間が経過するといよいよ亜硝酸を分解するバクテリアのニトロバクター群が増えてきます. これで亜硝酸塩が魚にほとんど無害な硝酸塩に分解されるようになり,濾過サイクルが機能し始めたことになります.

最終的に6〜8週間で各バクテリアの働きが平衡状態になるでしょう. もちろん濾過器の種類や環境などによって,濾過が完成する時期には大きなばらつきがあります. 初心者の人は試験薬で亜硝酸濃度を測り,検出されなくなるのを確かめるのをお勧めします.

水槽立ち上げ時期の対策

水槽を新しく立ち上げてから,生物濾過が機能するようになるまでには上記のように1ヶ月以上の期間がかかります. したがって,この時期に高価な魚を入れるのはやめたほうがいいと思います. しかし,この期間を短くしたり,なんとか魚たちが住める環境を保つことはできます.

まず生物濾過で利用している微生物やバクテリアが増殖するためには,それぞれの餌つまり有機物,アンモニア,亜硝酸塩といったものが必ず必要となります. そのために水槽を立ち上げてから生物濾過ができるまで1ヶ月ほとかかるといっても,それぞれの餌がなければ思うようにバクテリアは増えません. そこでバクテリアが増えやすい環境を作ってやるのが,安定した水槽への近道となります.

まずニトロソナモス,ニトロバクターといった硝化バクテリアは好気性(酸素を好む)なので,水中の溶解酸素量が多い方がバクテリアの増加が早くなります. したがって,エアレーションを行ってやれば若干濾過の完成を早めることができるはずです.

次にバクテリアなどは濾材や底砂などの表面に付着して増えます.したがって,生物濾過を目的とした濾材には多孔質(つまり表面積が広い)ものが適していることになります. また底砂でもバクテリアは増えますので,底砂も入れたほうが濾過能力が上がります.

最後に微生物やバクテリアの餌を与えるために,この時期にあえて魚を入れるという方法があります. この魚のことをパイロットフィッシュと呼びます. 入れる魚はアンモニアや亜硝酸が高い時期でもある程度耐えられるように,丈夫で安価な魚(アカヒレ等)を選びます.

パイロットフィッシュを入れた場合,入れただけで何もしないでほうっておくと彼らはどんどん☆になって,下手をすれば全滅してしまうでしょう. そこでなんとか彼らが耐えられるように,アンモニアと亜硝酸の値を低く保ってあげるべきです. そのための方法は2つあります. 1つは有茎系の水草などを大量に植えて,亜硝酸などを吸収させることです. 2つめは活性炭などの吸着濾過を利用することです. この2つを行いながら,濃度が危険な値になる前に3分の1ほど水換えをおこなっていけば,生還率はぐっと上がるでしょう.


免責:本情報に基づいた行為によって発生した障害や損失について,一切の責任を負いません.全て自己責任で行ってください.