第0話 ???
 





最近、修一くんの様子がおかしい。


一週間ぐらい前からだろうか。
それまでは、ため息なんてつくような人じゃなかったのに。
ふとした瞬間に上の空になることも多くなった。
一緒に出かけてる時もそうだ。
そして、私のことを抱いてくれている時でさえ。

その時も修一くんは、私のことを抱きしめて、頭を優しく撫でてくれていた。
私は、この瞬間が一番幸せだ。
修一くんと出会えて、本当に良かったと思う。
でも今日は、いつもほどは幸せじゃない。
時々、修一くんが空っぽになるから。
何か悩みを抱えているのが伝わってくるから。
でも、私はなにも言わない。
ただ黙って、彼が話をしてくれるのをじっと待っていた。
修一くんは時々、学校や友達や部活の話を私に聞かせてくれる。
新聞部での活動を楽しそうに語ってくれる時の、
その瞳の輝きも私は大好きだった。

どれぐらいの時間が過ぎただろうか。
黙って待っているだけの私に、
修一くんはやがて、いつものようにポツリポツリと語りかけてくれた。
「日野先輩がさ、僕に七不思議の特集をやれっていうんだよ。
 怖い話って苦手なのにさあ……」
そうだったんだ。
でもそんなにイヤなんだったら、断っちゃえばいいのに。
そう言いたげな私の視線に気づいたのか、
修一くんは苦笑いを浮かべて言葉を続けた。
「本当はやりたくないんだけどね。でも、先輩命令だから断れないんだ。
 それに日野先輩も、僕に華を持たせてくれようと好意で言ってるんだしね」
そういうもの……なのか。
私には正直なところ、よくわからない。
よほど腑に落ちないような表情を浮かべていたんだろうか。
修一くんはそんな私を見て少しだけ顔をほころばせると、
また頭をくしゃくしゃに撫でてくれた。



そして数日後、運命の朝は訪れた。
いつものように制服に着替えた修一くんは、やっぱり憂鬱そうに見えた。
「ついに今日か……よし、頑張るぞ!」
そう言って自分に気合を入れて、部屋を出て行こうとする。
……その時私は、ヘンなものを見つけてしまった。
修一くんの肩に歪みが見える。
なんだか黒いもやもやが、ベットリとまとわりついている。
気のせい……?
いや、気のせいじゃない。
確かに得体の知れない何かが、いる。
なんだろうあの歪みは。
わからない。でも、禍々しい。
なにか、とてつもなくイヤなことが起こりそうな予感がした。
例えるならそう……もう、二度と会えなくなるかのような。
いけない…… 彼をこのまま行かせたら、取り返しのつかないことになる。
気がつけば私は、無我夢中で叫んでいた。



ダメ!
行っちゃダメ!
お願い、行かないで! 修一くん!

でも、叫びの声は修一くんに届かない。
どんなに叫んでも、彼は私の叫びを理解してはくれない。



「なに興奮してるの?
 ……心配させちゃったのかな。ごめんね。
 大丈夫だよ、なんてことないさ。
 今日は帰るのが遅くなるかもしれないけど……

 いい子でお留守番してるんだよ、ポヘ」


なおもワンワンと吠え立てる私の目の前で、ドアが静かに閉められた。



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