一週間ぐらい前からだろうか。 それまでは、ため息なんてつくような人じゃなかったのに。 ふとした瞬間に上の空になることも多くなった。 一緒に出かけてる時もそうだ。 そして、私のことを抱いてくれている時でさえ。
その時も修一くんは、私のことを抱きしめて、頭を優しく撫でてくれていた。 私は、この瞬間が一番幸せだ。 修一くんと出会えて、本当に良かったと思う。 でも今日は、いつもほどは幸せじゃない。 時々、修一くんが空っぽになるから。 何か悩みを抱えているのが伝わってくるから。 でも、私はなにも言わない。 ただ黙って、彼が話をしてくれるのをじっと待っていた。 修一くんは時々、学校や友達や部活の話を私に聞かせてくれる。 新聞部での活動を楽しそうに語ってくれる時の、 その瞳の輝きも私は大好きだった。
どれぐらいの時間が過ぎただろうか。 黙って待っているだけの私に、 修一くんはやがて、いつものようにポツリポツリと語りかけてくれた。 「日野先輩がさ、僕に七不思議の特集をやれっていうんだよ。 怖い話って苦手なのにさあ……」 そうだったんだ。 でもそんなにイヤなんだったら、断っちゃえばいいのに。 そう言いたげな私の視線に気づいたのか、 修一くんは苦笑いを浮かべて言葉を続けた。 「本当はやりたくないんだけどね。でも、先輩命令だから断れないんだ。 それに日野先輩も、僕に華を持たせてくれようと好意で言ってるんだしね」 そういうもの……なのか。 私には正直なところ、よくわからない。 よほど腑に落ちないような表情を浮かべていたんだろうか。 修一くんはそんな私を見て少しだけ顔をほころばせると、 また頭をくしゃくしゃに撫でてくれた。
そして数日後、運命の朝は訪れた。 いつものように制服に着替えた修一くんは、やっぱり憂鬱そうに見えた。 「ついに今日か……よし、頑張るぞ!」 そう言って自分に気合を入れて、部屋を出て行こうとする。 ……その時私は、ヘンなものを見つけてしまった。 修一くんの肩に歪みが見える。 なんだか黒いもやもやが、ベットリとまとわりついている。 気のせい……? いや、気のせいじゃない。 確かに得体の知れない何かが、いる。 なんだろうあの歪みは。 わからない。でも、禍々しい。 なにか、とてつもなくイヤなことが起こりそうな予感がした。 例えるならそう……もう、二度と会えなくなるかのような。 いけない…… 彼をこのまま行かせたら、取り返しのつかないことになる。 気がつけば私は、無我夢中で叫んでいた。
ダメ! 行っちゃダメ! お願い、行かないで! 修一くん!
でも、叫びの声は修一くんに届かない。 どんなに叫んでも、彼は私の叫びを理解してはくれない。
「なに興奮してるの? ……心配させちゃったのかな。ごめんね。 大丈夫だよ、なんてことないさ。 今日は帰るのが遅くなるかもしれないけど……
いい子でお留守番してるんだよ、ポヘ」
なおもワンワンと吠え立てる私の目の前で、ドアが静かに閉められた。