第一話 細田友晴
 びと





おや、初めに話すのは僕なのかい?
いやあ、緊張するなあ。
でも頑張って話すよ、よろしくね。
僕は細田友晴。二年C組です。

早速だけど、学校に毎日来てるのは僕たち学生だけじゃないよね。
じゃあ、他に毎日来てるのは誰か?
そう、先生だよ。
当たり前のことだけどさ。
重要なことだよ、これは。
先生とは、嫌でも毎日顔を付き合わせることになるんだ。
先生次第で、学校って楽しくもつまらなくもなるものだよね。
坂上くんって言ったね。
君はどう? 担任の先生のこと好き?


へえ、そうなのかい。
それは素晴らしいことだね。
僕なんか、なんだか知らないけど
担任の先生とずいぶんウマが合わなくてさあ……。
先生ときたら、僕に対して露骨に嫌悪感を表すのさ。
まったく、ついてないったらありゃしないよ。
そりゃ、先生たちだって人間なんだから、
いいところだけじゃなくて、悪いところだってあるよね。
色んな先生がいるのだって当然さ。
中にはもちろん、素晴らしい先生もいると思うよ。
教師ドラマに出てくる主人公のようにね。
親身になって生徒のことを考え、力になれるように行動してくれるような。
でもさ、すべての先生がそうかって言われると、答えはやっぱりノーだよね。
今の時代、ニュースをちょっと見るだけで、腐るほど転がってるでしょ?
体罰をふるう先生、特定の生徒にだけえこひいきする先生、
女子生徒に手を出してしまうような先生……。
聖職者だからって、素晴らしい人間ばかりとは限らないってことだね。
今日僕がするのは、そんな先生に関する話だよ。
君はまだ一年生だから知らないかもしれないけど、
去年までうちの学校には、浅岡っていう国語の先生がいてね。
彼がどんな先生だったかというと……一言で言うと、最低の教師だったんだよ。
坂上君、浅岡先生はどういう部分が最低だったかわかるかい?


生徒に無関心で、何の興味も示してくれない先生だった?
ははは、そうだよね。
普通はそんなことを想像するよね。
うん、たしかに浅岡先生はそういう人だった。
実際のところ、なにか理想を持って先生になったわけじゃなかったんだろうな。
でもね、僕が浅岡先生を最低だと言ったのは、それだけの理由じゃないんだ。
……彼の授業は、とりたてわかりやすいわけじゃないけど、
酷くわかりにくいというほどでもない。
生徒から好かれもしなければ嫌われもしない。
そんな、空気のような存在の先生だったんだよ。
じゃあ、なぜ彼が最低だったのかって?
答えは簡単。彼が犯罪者だったからだよ。

それもね、彼のやってた犯罪は、実に卑劣なものだった。
わかるかい?
答えは……盗撮、だよ。
学校のあっちこっちにカメラを仕掛けてね。
女子生徒を隠し撮りしてたんだ。
それもね、自分の欲望を満たすためじゃなくて
撮影した映像を売りさばいて儲けるためだったのさ。
最低の教師だよね。酷い話もあったもんだよ。
浅岡先生がカメラを仕掛けた主な場所は女子更衣室、そして女子トイレだったんだ。
更衣室はともかくとして、
トイレなんて人が一番落ち着いて一息入れられる、
完全にプライベートな空間じゃないか。
僕らに、ひとときの安らぎと至福を与えてくれる安息の地だよ?
その神聖な憩いの場に、
あろうことか隠しカメラを仕掛けて盗撮するなんて、まったく、許されないよ!
………………ごめん、興奮しすぎたね。
僕はトイレが大好きなもんでつい。申し訳ない。

話を戻すよ。
教師だったら、誰にも怪しまれることなく、
早く学校に来ることも、遅く帰ることも出来る。
浅岡先生は、その立場を巧みに利用していたのさ。
朝早くカメラを仕掛け、誰もいない放課後にそれを回収する、というやり方でね。
浅岡先生が、どれぐらいの期間盗撮を続けていたのかまではよくわからないけど、
彼の犯している行為に気づくものは誰一人としていなかったというからね。
それに最近はさあ、カメラとかもびっくりするぐらい
高性能化と小型化が進んでるでしょ?
昔はそれこそ、映画の007しか持っていなかったような
びっくりするほどの超小型カメラなんかが、普通に買えるそうじゃないか。
映像の編集だって、素人がお手軽に出来るし、いくら複製を作っても劣化しない。
おまけに、それを売りさばくのにおあつらえ向きの、
インターネットという環境まであるときた。
技術が進歩するというのも、いいことばっかりじゃないよね。
いつの時代にも、そういう最先端の技術を悪用する人間ってのはいるものさ。
……でもさ、神様って本当にいるのかもしれないよ。
悪いことは出来ないものだね。
浅岡先生には、見事に天罰がくだったんだから……。

その日、浅岡先生は学校から家に帰ったあと、
いつものように撮影した動画の確認をしていた。
何時間も撮影された固定カメラの映像を早送りでチェックし、
上手く映ってる部分だけ抜き出して編集するためさ。
ところがその日は、どのカメラにも使い物になりそうな映像は映っていなかった。
「ちっ、今日はてんで駄目だな……」
ぼやきながら浅岡先生は、最後の一本をセットした。
それは、新校舎二階の南側にある女子トイレの、
一番手前の個室に仕掛けられていたものだったらしいんだけどね。
早送りでざっと見てみても、やっぱり女生徒は誰一人として入ってきていない。
ところがね、一瞬だけカメラの端を、
なにか小さいものが横切ったように見えたんだ。
浅岡先生は、映像を巻き戻して普通の早さで再生してみた。
……やっぱり見間違いじゃなかった。
素早い動きで、画面端を走り抜けるものがあったんだ。
それはとても小さく、等速で見たときでも素早い動きをするものだったから、
早送り中に、たまたま浅岡先生が見つけられたのは、
ある意味では奇跡に近かったかもしれないね。
「なんだこりゃ?」
はじめはネズミかなにかかと思った。
でも今は、学校のトイレだって綺麗になってるからね。
ネズミなんかが個室の中をちょろちょろしてるのは不自然な話さ。
それに何よりも……体の色がね、鼠の色じゃなかったんだ。
肌色に見えたというんだよ。
これは一体なんなのか、浅岡先生は首を捻ったけど、
端っこの方に一瞬映り込んでいる程度だったから、
結局、その正体はわからなかった。
別にそれほどの興味もなかったしね。
でも、その数日後、浅岡先生は再び
カメラ越しの映像でそれを目にすることになったんだ。
今回もそれが映り込んでいたのは、やっぱり同じトイレ内の同じ個室。
今度は、ちらりと一瞬横切った、なんてもんじゃなかった。
はっきりとね、カメラの中央に映り込んでいたんだよ。
映り込んでいた、というのは正しい言い方じゃないかな?
その得体のしれない生物は、
無人の個室の便器の中から突如、這いずり出てきたのさ。
それを見た浅岡先生は、思わず小さく声をあげてしまったよ。
それがどんな外見だったかというと……。
そうだね、一言で言うと「こびと」だった。
坂上君、こびとってきくとどんなイメージを思い浮かべるかい?


そうだね、「こびと」とだけ聞くと、
童話に出てくる、例えば親指姫や、靴を治してくれるこびとのように
愛くるしいものを連想する人が多いかもしれないね。
だけど、そんなもの可愛いものじゃないんだよ。
僕がこびとって表現したのは、それが文字通り小さい人間のようだったから。
ただそれだけなんだよ。
その生物には、はっきり言って可愛さなんて微塵も含まれていなかった。
肌色に見えた、ってのはさっき話したよね。
そう、そのこびとは全身が肌色だった。
禿頭……というよりも、体毛が全身にまったく生えてなくてね。
体長は10cmを少し越えるぐらい。
頭部が不自然に大きい以外は、人間をそのまんま
小さくしたような容姿ではあったけど、二足歩行はしてなかった。
ゴキブリのように四つんばいで個室内を這いずり回っていたんだよ。
「なんなんだこいつは……」
浅岡先生は蠢くそれを見て、ただただ呆気に取られた。
こんな生物、見るのはもちろん初めてだ。
大体、ボットン便所でもないのに、
便器の中からそんなものが出てくること自体がおかしいじゃないか。
しばらくこびとは、個室内を這いずり回っていた。
だけどその時、女生徒の笑い声が外から聞こえてきたんだ。
どうやら、数人で連れ添ってトイレに入ってきたらしい。
その声が聞こえたせいか、こびとは素早い動きで便器の中に飛び込んだ。
そしてそれっきり、中からは現れなかったんだよ。
「おいおい、トイレにこんな生き物がいたのかよ……」
浅岡先生は、興奮したよ。
得体は知れないけれど、これはきっと新種の生物に違いない。
誰も見たことも聞いたこともないような、これほどにセンセーショナルな映像だ。
テレビ局に持ち込めば、きっと高い金で買ってくれる。
でも浅岡先生は、よくよく考えると当たり前のことに
すぐに気づいて、舌打ちをする羽目になった。
「バカか俺は。こんなもの持ち込めるわけがないじゃないか」
そう、例えどんなに珍しいものが撮れていたとしても、
これは女子トイレの盗撮映像なんだよ。
そのことが世間に知られたら、一発で逮捕されるに決まってるじゃないか。
でも、せっかく見つけた金の卵だ。
このまま放棄してしまうのはあまりに勿体ない。
坂上君、それで浅岡先生はどうしたと思う?


うん。彼はなんとかして、こびとを捕獲しようと思ったんだ。
そうしてしまえば、盗撮がどうなんて関係ない。
他の場所、例えばトイレのすぐ側でたまたま捕まえた
とかなんとか言えばいいだけの話なんだからね。
もしかすると、新種の生物の発見者として
歴史に名を残すことすら出来るかもしれないんだ。
浅岡先生の欲望はどんどん膨らんでいったよ。
でも、こびとを捕まえるためには、その習性を知らなければならない。
こびとはあの一匹だけなのか?
それとも、他にいっぱいいるのか?
普段はどこに隠れているのか?
何を食べているのか?
いつ活動しているのか?
とか、そういうことをね。
そういえばこびとは、女生徒の声を聞いて慌てて逃げ出したように見えた。
ゴキブリやネズミのように、用心深い生き物なのかもしれない。
そうなると、ますます捕獲は困難なものになる。
ましてや、潜んでいるのが女子トイレっていうんじゃね。
「待てよ。ゴキブリやネズミのように、か……」
ひょっとすると夜行性なのかもしれない。
その考えに至った浅岡先生は、今度は放課後に
例の個室にカメラを仕掛けて、一晩置いた後に回収することにしてみたんだ。
……結果から言うとね、大当たりだったんだよ。
時間でいうと真夜中。ちょうど日付が代わったころぐらいかな?
便器の中から、こびとが何匹も出てきたのさ。
そして、好き勝手に個室内を這い回っていた。
一匹だけでも気色悪い生き物なんだ。
それらがもつれ合って蠢く様子は、見てるだけで吐き気を催すような、
とても気持ちの悪い映像だったそうだよ。
意味もなく這い回っているだけで、なにがしたいのかさっぱりわからなかった。
まさに、夜中に下水道で蠢くゴキブリのようでさ。
こびとたちは、明け方近くまで好き勝手に動き回ると、
また便器の中へと消えていった。
……これで、少なくとも二つのことが明らかになった。
こびとは一匹だけなのではなく、複数いるのだということ。
そして、恐らくは夜行性だということ。
でも、それがわかっても、どうやって捕まえればいいのかということが
浅岡先生にはさっぱり思い浮かばなかった。
場所が場所だけに、罠を仕掛けることも出来ないしね。
さあ、どうする?


浅岡先生は、正攻法で攻めることにしたんだ。
作戦はこうだ。
深夜、学校に侵入して、例の女子トイレの前まで物音を立てないように近づく。
そして、頃合いを見計らって一気に中に突入し、
こびとたちが便器に逃げ込む前に、虫取り網で捕獲する。
……笑っちゃうぐらいシンプルだよね。
でも、他にどうしようもなかったからね。
小難しく考えるより、そういうやり方のほうが案外上手くいくものかもしれない。
坂上君、君は深夜の学校を訪れたことがあるかい?
ないだろうね。僕もないよ。
でもそれが、どんなものか大体想像はつくよね。
あの、広い広い校舎の中にただ一人……。
他に動くものはなにもない。聞こえてくるのは、自分の息づかいだけ。
相当怖いものだと思うよ。
昼間は賑やかな分、余計にね。
でも、そんなの浅岡先生にとってはどうってことなかった。
こびとを捕まえることさえ出来れば、
バラ色の未来が待ってるって信じて疑わなかったからね。
欲深い人だよ、まったく。
浅岡先生は、深夜一時過ぎぐらいに学校に忍び込んだ。
目的の階まで辿り着くと、そこからは物音を立てないよう、
慎重に慎重に女子トイレまで進んでいったんだ。
懐中電灯すらつけずに、月明かりだけを頼りにね。
……そしてようやく、彼は女子トイレの前まで辿り着いた。
耳を済ますと、かすかにカサカサという音が聞こえてくる。
念のためにしばらくそうしていたけど、どうやら気のせいではないらしい。
チャンスは今だ! そう思った浅岡先生は、トイレの中に飛び込んだ。
一息の間に、手前個室のドアを乱暴に明ける。
そこにこびとたちは……いた。
突然の乱入者に驚くかのように動き回るこびとたちの群れを目掛け、
浅岡先生は夢中で虫取り網を振り下ろした。
パサリという音がトイレ内に響いたあと、
今度はトプンという小さな水音が何度か続いた。
どうやら、ほとんどのこびとは虫取り網をかわして、
便器内に飛び込んでしまってたらしい。
だけど……いたんだよ、虫取り網の中に一匹だけ。
彼は、見事にこびとを捕獲することに成功したんだ。
浅岡先生は、興奮と感動に震える手で、
うっかり逃がしてしまわないように虫取り網の上からこびとを掴むと、
虫かごの中に放り込んで蓋をした。

すぐに浅岡先生は、学校を出て自宅へと戻ったよ。
ビールを飲んで一息つくと、喜びが込み上げてきた。
「やった、やったぞ……!
 これできっと、大金と名声が俺のものになるんだ」
そしてとりあえずは、これまでカメラ越しにしか見ることの出来なかった
こびとをよくよく眺めてみることにしたのさ。
至近距離で見て初めてわかったんだけど、
こびとの目は異様に大きく、眼球が飛び出していた。
おまけに黒目がない。白目だけをギョロギョロとさせていてね。
「まったく、見れば見るほど気色悪い生き物だな」
威嚇するかのように大きく開けた口の中には、鋭い牙が無数に生えているのがわかった。
あれに噛まれたら危なかったかも知れない。
なにせ、便器の中に潜んでるような生き物だ。
どんな得体の知れない菌がいるかわかったもんじゃないしね。
何事もなく捕まえることが出来た自分は運がいい、浅岡先生はそう思ったよ。
でもね、彼のその悪運も、間もなく尽きようとしてたのさ。
その時初めて、こびとが鳴いているような声を発してるのに浅岡先生は気づいた。

ぷしゅ……じゅるる…………きゅきゅきゅきゅきゅきゅるるぴーーーーー。

あえて言葉にすると、こんな感じかな。
こびとは、口の両端をぶくぶく泡立てながら鳴き続けていたんだ。
人を不快にさせるような声でもあり、不安にさせるような声でもあった。
この声……まさか、仲間を呼んでる?
浅岡先生は、なぜか直感でそう感じた。
それと同時だったよ。家のトイレの方から、なにか物音が聞こえてきたのは。
そう、なにか小さな生き物が無数に這い回ってるかのような……。
浅岡先生はトイレの前まで行くと、ドアを耳にそっと当ててみたんだ。

カサ…カサ……カサカサ……カサカサカサカサカサカサカサカサ……

全身に鳥肌がぶわっと立った。
ドアを隔てた一枚のところに、こびとたちがいる。
浅岡先生はそう確信したよ。
そして彼のとった行動は……何だったと思う?


その時に逃げ出せば良かったのかもしれない。
でもね、彼は恐る恐るドアを開けてしまったんだ。
もっと数多く捕まえたいという欲だったのか、
あるいは、こびとたちの得体の知れない魅力に引き込まれてしまったのか……。
それは僕にもわからない。
「う、うわーーーーーーーーーーーーーっ!」
ドアを開けた瞬間、浅岡先生は絶叫した。
やっぱりこびとたちはいたんだよ、無数にね。
その数は、百や二百じゃきかなかった。
床だけじゃない、壁にも、天井にも、びっしりとこびとたちは張り付いていた。
トイレ内が、見事なまでに肌色一色だった。
便器の中からは、まるでごぼごぼと水が溢れるかのように、
今もなお、こびとが出続けていたのさ。
こびとたちの白い目が、一斉に浅岡先生に向けられた。
そして次の瞬間、数え切れないほどのこびとたちが
彼の姿を目掛けて襲いかかってきたんだ。
「ひいっ! や、やめろぉぉぉぉぉ!」
浅岡先生は、夢中で足下に群がるこびとたちを踏みつぶした。
ねちゃりという不快な感触が足の裏に広がり、ねばねばした黄土色の体液が飛び散った。
だけどね、数匹ぐらい潰したところでどうしようもなかったんだよ。
こびとたちは、仲間の死体を踏み越えて、次々と浅岡先生の体に登ってきた。
どれだけ踏みつぶしても、振り払っても振り払っても、
どんどん新手がやってくる。
「うおおおおおお……うわあっ!」
必死でもがいてるうちに、浅岡先生は体液に足をすべらして転んでしまった。
その体にこびとたちが一斉に群がる。
眼前に、牙を剥きだして涎を垂らすこびとの一体が迫ってきた。
「やめてくれ! やめてくれぇぇぇぇ!」
噛み殺される! そう思った。
だけど、こびとのとった行動はその逆だったんだよ。
わかるかい? 坂上君。
こびとはね、浅岡先生が恐怖で絶叫している
その口の中に潜り込んできたのさ。
「……! ぐごおぅぅ!」
浅岡先生は慌てて口を閉じた。

ぐちょり。

こびとは、いともあっさりと潰れた。
今度は口の中いっぱいに、不快な感触と苦み
そしてどぶ川のような香りが広がる。
浅岡先生はたまらず、それを吐き出そうとした。
でもこびとたちはね、その隙を見逃さなかったよ。
開かれた口の中に、一匹、また一匹と次々に飛び込んでいったのさ。
「おっ おごお゛お゛ぁぁぉぉぉぉぉぉぉ!」
酸っぱいものが込み上げてきたけど、
それを吐くことすらもう許されなかった。
こびとたちは、口を越え、喉を越え、次々と胃の奥まで侵入していった。
浅岡先生が白目を剥いてビクビクと痙攣しても、
許すことなく延々とね。

……それから数日後、学校を無断で休んでいたことを訝しんで
家まで来た教師によって、浅岡先生の死体は発見された。
お腹がパンパンに膨れあがってて、まるでダルマみたいになってたんだってさ。
無理もないよね、何百匹というこびとが体の中に入っていったんだから。
お腹どころか喉のところまで、なにか得体の知れない肉がみっしりと詰まっていて、
体内には一分の隙もなかったらしいよ。
その肉の強烈な悪臭には、解剖医も辟易したという話さ。
でも不思議なことに、トイレ中を埋め尽くすほどの量だったはずの
あのこびとたちは、一匹残らず消えていたんだ。
はじめに虫かごの中に捕まえられたあの一匹もね。
そして、家に残されていた映像によって
浅岡先生が働いていた悪事は露呈したんだ。
犯人は既に故人だし、あまりにも異様な死に方だったからということで、
そちらにばかり焦点がいってしまい、
盗撮の事実自体は、ほとんど事件にならなかったんだけどね。
考えようによっちゃ、こっちの方がよっぽど怖いかもなあ……。

それにしても、あのこびとたちの正体は一体なんだったんだろうね。
今のところ、他に誰かが襲われたという話は聞かない。
それどころか、目撃談すらないんだ。
だからこの怪事件って、結果だけ言っちゃうと、
最低の教師が一人死んだだけなんだよね。
もしかすると、トイレの神様が不届き者に罰を与えるために
地上に使わしてくれた天使だったのかもしれないよ。
……なんて思っちゃったりして。ははははは。
まあ、もし見かけたりしちゃっても、
捕まえようなんてことは考えずにそっとしておくことだね。
そうすればきっと平気さ。
大丈夫、例え種族は違えども、
トイレを愛する者どうしならきっとわかりあえる、
僕はそう信じているんだ。


さ、僕の話はこんなもんでいい?
他の人の話を聞くのが楽しみだなあ。



←第0話へ ↑トップへ →第二話へ
BGM by M@RON'S ROOM