-+お題「10.世界が壊れる五分前」(後日談)+-

世界が壊れる五分前(後日談)









lineline


 やっと堂々とアッシュの顔を間近に見られる。捕えられているイオンに申し訳ないと思いながらも、アッシュのことを思うだけで胸が ドキドキと高鳴るのを抑えられない。
 事前にローレライを交えて示し合せた通り、今のところは以前と同じように歴史を進んでいる。変わったとすればルーク自身の態度だろうか。 もうあの頃と同じようなふるまいはできなかったし、アッシュ達も細かい言動まで全く同じになぞらなくていいと言ってくれた。
 ルークとしてはそれよりも、大爆発(ビッグバン)のことが怖かったのでフォンスロットを開きたくなかったのだが、いつでも連絡が 取れる手段は必要だということで押し切られてしまった。ローレライができる範囲でフォローしてくれるというが、どこまで当てにして いいものやら。
 …などと本人に言ったらかなりの無茶をして予想斜め上の対応をしてくるだろう。様々な意味で、自分とアッシュはローレライとも 完全同位体なのだと、音譜帯に居る間にルークは思い知った。
 計画通り、ヴァン師匠は油断している。『レプリカルーク』は自分に何の疑いも抱かず盲信していると確信しているはずだ。このまま 密かに先んじて、アクゼリュスの住民達を―――――と考えていると、自然に体は動いていたのか、あの雨の景色が目の前に広がった。 古い油の匂いが染み付いた廃工場から外に出られたのだ。

 待ち受ける、アッシュ。

「イオンを返せ!!」
 あの時と同じように。
 芝居も演技も得意ではないが、本気でイオンを取り戻すつもりで斬りかかる。
 あの時の忌々しそうなアッシュの表情が脳裏を掠めるが、目の前の(二度目の)現実は少し違った。
(…なんか、ニヤリって感じだったんだけど…、え?)
 たらりとこちらも微妙な冷や汗。ルークの剣を受けるアッシュの顔は、恐らく仲間達には不遜かつ余裕の嘲笑と受け取られているんじゃ ないだろうか。
 剣の押し合いになり、アッシュが強引に押し弾いて間合いを取る。そうこうしている間に、確かシンクがアッシュを止めて、と今後の 展開を頭の中でなぞっていたルークは、アッシュの突然の行動への対応が遅れた。
 自分から取った間合いを瞬時に詰めて、左手でルークの腰を引き寄せる。
「へ!? ふぁっ」
 ルークがぎょっとした隙を逃さず、ばくりと食べるような勢いのキス。
「みゅっ!?」
「!!」
「!!!」
「!!!!」
「!!!!!」
「…」
「…」
「…」
 ミュウが、ティアが、アニスが、ナタリアが、ガイが、目と口をぱっかり開いて硬直。ジェイドとシンク、イオンは真顔のまま一時停止。
「ん、ん〜っっ」
 右手でアッシュの髪をつんつん引っ張り、肩をぽすぽす叩くが、全くもって効果なし。それどころか深く腰を抱え直して更に激しく貪ってくる。
「ん〜!! んっ、ん〜〜〜っっっ………ぅ、ん…は……」
 弱点なんてとっくに知り尽くされている上、困ったことにルークはキスに弱かった。
 抗議していた筈の喉が、甘く鳴き始める。
 激しく貪られ、あやすようになぶられ、呼吸さえ二人で紡ぐように。
 蕩かされてゆく。
 頭のシンがぼうっとする。左手に握っていた剣がするりと落ち、膝と腰から力が抜ける。両手で縋っていなければ、まともに立っている こともできない。
 ずるずると膝を付いてしまう。唾液が薄く糸を引いて唇が離され、ほぅ、と息をついた瞬間、誰かがごくりと喉を鳴らした。
「………な………にすっ……」
 上がってしまった呼吸。落ち着かせようとアッシュにしがみつきながら目を閉じたルークは、気付かなかった。

 ―――アッシュがちらりと横目でガイ達を睨んで、それからふっと勝ち誇った意地悪な笑みで彼らを一瞥したことを。

「――――――っ離れろ貴様!!!!!」
 かっと頭に血を昇らせたガイが剣を抜いて斬りかかる。ガイにしては珍しい感情まかせの粗い斬撃を難なくかわすと、アッシュはさっさと 陸艦に飛び乗って去ってしまう。
「………あ! ああ〜っ!! イオン様がぁ!」
「はっ、い、いけない!」
 続いて我に返ったアニスとティア。ジェイドは生温い笑顔を浮かべて眼鏡のブリッジを押した。
「熱ぅ〜いラブシーンを見せつけられている間に、烈風のシンクがさっさと準備を済ませていましたよ」
「まあ! 気付いていたのなら何故止めなかったのです!?」
「いやぁ〜、いつまで続くのかと。若いですねぇ、私のような年寄りには刺激的でいけません」
「大佐っっっ!!!!」
 ジェイドが女性陣に囲まれて責められ、はっはっはとわざとらしい笑い声を上げている間、去り行く陸艦を追おうとするガイを、なんとか 立ち上がったルークが必死で止めていた。あっという間に遠ざかって行く陸艦に、今度は剣圧で衝撃波まで飛ばそうとする始末。これは 完全にブチ切れている。
「ガイ、落ち着けって! あれにはイオンが乗ってんだぞ!!」
「止めるな!! あの野郎、海の藻屑にしてやる!!!」
「あっちは海じゃねぇって!!」
『てめぇ、この屑!! この俺がキスしてやった直後に他の男に抱き付いてんじゃねぇ!!』
「イテッ、なんだよそっちから見えてんのか!?」
『いい度胸だ…今度会ったら丸一日足腰立たねぇようにしてやる、覚悟しておけ!!』
「ちょっ、脅すポイントそこかよ!! つーか、よく見ろって! 羽交い締めだっつーの!!」
「くそっ、あいつ…俺の可愛いルークによくも…!!」
『あ゛ぁ!? 誰のルークだっつったテメェ!!』
「俺の頭ん中で怒鳴っても聞こえねぇぇーっつーのー!!」

 この混乱が収まるまで、更に約十五分。



「…なんであんな事したんだよ…おかげでこっちは大混乱通り越して修羅場だっつぅーの…」
『フン。元々お前ら、今の段階じゃ大して仲良しこよしでもなかったんだろう』
「そういう問題じゃねぇよ…」
『いつまでもブツブツうるせぇぞ。俺がお前にキスしたかったからしたんだ。文句あるか』
「っっっ…、おま、お前、さらっとそういう事…!!」
『まあ、それと…牽制だな』
「は?」
『現にガイの奴、言うに事欠いて「俺のルーク」だとか抜かしやがったからな…。導師守護役(フォンマスターガーディアン)のガキは 単に財産狙いだから除外するとして、あのメガネも腹の底で何考えてやがるかイマイチ読めねぇし、感じてるお前に見惚れていたヴァンの 妹も油断ならねぇ。その上、今のナタリアは今のお前のことを認めているようだから、俺とナタリアでお前の取り合いになる可能性もある』
「…それ、俺とナタリアでアッシュの取り合いの間違いだろ…」
『ああそうだ、イオンはまたザオ遺跡だ。早く来やがれ』
「切り替え早っ!! ていうか、遺跡でも会うじゃねーか! また何かする気じゃねぇだろうなっっ!!!」
『ほう? されたくないのか? なら今後二度と一切しないでやってもいいんだな?』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!! ア、アッシュの意地悪! 根性悪〜!!」

 オアシスに到着するなり日陰でへたり込んだルークが、密かにアッシュとこんなやり取りをしていたことが仲間に知られたら、また更に 一悶着あったことだろう。
 現に後日アッシュとの便利連絡網のことを詳しく知ったガイが大変憤慨していたのだが、キリがないのでここで終了とする。




END



RETURN

UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)

 (ガイの)世界が壊れる五分前。