世界が壊れる五分前(後日談の更にオマケ)
「あんたの時間稼ぎのおかげで、追い付かれたわりにさっさと出発できたよ。…っていうことにしておいてあげるよ、今は」
甲板に立っていると、後ろに立ったシンクが意味ありげにちくりと一言。
「あんたもヴァンに付き合って、懐柔策に乗っかることにしたわけ?」
「ヴァンと一緒にするな。あれは俺の物だ…なにしろ、俺のレプリカなんだからな」
視線だけを後ろに走らせてそう告げると、シンクは呆れきったため息をこぼし、肩まで竦めて見せた。
「僕にまで牽制してどうすんのさ。誰彼構わず噛みつくのも考え物だよ」
付き合っていられないとばかりに船倉へ去ったシンクと入れ替わるように、イオンがやってきた。特に身柄を拘束されてはいない。
神託の盾(オラクル)の兵が導師に対して、そんなことができるわけがない。
彼は確かに六神将が捕えてきたが、虜囚ではない。本来この船に乗っている全員のトップにあたる人物なのだから。
「この艦はどこへ向かっているのですか?」
「方角としてはケセドニアだ。ザオ遺跡のセフィロトに向かう」
「そうですか」
いつもの柔和な微笑みを浮かべ、そっとアッシュの隣へ歩み出るイオン。
「…さっきは、驚きました」
「………」
「あなたはルークの命を付け狙っていると聞いていたので、てっきり彼を手に掛けるつもりじゃないかと…」
「…本当はそのつもりだったと言ったらどうする」
特に意味などない、ほんの思いつきから出た言葉だった。暇つぶしの雑談に来たのなら乗ってやろうという程度の。実際『一度目』の
自分はこの段階でルークのことを殺してやりたいほど憎んでいたのだから、有り得なかったことではない。もしそんなことをしようと
してもシンクが止めていただろうが、ルークに特別な友情を抱いていたらしいイオンはどうしただろう。そんな興味もあったのかもしれない。
だが、アッシュはすぐにその不用意な返答を後悔した。
「…アッシュ。彼は僕の大切な友人なんです」
にっこりと。
それはそれは優しい心からの笑みで、導師イオンは微笑む。
「もしもルークに何かあったら、この陸艦を乗務員ともども跡形なく吹き飛ばすくらいのことはして見せますから、覚えていて下さい」
それはまるで、苦しんでいる人を見ていられないからひと思いに一瞬で殺してあげました、とでも言っているかのような。
「勿論、今後さっきのような行為を、彼の合意なく行なった時にもです」
成程、彼がオリジナルイオンの代替として選ばれたわけだ。
(…ルークてめぇ…今からでもいい、前と同じ我侭お坊ちゃんに態度を切り換えろ)
この調子で誰彼構わず愛想を振り撒かれては、恋敵が増える一方ではないか。
うっかり面倒な相手を警戒させてしまったと、ニコニコ微笑むイオンを前に、溜息をつきたくなってしまうアッシュであった。
END
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
イオンが世界を壊すまで、あと何分?